見えない資産を操り未来価値を生む人材づくり

  • 活動報告

2023年12月01日

デジタル技術の進化は、私たちの生活やビジネスのあり方を根本から変えつつあります。しかし、ただ技術が進化するだけでは十分ではありません。新しい価値を創造し、未来を形作るのは「人」です。これは単に既存の技術や知識を用いるだけでなく、革新的なアイデアや創造性をもって新しい価値を生み出すことができる人材が重要な役割を担います。
本記事では、これからのデジタル社会において知的財産(知財)に着目し、企業価値を高めることで新たな価値創造活動を推進している鈴木 健二郎氏と池 昂一氏にインタビューし、お二人が提唱している「未来価値創造人材」がどのような知財戦略を活用し、イノベーションに結びつけるかに迫ります。

今回のインタビューは、お二人が運営されているYouTube番組「集まれ、ファーストペンギン」に出演させていただいたことをきっかけに実現しました。未来社会におけるイノベーション人材育成や価値創造について共感する点が多く、その想いや未来への構想についてご紹介します。

鈴木 健二郎(すずき けんじろう)氏

株式会社テックコンシリエ代表取締役
博士(工学)

東京大学大学院情報理工学系研究科博士課程修了後、株式会社三菱総合研究所、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社を経て、2019年に株式会社テックコンシリエを設立し現職に至る。 三菱総研在職中に、株式会社三菱東京UFJ銀行(現・株式会社三菱UFJ銀行)に2年間出向。知財の価値を裏付資産とする投融資やM&Aなどの金融スキームの開発に従事し、知財が「宝の持ち腐れ」になっている多数の企業の経営再建に成功する。以降、企業が保有する技術力やアイデア、ノウハウ、ブランド、デザイン、アルゴリズムなどを掘り起こし、新規事業や研究開発に生かすための戦略立案・実行を支援するビジネスプロデューサーとして国内外で成果を上げている。著書に『「見えない資産」が利益を生む』(ポプラ社)がある。

鈴木 健二郎氏

池 昂一(いけ こういち)氏

未来価値創造ゼミ「BUILD」アソシエイトコーディネータ
AIPE認定 シニア知的財産アナリスト(特許)

特許調査会社に入社後、特許調査、特許分析業務に従事。その後、自動車メーカー子会社にて特許調査・分析の他、中間処理、発明発掘、知財教育業務を経験。2019年よりOA機器メーカーにて知財情報解析専任として、知財からのイノベーション・新規事業創出を目指して活動中。 2020年知的財産アナリスト(特許)第26期修了、2021年シニア知的財産アナリスト認定。2021年知的財産アナリスト(コンテンツ)第17期修了。2021年未来価値創造ゼミ「BUILD」修了後、作ったテーマを研究所へ提案し、社内副業で新規事業開発へ挑戦中。

鈴木 健二郎氏

「集まれ、ファーストペンギン」を二人で始めるきっかけは?

小椋 私も出演させていただいた「集まれ、ファーストペンギン」や、人材育成のためのゼミ「BUILD」を運営されていますが、最初にお二人が一緒に活動するきっかけについてご紹介ください。

 
鈴木氏 2020年から未来価値創造ゼミ「BUILD」を運営しています。BUILDは、新規事業系のコンサルティングを提供する中で、クライアントさまから新規事業開発のための人材育成を依頼されるケースがあるため、その育成事業を切り出して立ち上げた体験型のゼミです。池さんはその第4期の受講生でした。取り組みの姿勢や考え方を見ていて、受講だけで終わらずに引き続きBUILDの運営サポートをしてほしいと思い、声掛けしました。
 
小椋 誘われた池さんは、BUILDをどのように思われていましたか?
 
池氏 異業種の人たちが集まって自分たちの組織に還元するテーマを考える場に参加することはこれまでに経験がなく、BUILDはとても刺激的でした。私は知財部門に所属しているのですが、知財って特許を作るとか、権利化するだけにとどまらず、さまざまな知識や情報が集まってくる場所だと思っています。そのような知識と知識、人と人をつなげられるようなことをしたいと感じていました。まさにそういう場がBUILDだと思い、その運営活動にも携わらせていただけることになり、とてもワクワクしています。

未来価値創造ゼミ「BUILD」アソシエイトコーディネータ 池 昂一氏(右)、ユニアデックス株式会社 小椋(左)
株式会社テックコンシリエ代表取締役 鈴木 健二郎氏(左)、未来価値創造ゼミ「BUILD」アソシエイトコーディネータ 池 昂一氏(右)

BUILD活動への想い、目指すものとは

小椋 池さんは、会社の中で所属されている知財部門の活動において、このような異業種との連携活動は社内では推奨されていたのですか?

 
池氏 会社として受講を推奨していた訳ではなく、私が「知財アナリスト」という資格を持っていたことが、BUILDを受けたきっかけです。私が所属している部門では知財情報だけでなく、経営や市場の情報などのさまざまな情報を掛け合わせて事業に貢献することを目指しており、事業貢献活動の一環として受講しました。
 
小椋 知財活動からのこのようなアプローチはあまり意識したことがありませんでした。
 
鈴木氏 知財の世界では、近年このような考え方がトレンドになりつつあります。知財アナリストが中心になって経営や事業にも関わる傾向が徐々に強くなっています。
 
池氏 事業に貢献するテーマを自分で作ることは初めてであり、BUILDの活動は刺激的でした。そのテーマを実際に自社へ持ち帰り、研究所の中でプロジェクトを立ち上げました。私も社内副業制度を活用してプロジェクトに参加し、事業開発まで携わることができています。
 
鈴木氏 これはBUILDから生まれた大きな成果であり、BUILD運営サイドとして嬉しく思っています。最近は特にこのケースのように、エデュケーションとコンサルテーションの融合を目指しています。エデュケーション、いわゆる研修では仮想のテーマを扱うことが多く、スキルを磨くための題材であるため自分事にはなりません。そこで、普段私がコンサルティング業務でやっているような新規事業をひとつ作るぐらいの強い思いでエデュケーションしたいと思って立ち上げたのがBUILDでした。BUILDを受講された方のアウトプットは、その場限りの練習問題ではなく、現場でリアルな案件として事業化に向けて活動してほしいと思っています。
 
小椋 研修などで作成したテーマを自社に持ち帰って進めるというのは、企画やプロジェクトなどひとりで始めることが多く社内の巻き込みや受け入れ体制で難関が多くあります。
 
鈴木氏 これまでのBUILDでは、研修終了後に受講生各自のテーマを十分にフォローアップができていなかった反省もあります。池さんの成功事例を基に、今後は一層フォローアップ活動を進めていき、成功事例を増やしていきたいと考えています。

未来価値創造人材の必要性について

小椋 則樹

小椋 そこで、未来に向けた事業化活動で提唱されている「未来価値創造人材」はどういう人材か教えてください。

 
鈴木氏 自分の内発的動機付けに基づいてバックキャスティングで未来の提供価値を思考できる人のことを「未来価値創造人材」と名付けています。
 
小椋 その必要性を感じたきっかけは何ですか?

鈴木氏 日本では製造業を中心として技術企画部門や研究所の方々は閉鎖的な空間で仕事していることが多く、オープンな場でディスカッションする機会が少ない。たとえば、先輩から引き継いだ技術テーマの延長線上で考える、つまりフォアキャスト思考が中心になっています。これでは時代の変化に追いつけず、たとえ成果が出たとしてもすでに誰かがやっている、みたいなことが起こりかねない状況にあります。これを打破するために、最初の発想を行う段階では一度バックキャストで考え、これまでの枠を超えた新しいコンセプトを打ち立てて、そこから事業を構想していくやり方にチャレンジしてほしいんです。我々が伝えているバックキャスティングの発想は、未来に新しい価値を作っていくための思考法です。

 
小椋 池さんはいつもYouTubeで未来価値創造人材を説明されている立場としていかがですか。

池氏 もうひとつの軸である内発的動機もとても重要です。バックキャストする未来の世界観は、他の誰かが描いたものじゃ全然ダメで、自分がこうなりたい、こうあってほしいとか、自分から生み出されるものじゃないと、結局その後に控える事業開発まで到達できないと思っています。

未来価値創造人材には、このバックキャストと内発的動機の両方が備わっている必要があると思っています。

池 昂一氏

新規事業に向けた知財利用の考え方

小椋 鈴木さんはこれまでの活動の集大成として、今年8月に『「見えない資産」が利益を生む』を出版されましたが、新規事業に向けた無形資産としての知財に関連したトピックを紹介してもらえませんか?

 
鈴木氏 知財と聞いて皆さんがすぐに想像されるのは、「特許」ではないでしょうか。つまり、自分たちの開発した技術的な成果を合法的に独占できるようにするための権利です。それを狭義の知財とするならば、もっと見方を広げて、お客さまに提供する価値を構成するための要素群として知財を捉え直すことを提唱しています。そんな広義の知財の一例として、書籍の中ではApple社をフォーカスしています。
 
小椋 取り上げた理由は何ですか?
 
鈴木氏 Apple社は有形であるデバイスも扱っており、製造業が多いわが国でイメージしやすいからです。そのApple社がまさにやっているのが、ファンの方々を統一された世界観で包み込むことです。そこにはデザインも大事だし、テクノロジーも大事だし、いろんな無形資産が求められます。そこで、これを「知財ミックス」という既存の言葉を再定義して新たな概念で語っています。
 
小椋 なるほど、さまざまな無形資産を活用してファンを包み込むということですね。私の想像とは違った知財部門の役割で、今後のビジネスではより必要性を感じます。
 
鈴木氏 これは既存の知財部門の所掌を超えることになります。たとえば、データ、コンセプト、アイデアなど権利化されないものを知財ミックスとして扱うとデザイン部、人的資本まで入れると人事部の領域に踏み込むことになります。そのためまずは、誰が担うのかわからないような無形資産を、知財部門が従来の所掌を超える覚悟で担当することから始め、幅広く知財を捉えながら取り扱えるような部門になってほしいと考えています。読者の方から、この考え方に共感する声を多くいただけています。
 
小椋 実際に知財部門に所属されている立場ではいかがですか?
 
池氏 全く同じことを話そうとしていました。これまで私も知財部門に所属していますが、鈴木さんの本を読んで“世界観としての知財”の捉え方に共感しています。従来の定義としての知財ミックスは、製品やサービスを保護する手段として捉えられていました。しかしそれを、世界観を作るために必要な人材や必要な技術などを集めてくるところまで拡張できれば、知財部門の活動も未来の価値創造に向けたものとして捉え直すことができます。
 
鈴木氏 池さんのように気付き始めている人はまだ少数派かもしれませんが、お客さまなどとの会話の中では少しずつ話題に上がってきています。
 
小椋 これが企業の中にとどまらずに、異業種やコミュニティーにまで広がるとオープンイノベーションにつながり、これまでにはできなかったイノベーティブな発想につながる予感がします。

今後の活動について

小椋 今後の活動で新しい計画などあればお願いします。

 
鈴木氏 BUILDを立ち上げてから3年目になります。これまでは、大手企業の中からエース級の方を派遣していただくスタイルでやっていましたが、セグメンテーション&ターゲティングを拡大しようかと話をしています。例えば、スタートアップのCEOやCTO、つまり初めからファーストペンギン的な素養があり、新しいコンセプトを打ち立てることが喫緊の課題になっている方などへもアプローチしたいと考えています。
 
池氏 大企業の他、スタートアップの方、地方で活動されている方なども参加いただき、これまで以上に多様性を拡大していくことが大事かと思っています。
 
鈴木氏 インキュベーションオフィスなどさまざまな企業が集まる中で、BUILDが入居企業のハブ機能になりオープンイノベーションにつながることも期待したいですね。
 
小椋 未来に向かって多様な仲間が増えていくことは楽しみです。鈴木さん、池さん、今日はありがとうございました。今後のお二人の活動で我々未来サービス研究所も未来への価値づくりでご一緒できるようユニークな活動をしていきたいと思っています。

株式会社テックコンシリエ代表取締役 鈴木 健二郎氏(左)、ユニアデックス株式会社 小椋 則樹(中央)、未来価値創造ゼミ「BUILD」アソシエイトコーディネータ 池 昂一氏(右)
未来価値創造ゼミ「BUILD」アソシエイトコーディネータ 池 昂一氏(右)、株式会社テックコンシリエ代表取締役 鈴木 健二郎氏(中央)、ユニアデックス株式会社 小椋 則樹(左)

インタビューを終えて

 今回のインタビューで、鈴木氏と池 氏が展開する未来志向の知財活用と人材育成の取り組みについて興味深くお話を伺えました。「未来価値創造人材」の育成が、未来のビジネスと社会にとっていかに重要であるかが強く印象に残りました。特に興味深かったのは、知財の新しい取り組み方です。鈴木氏が提唱する「知財ミックス」は、従来の権利保護の枠を超え、ビジネスの根幹に深く関わる戦略的アプローチとして機能します。また、池 氏の「BUILD」での経験や社内副業を通じた実践は、知財部門が権利管理業務から脱却し、積極的な事業開発に貢献できることを示しています。

私たち未来サービス研究所は、これからの時代を切り拓く未来価値創造人材を育成し、その活動を支援する役割と責任があります。今後もこの分野の発展に注目し、その動向を皆さんにお伝えしていきたいと思います。

 未来サービス研究所 小椋則樹

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