コラム:ユニークな視点を持つライター陣が、ICTの最新動向やキーワードに切り込むほか、造詣が深まる話を展開。

メールマガジン購読お申込み

2011年10月11日号

第6回:マイクロソフトはWindows 8によって、スレートPCでの巻き返しを果たせるのか?

iPhoneやAndroid端末などのスマートフォン、KindleやiPadなどの新しいメディアデバイス、ネットワークに繋がったデジタル家電などが次々と登場し、ビジネスの現場で働く人たちが情報にアクセスする入り口は、日々多様化している。そうしたデジタルデバイスがワークスタイル、企業の情報システム、そしてビジネスをどう変えていくのかを紹介する。今回は米国時間の2011年6月1日に発表された新OS、「Windows 8」を取り上げる。


Windows 7の後継OS「Windows 8」を正式発表


マイクロソフトによるWindows 8に関する
情報発信は日を追うごとに増えている

米国時間の2011年6月1日、米マイクロソフトは、Windows 8を正式に発表した。
Windows 7の後継OSであるとともに、新OSはスレートPCにも最適化したものとマイクロソフトは位置づけている。
「Windows 8の新たなインタフェースを見て、まったく異なるものが登場してくるのではないかと考えるユーザーもいるだろう。だが、確かなのはこれまでのWindowsの路線から変わるものではないということ。そして、Windowsが動くデバイスの選択肢を広げるものになる」と同社幹部は語る。
デバイスの選択肢を広げるという言葉からも、Windows 8がこれまでのようにPC向けのOSとして位置づけられるのではなく、スレートPCの世界にも踏み出すものであることが示される。
同社の発表によると、Windows 8が登場するのは2012年。同OSを搭載したスレートPCの登場も、やはり2012年まで待たなくてはならない。
しかしその一方で、スレート端末で先行するiPadやAndroidを牽制するため、マイクロソフトは、一日でも早くその概要を公開しようとしている。
5月23日に来日したスティーブ・バルマーCEOが、6月1日の正式発表を前に公には発言していなかったWindows 8という名称を使いながらプレゼンテーションを行い、日本から正式名を発信。さらに9月には、米アナハイムで全世界の開発者を対象にしたイベント「Build」で、Windows 8に関する情報を公開するといったように、積極的に情報発信を開始している。
8月には、Windows 8の開発を統括するスティーブン・シノフスキープレジデントが、新たなブログをスタートした。このなかで、Windows 8の開発チームは35の機能開発チームで構成され、各チームには40人程度の開発者が参加していることを明らかにしている。この情報から、どんな機能に力を注いでいるのかも推測できそうだ。
また、最近では、マイクロソフト幹部がプレゼンテーションを行う際の資料も、Windows 8特有のメトロUI(ユーザーインタフェース)を意識したタイル型の表示を多用しており、これもWindows 8の印象を色濃くするための演出といえる。

Windows 8へとつながるWindows Phone 7.5


マイクロソフトがプレゼンテーションで使用する
スライドでは「メトロUI」のイメージが増えている t

その狙いに触れる前に仕様を確認しておきたい。
そのメトロUIは、すでにスマートフォン向けのWindows Phone 7で採用されている。最新版となるWindows Phone 7.5は、開発コードネームがMango(マンゴー)。リンゴよりも糖度が高いということで名付けられたと言われるように、アップルのiPhoneを強く意識したものである。
日本でも、KDDIから富士通東芝モバイルコミュニケーションズ製のWindows Phone 7.5搭載のスマートフォンが9月から発売され、いよいよこの分野でも反撃の狼煙をあげる。
日本マイクロソフトの樋口泰行社長は、「絶対に失敗できない分野。ここでやめることがあったとしたら、我々は2度とこの市場には参入できない」と不退転の決意で取り組む姿勢をみせる。
Windows Phone 7.5を搭載したスマートフォンの発売を足がかりに、ユーザーインタフェースではスレートPCとの連動性を訴求しながら、Windows 8への流れを作ろうとしている。

コマーシャルでの実績を生かすことができるのか?


KDDIが発売する富士通東芝
モバイルコミュニケーションズ製の
Windows Phone 7.5搭載のスマートフォン「IS12T」

話をWindows 8に戻そう。
Windows 8でマイクロソフトが目指しているのは、コンシューマーデバイス向けのOSではなく、コマーシャル領域においても十分使えるOSだ。これは、これまでのWindows戦略と異なるものではない。そしてこの点が、アップルのiPadやグーグルのAndroid搭載スレート端末とは一線を画すものだといっていい。
スティーブ・バルマーCEOは、「コンシューマーで得たノウハウをコマーシャル分野に応用することは、これからの重要な流れだといえる。そして、マイクロソフトはその流れにおいて、コマーシャル分野で先行した強みを生かすことができる」と、コンシューマーおよびコマーシャルでの実績が、Windows 8の世界で差別化につながると位置づける。
マイクロソフトは、Windows 8搭載のスレートPCによって、コマーシャル領域への提案を加速することになるのは明らかだ。それが先行するスレート端末との明確な差別化になるとみているからだ。
スレートPCを、一般的なPCのように生産性向上のためのツールとしての活用は難しいとする一方で、店舗などにおける顧客接点で活用するツールとして、あるいは保険業界などにおいて訪問先で活用するツールとしての利用提案のほか、全世界で利用されているWindowsベースのアプリケーションをWindows 8上で動作させることを可能にし、さらに企業にスレートPCが一括導入された場合にも、IT部門が管理しやすい環境を提供できる点を訴求する姿勢をみせる。そして、Visual Studioなどの使い慣れた開発ツールを利用したアプリケーション開発ができる点も、Windows 8搭載のスレートPCの普及には追い風となろう。
先頃、Windows 7の累計出荷は4億ライセンスに達した。Windows 7で利用されているアプリケーション資産を生かせるのが、Windows 8の強みである。
かつて、マイクロソフトはWindows Vistaで互換性の問題につまずき、これが普及の足かせとなった反省がある。スレートPC市場においては、追う立場にあるマイクロソフトは、この反省を生かしむしろ互換性を強みとして展開する必要がある。
スレートPCで出遅れたマイクロソフトの巻き返しに注目が集まる。

大河原克行(おおかわら かつゆき)

プロフィール:
ITジャーナリスト。1965年生まれ。IT業界専門誌編集長を経て2001年からフリージャーナリストをして活動中。IT、デジタル家電分野を中心に取材、執筆活動を続ける。主な著書に『ソニースピリットはよみがえるか』(日経BP社)、『松下からパナソニックへ〜世界で戦うブランド戦略』(アスキー・メディアワークス)など。

コラムトップページに戻る

ページトップへCopyright(C) UNIADEX,Ltd. All Rights Reserved.