なかなか進まない企業のデジタル化「DX推進ガイドライン」はなぜつくられた?

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  • 2019.03.14

Digital Transformation (DX) Guideline

2018年12月、経済産業省は「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン」(通称:DX推進ガイドライン)を公表しました。これは企業がDXを推進するための指針を示したもので、仕組みや体制づくり、経営者が押さえておくべき事項がまとめられています。今、なぜこのようなガイドラインが示されたのでしょうか。ガイドラインの概要とその背景について考察していきます。

政府の危機感から生まれた「DX推進ガイドライン」

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を活用してビジネスを変革することです。「DXの成否が企業の将来を左右する」ことは、多くの経営者が理解しているところでしょう。しかし現実は実証実験レベルが終わり、本格的なDXに踏み出せているのは、一部の先進的な企業に限られています。

DXが遅々として進展しない中、強い危機感を持っているのが日本政府、特に経済産業省です。2018年5月に有識者による「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」を立ち上げ、9月には討議の結果を「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」という報告書にまとめました。

この報告書は、老朽化した既存の基幹システムがDX推進の前に立ちはだかる壁になるとし、2025年までにシステムの刷新を集中的に推進する必要があると強調しています。この課題が克服できなければ2025年以降、年間最大12兆円の経済損失が発生する可能性があると警鐘を鳴らしています(2025年の崖)。官公庁が民間企業のシステムの刷新に言及するという異例の報告書ですが、それだけ日本政府の危機感の強さを示しています。

経済産業省はさらに踏み込んで、2018年12月に公表したのが「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン」(通称:DX推進ガイドライン)です。DX推進ガイドラインは「DX推進のための経営のあり方、仕組み」5項目と、「DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築」6項目から構成されています。

具体的にどういった内容が書かれているのか見ていきましょう。

経営トップの強い意思がDXの方向性を決める

「DX推進のための経営のあり方、仕組み」で示された5項目は、「経営戦略・ビジョンの提示」「経営トップのコミットメント」「DX推進のための体制整備」「投資等の意思決定のあり方」「DXにより実現すべきもの:スピーディーな変化への対応力」です。

まず注目したいのが最初の2項目で、経営トップの意思の重要性を訴えている点です。DXはビジネス変革ですから、情報システム部門だけで進められるものではありません。かといって事業部門だけが変革に向けて舵を切ったとしても、全社最適なシステムを構築するのは難しく、DX本来の目的を見失いがちです。

そこで経営者の意思決定が必要不可欠になるわけですが、単に「DXに取り組む」という号令だけでは不十分です。ガイドラインでは失敗ケースとして、「経営者が明確なビジョンがないのに、部下に丸投げして考えさせている」という例を挙げています。こうした例は企業でよくあるケースではないでしょうか。「AIやIoTの技術を使って何か新しいビジネスを考えろ」と経営者が指示したところで、何を成し遂げるためにやるのかを明確にしなければ、そのプロジェクトは失敗に終わり、現場が疲弊してしまうだけです。DXを推進させるためには、まずは経営トップと現場がコミットメントする必要があるのです。アジャイルをITとビジネスに積極的に取り入れてデジタル変革に挑むアフラック生命保険では、「デジタルイノベーションのミッションとビジョン」を定義し、具体的な目標を定めることで現場のイノベーションを促しています。

また、DX推進体制の必要要素として、「マインドセット」「推進・サポート体制」「人材」の3つを挙げています。これはDXで成果を上げるには継続性が求められ、新しい挑戦を続けられる環境が整っているかが重要ととらえています。

「人材の確保には、社外からの人材の獲得や社外との連携も含む」と付記されているのも注目すべきポイントです。社内の人材だけでは知見が足りなかったり、環境が整っていなかったりするケースも多いでしょう。既存の概念にとらわれず、ビジネスプロセスを刷新するためには、外部の人材に頼るといった発想も必要です。FinTechへの対応を迫られる金融業界にあって、メガバンクの一角を占めるみずほ銀行では、中期経営計画に「金融イノベーションへの積極的取り組み」を掲げ、DXを推進しています。そこでは、大手ベンダーやFinTech企業とのコラボレーションが進められているのです。

全社最適のITシステムでデータの活用を図る

もう1つの「DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築」のパートでは、「体制・仕組み」と「実行プロセス」に分けてガイドラインが提示されています。

「体制・仕組み」では、デジタル活用の基盤、組織や役割分担といった全社的なITシステム構築のための体制やガバナンスについて、先行事例や失敗事例を交えて紹介しています。先行事例では「経営レベル、事業部門、DX推進部門、情報システム部門から成る少人数のチームを組成し、トップダウンで変革に取り組む」といったケースが記されています。失敗ケースでは、「これまで付き合いのあるベンダー企業からの提案を鵜呑みにしてしまう」といった内容がチェックポイントとして示しています。

ここで重要なのはDX実現のためのITシステム構築が、「複雑化・ブラックボックス化しないための必要なガバナンスを確立しているか」という点です。複雑化・ブラックボックス化してしまうと、システムの最適化や再構築が困難となってしまうのです。

DXに望む際、注意しなければならないのは既存のITシステムです。「DXレポート」では、「既存のITシステムがDXのアキレス腱になる恐れがある」と指摘され、新たなデジタル技術を適用する場合、既存のシステムを適合できるよう見直すことが不可欠とされています。それを受けてガイドラインでは、「全社的なITシステム」「全社最適」が強調されています。ユニアデックスが「ITの全体最適化」を重視するのも、こういう点を含んでいるためです。

また、ITシステムの構築にあたっては、ベンダー企業への丸投げを戒める記述が繰り返し見られます。「ユーザー企業自らがシステム連携基盤の企画・要件定義を行っているか」「提案を自ら取捨選択し、それらを踏まえて各事業部門自らが要件定義を行い、完成責任までを担えているか」といったチェックポイントが示されています。

「実行プロセス」ではITシステムが単体ではなく、ビジネスのバリューチェーンの中で有意義に機能し、ビジネスへ貢献することが重要だと説いています。そのためには、IT資産を自社の強み・弱みを踏まえて棚卸しし、全社横断的なデータ活用など、全社最適の視点から評価する仕組みの必要性を訴えています。

DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築には、全社を俯瞰できる人材が必要になります。しかしIT人材不足は大きな課題になっており、IPA(情報処理推進機構)の「組込み/IoTに関する動向調査」のアンケートでは、「現在不足している人材」「今後不足が予測される人材」として、「ビジネスをデザインできる人材」「システム全体を俯瞰して思考できる人材」が上位といった結果が出ています。IT企業も必要とする人材は分かっているものの、社内では育成するだけの余力がないといった現実があるのでしょう。また、ユーザー企業も同様でビジネスとデジタルのスキルを持ち合わせ、全社最適を考えられる人材が必要なのです。

ガイドブックでは最後に、DXによって「スピーディーな変化への対応力」を実現すべきと強調しています。DXに決められたゴールはありません。DXは変化し続けていくことを前提に、企業はスピーディーな変化に対応できる人材を育成し、体制を整えることが求められています。

おわりに

システムを構築するIT企業も、それを活用するユーザー企業も、DXを推進する人材として全社横断的かつ全社最適を想定できるリーダーが求められています。しかし実際の現場では、そういった人材が不足しているのに加え、人材を育てることができていないのが現状です。大手製薬会社・塩野義製薬を代表するシオノギグループは、グループ全体のデジタル変革およびDXを推進する人材育成のためにアクセンチュアと戦略的なプロジェクト契約を締結。同グループ社員がアクセンチュアへ出向し、プロジェクトをマネジメントする能力とITの両方のスキルを磨いています。

また、WeWorkのようなコラボレーションワークスペースを利用するのも、外部企業との連携を促進する1つの方法です。オフィス家具のイトーキでは東京の京橋にあるショールーム「SYNQA」をイノベーションのためのクリエイティブなオフィスと位置づけ、コラボレーションを推進する機能を提供しています。

今後はますます業界・業種の垣根を越えて、複数の企業や団体がパートナーシップを結んで協働し、積極的に外部の知見やノウハウを取り入れる必要があるでしょう。

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