特集:ユニアデックスのITビジネスに対する考え方や取り組み状況、そして各ソリューション概要などを各スペシャリストがご紹介します

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2016年05月10日号

連載対談「未来飛考空間」 第5回 廣瀬教授と語る仮想現実の未来 仮想現実は現実の何を変えるのか バーチャルとリアルのせめぎ合い

バーチャルな情報とリアルな感覚を相互に交流させることで、“現実”を変えられるようになってきています。コンピューターの仮想空間の中に“現実”を作り出す仮想現実(Virtual Reality:VR)の世界は、我々が生活する実社会にどのような意味をもたらすのでしょうか。VR研究の第一人者で、拡張現実(Augmented Reality:AR)活用の先駆者でもある東京大学大学院の廣瀬通孝教授と、ユニアデックス未来サービス研究所員が、VRの可能性について話し合いました。
廣瀬 通孝氏(ひろせ・みちたか)
プロフィール:
1954年神奈川県生まれ。
1982年東京大学大学院 博士課程修了、工学博士。
1999年同大学 先端科学技術研究センター教授。
2006年から同大学大学院 情報理工学系研究科知能機械情報学専攻教授。
1996年発足の日本バーチャルリアリティ学会の設立に貢献し、同学会会長を務めた後、現在同学会特別顧問。

■コストが激変したことでVRの可能性が広がった


東京大学大学院学会特別顧問
廣瀬 通孝氏
―小椋―
最近またVRへの関心が高まっていますが、その背景にはどのような変化があるのでしょうか。

―廣瀬―
2015年は“VR元年”だという人がいましたが、昔を知っている私からすれば、微妙な印象を持ちます。最初のVRブームは1989年でした。技術的な発想はこの時点がピーク。今とそう変わらないのです。
ただ、コストが全く違う。1989年当時は、とても重いヘッドマウントディスプレイが数百万円もして、解像度が200×100ピクセルしかなくて、文字も読めませんでした。今は2,000×1,000ピクセルのものが数万円で手に入ります。この違いは大きい。技術そのものではなく、それを使って何をやるのかというコンテンツの世界に、関心が移ってきたのです。その意味で今の状況を「VR2.0」と呼んでいます。


―小椋―
現在の活用を見ていると、まだまだコンテンツが整っていない感じはありますが、次第にそろい始めると面白い活用方法が出てきそうですね。

―廣瀬―
「VR2.0」では明らかにコンテンツがドライビングフォース(駆動力)になりますが、これからいろいろ出てくると思いますね。今のコストなら学生個人でも何かやってみようという気になります。手軽にVRが使えることで、多様なアイデアが生まれてきます。
例えば、全天周カメラ(360度撮影できるカメラ)が安くなって簡単に撮影できるようになりました。通常のカメラでは“絵を切り取る=フレーミング”することが重要ですが、全天周だととりあえず360度全部撮影しておいて、後から使い方を考えることができるのですね。この、空間をアーカイブするという概念はVRの可能性を大きく広げます。撮影する時には意識していなかったことが実は面白かったり、映っている場面から記憶のスイッチが入ったりすることがあるのです。


―藤田―
認知症の患者さん が、自分の経験した過去の写真や映像を見ると元気になるという話を聞いたことがあります。例えば、小学校時代からの映像をVRで追体験できたりすると、もっと効果が上がるかもしれませんね。

■「一人称」で失敗を学べるメディアはそうない

―廣瀬―
今、学会では“体験”の持つ意味を考え直そうという動きがあります。人間は、「ドブがあります」という注意文を読んでいたとしても、そこに足を突っ込んで初めて分かる。それがありがちです。文字で伝えるより体験する方が効果的なのは当然で、VRはこの体験という面で大きな意味を持っています。
VRの特徴は何より「一人称」であることです。自分自身の延長として位置づけられます。それが「三人称」であるロボットやAIとの違いです。ロボットやAIは、自分の外に人間と似たものを作ろうとしているのです。
一方、VRは限りなく現実に近いニセモノですが、VRの中で失敗すれば、現実の失敗と近い体験をしたことになるでしょう。VRは一人称で失敗体験を学べるのです。例えば、ひざ下の水でも流れていると容易には動けない、というようなことはよく聞きますが、それでも水に入ってしまう人が後を絶ちません。VRで実感しておけば、無謀な避難は防げるのではないでしょうか。避難訓練でいくら経路を頭に叩き込んでいても、実際は防火扉が下りるだけで風景が変わってしまい、戸惑ってしまうというようなことがありますが、こうしたことも防げるでしょう。実はこのように表現と体験を重ね合わせられるメディアはそうないのです。



ユニアデックス 小椋 則樹
―小椋―
弊社も長年提供しているIT機器の運用・保守サービスでは、エンジニアが現場でたくさんの経験をしており、その対応のノウハウの蓄積がサポートの品質を日々向上させています。さまざまな場面でどの対応が最適なのかをVRなどでシミュレーションすることで、後戻りしながら繰り返しトレーニングし、各エンジニアのスキルもより上がり、サービス品質も向上しますね。

―廣瀬―
教育用のVR活用はまだまだこれからです。先ほど寝台特急「北斗星」のVRアプリのデモでお見せしたように、方向を選んで列車の中を進んでいくことはできます。しかし、列車のドアを開けるというアクションはまだVRに実装できていません。VRをトレーニングに使うことを考えると、もっと複雑な操作がVR空間の中でできることが必要になるでしょう。こうしたインタラクションの部分はこれから研究が必要な領域です。

―藤田―
確かにVRにワンアクションを加えられるといいですね。VRに身体的なコミュニケーションをプラスすることで、リアルの限界を超えることができそうです。ただ、まだ課題はありそうですね。当社では運用・保守作業にスマートグラスなどを取り入れようとしていますが、操作の問題などが残っています。

―廣瀬―
近い将来、そういう課題も解消されるでしょう。80年代に産業技術総合研究所が中心になって進めた「極限作業ロボットプロジェクト」という先進的な研究がありました。そのときは静止画処理だけで動画は対象になっていませんでした。その後、動画の技術が一気に進んで、今ではタブレット端末にも高度な画像処理センサーが入っています。そういう周辺的な技術の進歩と相まって技術的な課題が解消される場合もあるでしょう。

―小椋―
また、少子高齢化で人口減少が社会的な問題となっています。弊社でも、高齢だが優れた技術を持っているエンジニアを上手にかつ有効に活用することがなかなかできていません。距離や身体的な制限を超える、このあたりにVRが使えるのではないかと思います。

―廣瀬―
定年後の高齢者は、人間関係や判断力など、むしろ若者より勝っているところもあります。一方、健康面では確実に弱くなってきています。フルタイムでなく一部の時間だけ使うことで、自分の最も活かせる長所と労働力を提供することがサイバー空間で可能になると思っています。大学はすでに、特任教授の制度など、そういう働き方が可能になってきています。VR適用と親和性がある分野の1つです。

さまざまなVRアプリを試す未来サービス研究所員
寝台列車「北斗星」の中を歩けるVRアプリや、閉館した交通科学博物館(大阪府大阪市)を歩いて見て回れるVRアプリなどを体験。「コツコツ」と歩く音や揺れに対応した振動が入るなど体験性が高い

■仮想と現実が混ざることで働き方も変わってくる


ユニアデックス 藤田 勝貫
―藤田―
一方で仮想と現実の区別がつかなくなったら危険だという発想もありますね。

―廣瀬―
確かにそういう側面もあります。仮想と現実が“混ざる”「MR(Mixed Reality)」というVRから派生した技術がありますが、この考え方はすでに世の中に浸透し始めています。例えば、スマートフォン。最近では山で遭難しても「今遭難した」と電話をかけてくる人がいたりします。すでにあちらこちらに仮想の世界への“窓”があるわけです。
ところで、私の研究室では、鏡に映った顔の表情を変える「扇情的な鏡」というシステムを開発した学生がいます。実際の表情から微妙に変えられた鏡の表情を見ると、自分の感情が変わる可能性があるだろうかという研究です。これをテレビ会議に応用して、画面に映っている人の顔を全部笑顔に変えることで、会議のアクティビティーを上げようという研究も進められています。仕方なくやっているテレビ会議でフェイスツーフェイスの会議よりも効果を上げる。そんな取り組みに発展させられるかもしれません。



扇情的な鏡は、IPAから「2012年未踏IT人材発掘・
育成事業スーパークリエータ」に認定され、
さらに東大の総長賞も受賞。
―小椋―
VRで働き方や環境が変わる可能性があるわけですね。当社でも以前からテレビ会議システムやUC(ユニファイド・コミュニケーション)ソリューションを提供していますが、最近ではさらに「未来に向けた新しいコンセプトで働く空間づくりを一緒に考えてほしい」というご相談をいただくことも増えています。ここでは、生産性向上など効率化中心の考え方より創造性を発揮できる環境が求められています。VRはその役割において有効な仕組みを提供できますね。

―廣瀬―
働き方の概念自体が変わってきています。コンピューターのソフトウエア開発といった仕事は、特に仮想的な世界に軸足が置かれています。こうした知識集約型の仕事では、発想力が求められます。アイデアを生み出すためには、いかにリラックスできるかが大事になります。
ただ、それをはたから見ると、コーヒーを飲みながら優雅にしているだけだと受け取られかねません。VRを活用すれば、細かい理屈は抜きにして、なぜオフィスを変える必要があるのかを擬似的に体感できるでしょう。これからの働く空間を考えるうえでも、VRは有効なアプローチになるのではないでしょうか。


―小椋―
より複雑な仕組みが多くなってくる今後の社会において、どの分野でも「一人称の体験」がキーワードになりそうですね。とても面白く、我々の今後のサービスに参考になるお話をいただき、ありがとうございました。

「扇情的な鏡」の写真
廣瀬研究室の吉田成朗氏が開発した「扇情的な鏡」。普通の表情をしていても、ボタンを押すと微妙に表情が変化する。「悲しいから泣く」のではなく「泣くから悲しい」という感情の揺らぎを実験できる
〜ディスカッションを終えて〜
廣瀬教授の話を通して、仮想の現実であるVRが今後の社会の複雑性や課題を解決する力を持っているということを改めて考えさせられました。その最たるものが高齢者問題です。身体的弱者である高齢者ですが、VRの力を使うことで過去の経験を基に若い人たちにアドバイスする“知的強者”になることができます。これは高齢化社会での新しい働き方にもつながります。未来サービス研究所でもこうした社会的な視点を持って、未来社会における最適なサービスを考えるときに今回のVRのコンセプトや機能を取り入れていきたいと思います。

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