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2012年10月30日号

第8回:シリコンバレーがいまだに隆盛を続けられる理由

シリコンバレーはやはり強い。自動車メーカーの中心はデトロイトなのに電気自動車メーカーのテスラ・モーターズ社はシリコンバレーで生まれた。ヤフーやグーグル、アップルもシリコンバレーに本部がある。Facebookを始めたマーク・ザッカーバーグ氏は東海岸のハーバード大学の学生であったがFacebookの本部はシリコンバレーにある。シリコンバレーの隆盛はどこまで続くのか。技術流出の懸念を新技術の続出で補うシリコンバレーのやり方は、日本も参考にすべきではないだろうか。


写真 シリコンバレー 出典:SVL Group


シリコンバレーは順調にこれまで歩んできたわけではなかった。1990年代後半には、米国アナリストたちから「シリコンバレーは死んだ。もう半導体は終わった。これからはバイオだ、ナノテクだ」と言われた。実際1995年にPCブーム(Windows 95)を火付けとして半導体のバブル期を迎えたが、このブームがはじけ不況が来た96~98年ごろシリコンバレーでは転出人口が転入人口を上回り、もはやシリコンバレーは終わったと言われたことがあった。

その後、2000年をピークとするITバブル期には再びシリコンバレーは注目を集めた。そして2001年〜2004年のITバブル後遺症からの立ち直りはシリコンバレーをかえって強くしていった。カリフォルニア州のサンフランシスコからサンノゼ周辺一帯に渡るシリコンバレーを30年見てきた地元のハイテク新聞である「サンノゼマーキュリーニューズ」紙の記者を務めてきたSteve Wright氏は、シリコンバレーの隆盛は少なくともあと10年は続くだろう、と見る。シリコンバレーはなぜ今後も隆盛を誇るのだろうか。その秘密を、現在SVL(Silicon Valley Leadership)グループのバイスプレジデントであるWright氏へのインタビューを通して解き明かしていこう。

半導体の商用化から出発
シリコンバレーはその名の通り、半導体の基本材料であるシリコンに由来する。半導体の基本素子であるトランジスタが生まれたのは東海岸のベル電話研究所。ノーベル物理学賞を受賞した3名の発明者の内の一人、ウィリアム・ショックレー氏は、当時計測器メーカーのベックマン・インスツルメンツ社がトランジスタを商業化するための施設として設立してくれた「ショックレー半導体研究所」の所長に収まった。この研究所こそ、カリフォルニア州のマウンテンビューにあり、シリコンバレー発祥の地となった。

その後、ショックレー半導体研究所を飛び出し、ショックレーから「裏切りの8人」とののしられた、ロバート・ノイス氏やゴードン・ムーア氏(ムーアの法則で知られる)、ジャン・ホーニ氏など8人がフェアチャイルド・セミコンダクターを創業、トランジスタの商業化を推進した。ノイス氏とムーア氏がのちに、フェアチャイルドを出て、インテル社を創業したことは有名である。

現在のシリコンバレーは、半導体産業だけではなく、コンピュータやインターネットなどのICT産業がむしろ中心となっている。ここに電気自動車も始まり、さらにソーラービジネスや風力発電のグリーンエナジー産業も加わるようになった。すなわちこれからの成長産業もシリコンバレーに集まってきているのである。

国内雇用を守る
シリコンバレーは失業率が2011年において全米平均よりも低い。カリフォルニア州自身も少ない方だが、それでも11%。シリコンバレーの失業率は9%と低い。ここは、240万人の人口を抱え、就業人口は100万人いる。さらにハイテク企業の雇用主は7000社もある。今回、SVLグループは、シリコンバレーに設立されている企業のCEOにアンケート調査し、その結果をまとめた。今回の調査では、365社の会員企業の内、188社から回答を得た。

この1年間のシリコンバレーの活況についてシリコンバレーで働く経営層に聞いたアンケートでは、雇用が増え、海外シフトは少ない、という傾向が見られた(図1の(a)と(b))。雇用が増えたと思う経営者は64%で、減ったと答えた経営者は7%しかいない。また、今年雇用を増やすと答えた経営者は48%もおり、変わらないとする38%よりも多い。企業の雇用を海外に移したと答えた経営者は16%だが、移さないと答えたのは80%もいる。


図1 2011年に雇用は増え、国内雇用をキープした 出典:SVL Group


シリコンバレーは、人種差別や男女差別の少ないことも強みの一つである。エンジニアの出身地についてたずねた答えは、米国人の47%に対して外国人は53%もいる。経営者にも外国人は多く、グーグルのセルゲイ・ブリン氏はロシア、インテルの元CEOアンディ・グローブ氏はハンガリー、ヤフーのジェリー・ヤン氏は台湾、という具合だ。シリコンバレーで働く企業の正社員の51.2%は女性であり、また、大学卒業生の半数以上が女性という。差別をしていれば競争に負けてしまうほどのビジネスが活発な場所でもある。

最大の強みは最大の弱み


図2 シリコンバレーの強み 出典:SVL Group

シリコンバレーの強みと弱みについても聞いている。
最大の強みは、能力のある社員を獲得できる反面、従業員の維持が難しいという点で弱みにもなっている。
能力のあるエンジニアや人材は、起業家精神が旺盛で、新しいことにチャレンジする気持ちが強い。

この起業家精神という強みは優秀な人材とほぼ同じ程度にある。
強みはさらに、顧客・ライバル共に近くにいること、ベンチャーキャピタル(VC)へのアクセスがよい、トップクラスの大学がたくさんある、と続く(図2)。





図3 シリコンバレーの弱み 出典:SVL Group

弱みは、上述した従業員の維持の難しさに加え、住宅コストの高さ、ビジネス上の規制、健康保険コストの高さ、交通渋滞と続く(図3)。
この中でビジネス上の規制では、最も多いのが週40時間のフレキシブル労働に対する規制が問題とする声が最も大きい。

いわば、もっと働きたいという訳だ。カリフォルニア州の規制というよりも全米の規制である、SOX(Sarbanes-Oxley)法とDodd-Frank法(金融機関への規制の法律)が問題とする声も順に強かった。







FrenemyとCoopetition


図4  Silicon Valley Leadership Group VPのSteve Wright氏

人材の流動性が高いという強みと弱みが共存することについて、SVL GroupのWright氏(図4)は、シリコンバレーの状況を説明するのに、面白い造語を二つ紹介した。

一つは、Frenemy(フレネミー)という言葉だ。これは、友達(Friend)とライバル(Enemy)とを混じえた造語である。顧客に近いと同時にライバルにも近いというシリコンバレーの特徴をよく表している。もう一つは、Co-opetition(コーペティション)という言葉を紹介した。これは協力(Cooperation)と競争(Competition)を合わせた言葉である。シリコンバレーでは常に競争しているが、資金が不足したり開発速度を速めたりしたい場合には、たとえライバルであろうとも協力することもある。最近コラボレーションという言葉がよく使われている。

シリコンバレーがいまだに活発なのは、絶えず技術革新やビジネスモデルの革新が起きているからだ。人材の流動性は技術の流出でもある。これが当たり前のシリコンバレーでは、技術の流出を心配するのではなく、新しい技術を次々と開発していけば、流出した古い技術は時代遅れになる。すなわち攻撃こそ最大の防御なりという言葉通り、スピード感を持って次々と新しい技術革新を生み出すことで技術の流出を防いでいるともいえる。日本が技術の流出を心配するのは、それが流出したら次の技術がないからともいえる。ここが日本との最大の違いかもしれない。

津田 建二(つだ けんじ)
プロフィール:
国際技術ジャーナリスト兼セミコンポータル編集長。1972年東京工業大学理学部応用物理学科卒業。
同年日本電気入社、半導体デバイスの開発等に従事。1977年日経BP社(当時日経マグロウヒル社)入社、「日経エレクトロニクス」、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」編集記者、副編集長、シニアエディター、アジア部長、国際部長など歴任。
2002年10月リード・ビジネス・インフォメーション(株)入社、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。代表取締役にも就任。


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