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2015年08月18日号

連載対談「未来飛考空間」 第3回  山川氏と語る人工知能は、人類の能力を超えるのか 汎用人工知能実現に向けた取り組みとその可能性

近年、再び人工知能が大きな注目を集めています。以前は遥か遠いと思われていた人工知能が人間の能力を超える時期もそれ程遠くは無いのではないかという議論も高まり、より近未来においては次第に人間の仕事が奪われてしまうのではないかという声も聞かれています。本当のところはどうなのでしょうか。人工知能研究の現状と将来について、また、社会や働き方はどう変わるのか。第3回目の連載対談「未来飛考空間」では、日本の人工知能研究の第一人者であるドワンゴ人工知能研究所所長の山川 宏氏とユニアデックスの未来サービス研究所員が語り合いました。
山川 宏(やまかわ ひろし)
プロフィール:
1965年埼玉県生まれ。
人工知能学会 理事および副編集委員長。玉川大学脳科学研究所 特別研究員。専門は、人工知能。特に、認知アーキテクチャー、概念獲得、ニューロコンピューティング、意見集約技術など。2014年、ドワンゴ人工知能研究所所長に就任。

■人間の脳に学び、汎用的な人工知能の実現をめざす

―小椋―
ドワンゴは、これまでニコニコ生放送で行ってきた「将棋電王戦」の発展形として、プロ棋士がトーナメント戦を行い、その優勝者がコンピューターソフトと対局する「叡王戦」の実施を発表しました。山川さんはプロ棋士の直観を脳科学的に研究する理化学研究所の「将棋プロジェクト」に参加されていたと聞いていますが、どのような研究をされていたのでしょうか。


ドワンゴ人工知能研究所 山川 宏氏
―山川―
将棋プロジェクトでは、プロ棋士が長年の経験を通じて獲得した、次の一手を直観的に指すための瞬間的な脳活動を明らかにしました。しかし状況認識を行うためにはその手掛かりとなる複雑な概念を大脳新皮質においてあらかじめ獲得しなければなりません。この能力はプロジェクトで残された課題でした。
しかし近年、脳の大脳新皮質の神経回路からヒントを得た工学モデルである、ニューラルネットワークを深く階層化した「ディープラーニング(深層学習)」技術が登場しました。この技術はすでに囲碁においては実績が上がっており、ディープラーニングの可能性に大いに注目しています。


―齊藤―
ディープラーニングは、ネット企業をはじめとする大手企業の実用化への取り組みや実際のサービスへの応用も進んでいます。ディープラーニングが人工知能に大きなブレークスルーをもたらすかもしれないと期待されていますが、山川さんはどのようにお考えでしょうか。

―山川―
ディープラーニングは、これまでの人工知能において壁となっていた表現獲得という課題において大きな前進をもたらしました。そこで私は「深層学習の成功は、機械学習においては平凡なインベンションであるが、人工知能にとってはクリティカルなイノベーションである」と考えています。
ディープラーニングはそれ以前の機械学習に比べて汎用性を高めてきてはいるものの、画像認識や先に述べたコンピューター囲碁などのように個別の領域で知的にふるまう特化型の人工知能にとどまっています。
そこで、私たちは、人間の脳全体のアーキテクチャーに学んで、多様な問題領域において複雑な問題を解決する「汎用人工知能(AGI)」を実現させようと考えています。


■「汎用人工知能」の開発を目指す


ユニアデックス 小椋 則樹
―小椋―
今、取り組まれている「汎用人工知能」についてどのようなアプローチで実現しようとしているのでしょうか。

―山川―
人間レベルの「汎用人工知能」を目標と考えるなら、脳全体を分子・原子レベルから詳細にエミュレーションすれば造れるはずです。しかし、そのためには脳に関する測定技術の向上が必要で、そのやり方で実現するのは2060年代頃だという予測があります。
私達はそれよりも速く実現するために、「全脳アーキテクチャー(WBA)」というアプローチに取り組んでいます。ここでは、脳はそれぞれ定義可能な機能を持つ機械学習機が一定のやり方で組み合わされることで、機能を実現するという中心仮説をもっています。
そこで、脳をガイドとして、脳の各器官を機械学習モジュールとして開発し、それらを組み合わせて、アーキテクチャーを構築することで、人間並みかそれ以上の能力を持つ「汎用人工知能」を作ろうとしています。


―齊藤―
お話をうかがうと、広範囲の知見にもとづいた、長期にわたる取り組みが必要のように思います。具体的にはどのような形で進めているのでしょうか。

―山川―
「全脳アーキテクチャー」の研究を推進する人材には、人工知能や機械学習だけでなく、神経科学、認知科学などの複数分野の理解が必要です。しかし研究者がそうした広い知見を持つことは容易ではないので、まずはその養成に重点的に取り組みます。そのために、15年以上先の「汎用人工知能」の完成を目指して、継続的な活動を支えるNPO法人「全脳アーキテクチャ・イニシアティブ(WBAI)」を2015年秋口に向け設立準備中です。すでに複数の機械学習モジュールをつなぐソフトウエアプラットフォームとして「Brain inspired Computing Architecture (BriCA)」のプロトタイプを制作しました。それをベースに、2015年9月のシルバーウィークの5日間にわたりWBAIとWBA若手の会が共同で、「全脳キックオフ・ハッカソン」を慶応義塾大学の日吉キャンパスにて開催します。すでにいろいろな人が応募してきていますが、機械学習をどんな形で使うと脳と似た動きができるかなどに焦点をあて、5日間で10件くらいのアイデアを試し、WBA構築の基礎力となる複合機械学習器の開発レベルの向上につなげていきます。

■直観までもモデル化して期待されるさまざまなサービスへ応用

―小椋―
ユニアデックスは構築したシステムなどの保守サービスを長年行っています。保守作業を行うエンジニアは、直観的に問題を突き止めるのが得意なタイプと、理詰めで問題を探求していくことが得意なタイプの2種類の人がいると思っています。例えば、ネットワーク障害が発生した場合、関連するさまざまな機器やシステムのログなど広範囲にわたり調査することがよくあります。こんな時、エンジニアによってはちょっとしたヒアリングとログの調査で原因を突き止めることができる強者がいます。普通の人には見えないものが見えているのではないか、と思ったりします。
我々も最近、保守サービスの精度や効率を上げるために、各種ログに対してデータ分析を行っています。これは先程の直観的な感覚がモデル化できないかというチャレンジです。将来的には機械学習の仕組みに取り込んで、原因を直観的に突き止めることができればと考えています。


―山川―
ネットワークトラブルの原因究明は難しい問題ですが、しばしば一流のエンジニアは直観的に原因を突き止める能力に優れています。それにより適切な質問や調査の仕方を選択できるのです。原因究明では、誰に何を聞くのかを間違えただけで10倍くらいの時間がかかってしまいますのでこれは重要な能力です。
こうした能力は将棋で次の一手を指すのと似ていて、直観的に次にやるべきことがわかるか否かが勝負です。こうした瞬時の状況認識のためにデータから有用なパターンを学習する人工知能が役立ちます。仮にパターンからの認識だけでは最適な一手を決定できなくても、高確率に筋の良い一手を選べれば全体では効率アップにつながります。


■人と人の関係に、より一層深みが生まれる


ユニアデックス 齊藤 哲哉
―齊藤―
人工知能が人類の知性を超えるシンギュラリティー(技術的特異点)がいわれています。「2045年にはシンギュラリティーが到来する」と明言する学者もいます。例えば、近い将来に「汎用人工知能」が完成したとして、私がその「汎用人工知能」と会話した場合、誰と話すことになるのでしょうか。

―山川―
仮にシンギュラリティーを超えた後の世界を仮定するならば、それは端的に言えば誰と話しているわけでもありません。こうした世界ではネットワーク化された多種多様な人工知能が高速で情報交換していて、人間はその総体とは直接会話はできません。人間が人工知能の集合体と円滑にコミュニケーションを行えるように、特定の誰かと話しているかのごとく見えるキャラクターを介在させることになると思います。
一方でそうした技術には問題点が指摘されています。つまり誰かの如く具現化された人工知能が魅力的であったりして人々が感情を移入しすぎると、不用意に情報を与えるなどのことが起きてきます。そのため、実用上の有効性とセキュリティーや倫理上の問題をどうバランスさせるかは、今後議論すべき大きな論点です。


―小椋―
将棋においてはプロが人工知能に負けても、困る人はごく一部ですが、人工知能や今話題になっているコミュニケーションロボットがさらに進化していくと、多くの労働者の仕事が奪われてしまうという危惧を間近に感じる人も増えてきています。

―山川―
シンギュラリティー後の世界を想定するならば、ほとんど全ての知的能力において人工知能が人を上回っています。そのため多くの生産活動は人工知能が担うような大きな変化が起こると思われます。ただしそれまでにはまだ時間があるので、多くの人を巻き込んで将来社会のあり方を考えていく必要があります。
一方で、例えば新聞記者の一部の業務や会計士のように人工知能に置き換えやすい専門能力は存在し、そこでの変化はすでに始まっています。他方で、他人に奉仕することに生きがいを見出したり、純粋な挑戦を求めたりすることに重きをおくならば、人生におけるやりがいは人工知能が発達しても、存在し続けるでしょう。
人間関係についていえば、人工知能が多くの仕事をこなすことで人々に生まれた余暇時間において人同士が向き合う時間を通じて人間関係に厚みが出てくる可能性もあります。一方で人々が人工知能と向き合う時間ばかりが増えてしまう可能性もあります。


―小椋―
今後人工知能が社会に浸透していく段階では、人にはより人間性が必要とされる仕事が求められるということですね。それでは社会的側面としてはどうなっていくのでしょうか。

―山川―
インターネットをはじめとして、これまでも情報技術は個人の能力を増強してきました。今後において人工知能がより個人をサポートしていけば、他人に頼らずに生きていけるという側面が次第に強くなると思われます。他方で、人は他者との関係を持とうとする本質も持ち合わせていることから、適当な大きさの組織において人間らしい関係を作りたいという動きが出てくるかもしれません。
私自身が、2014年10月にドワンゴに転職したから感じているのかもしれませんが、すでに従来的な意味での仕事というイメージを超えた形で、人間らしさを表現し、人と人の関係においてより価値を生みだすような世界に向かっているのではないかという気がします。


―小椋―
最近のハリウッド映画では、人工知能をテーマにした作品が多く登場し、人間との共存について未来社会を想像させてくれます。また、人工知能とロボットの組み合わせによって、人による「おもてなし」が特長とされるホテルの接客を代替する試みもされつつあります。
このような将来の世界では、人工知能に翻弄されたり管理されたりという、ギスギスした世界が描かれることが多いと思いますが、今回お話をうかがっていると、逆に人間はより人間味のある社会になり、人工知能やロボットなどの進化した技術と調和していくのではという期待も沸いてきます。私どもが人工知能を取り扱うとしても、お客さまと弊社、お客さまとその先のエンドユーザーさまとの間に、温かみとか「おもてなし」などが自然に醸成されるような使い方を心がけ、やはり人間社会から受け入れられることを目標にするべきだと感じます。そこを肝に銘じつつ……今日はお時間を頂戴し大変ありがとうございました。


〜ディスカッションを終えて〜
山川さんとの対談は人工知能の大きな飛躍の可能性というところから始まって、人間の在り方、社会の在り方にまで及ぶものでした。テクノロジー面だけでなく、「人工知能の発達で人間の仕事が奪われる」というレベルを超えて、人間性に関わる面などを含めて、私たちが議論しなければならない課題がたくさんあることを実感しました。未来サービス研究所も、人工知能研究の進展に合わせて、積極的にそうした議論に加わっていきたいと考えています。

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