選挙の電子投票、P2Pによるコラボレーションウェア、自動車に搭載されるテレマティクス端末、携帯電話とICカードの組み合わせによる電子決済の試験サービスなど、さまざまな分野においてユビキタス的な事象が具現化してきました。
そこで今回は、連載第1回目、2回目にもお話いただいた『ユビキタス・ネットワークと市場創造』(野村総合研究所刊) の執筆者のひとりである野村総合研究所 情報・通信コンサルティング二部
グループマネージャー 名雲 俊忠氏に、この1年間を振り返っていただきました。
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名雲 俊忠氏 |
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ユビキタス・ネットワークを題材として連載を始めて、早くも約1年がたちました。この1年間を振り返ってみて、どんな感想をお持ちになりますか? |
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最近ではビジネス系の雑誌だけでなく、コンシューマ向けの雑誌にもたびたび登場するほど“ユビキタス・ネットワーク”という言葉は一般化してきました。良くも悪くも、この1年でユビキタスという言葉は広く浸透したように思えます。しかし進展具合でいえば、まだあと一歩、二歩足りないような感じがします。裏を返せば、本物になるためには、まだ時間がかかるということでしょう。 |
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部署や事業部の名前にも“ユビキタス”の文字が
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| 今年1年間、ユビキタスという言葉は良くも悪くも根付いたように思えます。実際に、いろいろな企業においてユビキタスという冠のついた部署や研究所が誕生しています。たとえば、日立、松下、ドコモ、ソニーといったそうそうたる企業がユビキタスに関する事業に取り組んでいます。しかし、問題はそうした企業が、どのようなユビキタスに関する事業を行っているかと言うことです。ユビキタスの中身が必ずしも明確になっていないこともあり、事業内容はまだそれぞれまちまちなのが現状です。 |
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一番わかりやすい動きがあったのは、センシング・トラッキングの分野
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この一年を振り返ると、センシングトラッキングの分野では「Uチップ」として先行したRFID、といったわかりやすい動きがありました。先端情報工学研究所という会社が、アパレル向けにRFIDを使った物流システムを稼働させています。アパレル業界の物流というのはIT導入が極めて遅れており、とくに倉庫内のIT化はほとんど行われていません。しかし、アパレル、特にファッションというものは「流行」という鮮度管理が大変重要です。売れ筋を見極め、商品の配送や増産を行ったりするといったことが重要なのです。
従来、出荷する衣服を梱包するには、倉庫内に雑然と置かれてた中から出荷すべき製品を人間が探し出さなければならず非常に非効率的でした。また、梱包した段ボール箱の中には何十着という衣服が入っており、その箱が何十箱とあるにもかかわらず、それらに対して伝票はたった一枚。これでは、どこに何があるのはまったく分かりません。そこで、まずは箱ひとつに対して伝票一枚というワンボックス・ワン伝票という形にしました。次に、段ボール箱に梱包すべき商品のデータを埋め込んだRFIDタグを付けました。このRFIDタグにより、梱包を行うスタッフは梱包すべき製品を瞬時に把握することができ、梱包作業、および衣服の確認作業は格段に効率化されました。まだまだ泥臭いレベルですが、こうしたシーンでユビキタス技術の一端が利用され始めたのです。 |
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| でも本当は、こういう泥臭い「半自動」のシステムが現状にはあっているように思えます。成功している企業の多いクリック・アンド・モルタルな手法とも重なる部分がありますし、全自動までいくのはまだ時期尚早ではないでしょうか。実際に、展示会などに行くといろいろなソリューションがあるように思えますが、実働しているものはまだあまり多くありません。 |
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なるほど。確かに全自動くらいまで実現するには、もう少し時間がかかりそうですね。では、現状ではユビキタスのメリットはまだ少ないということですか? |
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そうではありません。全自動化するようなもので新しい市場が創造されるというより、現状のメリットである効率化、コスト削減の余地がまだまだあるということです。こうしたメリットは、まだまだ突き詰めていけるはずです。
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例えば、コミュニケーションの補完的な役割として
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例えば、自動翻訳ソフト。ずいぶん進歩しましたが、まだ100%正しく翻訳することはできません。外国の方から電話がかかってきた場合、音声だけでコミュニケーションをしていると、少しの翻訳誤差から誤解が生まれます。しかし、ビデオチャットで相手の表情をうかがうことができれば、長い文章を訳して分からなければ首をかしげるといったシグナルを送ることにより、よりスムーズなコミュニケーションがとれるようになります。
このように、ブロードバンドやユビキタス・ネットワークがコミュニケーションの補完的な意味で使える道はまだまだあるでしょう。革新的なものでなくとも、ユビキタスを活用できる余地はあります。 |
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ディスプレイ技術の発展でペーパーレスを推進する
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| デジタル化が進むことによってペーパーレスオフィスの時代がくると言われていました。しかし、フタを開けてみれば逆に紙の使用量は急激に増えました。しかし、ディスプレイ技術が充実することで紙の使用量は減るのではないかと推測されます。例えば、PCのディスプレイも1人1画面ではなくワードはこの画面、ブラウザはこの画面といったように、複数台使えるようにする。また、会議室に複数のディスプレイを設置したり電子ペーパーを利用する。このように、できる限りのものをデジタルデバイス上に置き換えてしまえば、確実に紙の使用量は減少するでしょう。このようにディスプレイ技術が発達すれば、効率化と同時にユビキタスの発展にもつながります。 |
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| このように、オフィスにおけるIT化というのはまだまだ未成熟な部分があります。しかし、ここで気をつけなければならないことが、ITやシステムありきのものではなく、人間のことをもっと考えたものにしていかなければならないというところです。 |
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パソコンやITによって効率化されるよりも、忙しくされている部分の方が多い?
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現状では、PCに人間の方が合わせている、PCやITが人間を忙しくしている感があります。ネットワークがすごいスピードで発達しているのに比べ、ディスプレイやキーボードといったインターフェース部分はまだまだ貧弱で、大変アンバランスな状況といえるのではないでしょうか。その結果、働く人の負担が増えているように思われます。
その中でも特に、30代〜40代の働き盛りのビジネスマンの場合、1日の半分以上が仕事かそれに関係する時間に費やしています。本当は、こうした人達の負担をもっとやわらげてあげるためのシステム、ITというのが必要なのではないでしょうか。 |
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そうですね。パソコンやITの進展によって助けられた部分も確かにありますが、逆に複雑になったり、業務がスピードアップしたりと、人間に優しくない状況が生まれているかもしれませんね。 |
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その通りです。IT化が進む現在、使う立場の人間側がITに使われてしまっている場合も多々あります。本当はユーザー主体となったITが望まれますが、あまりユーザー主導というのも良くない場合があります。 |
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コアなイノベーターの意見は、一般大衆の意見と一致するとは限らない
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さまざまな企業がさまざまなIT系プロダクトを作っていますが、最近では「結局は使えない機能が多すぎるのではないか?」「ユーザー側に主体性を持たせるような考え方はないのだろうか?」といったことが議論されています。確かに、ユーザーの視点に立ったユーザーオリエンテッドな製品は必要ですが、あまりに特定のユーザー主体になってしまうのも問題といえます。
例えば、製品製作段階でコミュニティーの意見を取り入れたとします。しかし、いろいろと意見を出してくるのは、たいがいコアなユーザー、イノベーターです。そうした人たちが求める部分は、必ずしも一般の人たちが望むものでない場合がよくあります。このため、コミュニティーの意見を取り入れたつもりが変にマニアックなものになってしまい、一般大衆に受け入れられないといったことにもなりかねません。コミュニティーやユーザーの意見を取り入れるのにも十分注意が必要です。 |
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フリーアドレスオフィスがうまくいかなかったケースは何が悪かったのか?
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| 例えば、一時期流行したフリーアドレスオフィス。これはオフィスの面積を減らすことを目的としていますが、成功しなかった企業で共通するのが、「固定の席数を減らしてしまった」ということです。その結果、人数分の座席がないという不安や圧迫感から椅子取りゲームになってしまったり、業務内容、形態によっては「会社に行かなくてもいいか」、というようなことになってしまいました。一方うまくいった企業では、固定の席数はそのままにして、会議室などの共有スペースを削減・統合しました。すると、自然と隣同士に座って打ち合わせをしたり緊密なコミュニケーションを取るようになったのです。この例からもわかる通り、“人間はどういった行動をするのか”という心理的な部分までを考慮することが大切なのです。 |
| ユーザーの意見を聞いたとしても「その本質はどこにあるのか」という部分を見極めることや、「こうした事象で人間はどう行動するのか」といった部分まで考慮されたITやユビキタス・ネットワークの進展が望まれます。 |
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やはりデジタルな社会の中においても、アナログ的なものというのはすごく大切だということですね? |
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どんなに時代が進んでも、新しいもの(デジタルなもの)と古いもの(アナログなもの)との融合というのは大切です。アナログな物、行為をデジタルによってどれだけ快適にできるか、また昇華させることができるか、そういった視点が非常に大事なのではないかと思います。 |
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生活の中にうまく溶け込むことに成功した「Suica」
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前述のアパレルの流通システムの話も、実は箱の流れるタイミングや、リーダーに近づけるスピードなどは昔から蓄積してきたノウハウの塊で、RFIDタグのおかげというわけではありません。ただ単に、この箱に何を入れるかという指令が来て、それを入れる。そういったアナログな作業をより効率的にしてくれているだけなのです。
この他、良い例がJR東日本のSuicaです。非接触ICタグを使うというデジタルなものと、定期券を改札に通すというアナログな行為がうまく融合したかたちになっています。やはりユビキタス環境というのは、本来は、このように生活のなかに溶け込むスタイルを目指すべきなのではないでしょうか。 |
| もともと、ユビキタス・ネットワークのコンセプトが「人のためのIT」なので、ITに人が合わせているような現状ではまだまだですね。新しいものが出てきて前からあったものがなくなるということでなく、新しいものが古いものにうまく溶け込んでいくっていうスタイルが大切で、今は多くの企業がその方向に向かって四苦八苦している状態のようですね。 |
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| 「連載を始めた当初に予想していた状況と今の状況では、予想以上に進んでいるものもあれば、進んでいないものもあるといった状態です。しかし、全体的には確実に進展していて、決して後退はしていない」と名雲氏は語っております。今回のお話の中で印象に残ったのは、人間の本質を見極めることの重要性、そしてアナログ的なものの大切さです。ITもユビキタスも結局はいちツールでしかなく、人間のアナログ的な部分を補完してくれるものなのです。ユビキタス社会がさらに進展し、デジタルデバイスが氾濫する世の中になるであるだろうからこそ、「人間のためのIT」という基本的な考え方を再認識する必要があるのではないでしょうか? |
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