元サッカー日本代表 戸田和幸氏インタビュー「守り人」
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2018年10月15日
- 著名人インタビュー
2002年日韓ワールドカップで守備的MFとして4試合にフル出場した戸田和幸氏。現役時代は相手のエースに仕事をさせない「つぶし屋」の異名を持ち、イングランドやオランダなど海外のチームでもプレーしました。現役引退後の2014年シーズンからは解説者として、2018年からは慶應義塾体育会ソッカー部Cチームの指導者として、活躍の場を広げています。そんな戸田氏にサッカーにおける攻守のポイントを伺いました。その中には、情報セキュリティーにおける「守り」に通じる点がありました。
サッカー選手に重要な能力は「認知能力」
これまで培ったサッカーの感覚や経験と身に付けた知識や理論を組み合わせて、サッカーの本質や楽しさを伝えたいと思いながら日々の仕事に臨んでいます。サッカーは攻守が激しく切り替わり、一瞬の判断やミスによって局面が大きく変わるスポーツです。例えば、セットプレーやコーナーキックの際に、相手選手をマン・ツー・マンでマークしている選手が、マークを外して相手をフリーにしてしまえば致命的です。周りの味方と連携せずに、自分1人だけ動いてしまえば手薄なところができて自陣へ攻め込まれるリスクが高まります。
サッカーはあくまで相手のいるチームスポーツです。「ここでボールを奪い取れる」と判断しても、あらかじめ前線の動きを見ておいて、前線と連動しながら奪いにいくことが重要です。解説ではそういう部分を映像と連動させながら言葉で分かりやすく視聴者に伝えたいと思っています。
優れた連携は、日ごろの準備から生まれます。サッカーは1人ではできません。世界最高のプレイヤーといわれるリオネル・メッシ選手でもクリスティアーノ・ロナウド選手でも、1人で11人を相手に戦えない。
戦術を練り、チームとしての判断基準をつくり、どの選手を起用するかを決める指揮官がいて、それらを理解し、実行する選手がいます。監督やチームメートと対話しながら、さまざまな局面を想定した練習を繰り返します。
選手を輝かせるには本人の能力だけでなく、チームメートや選手を支えてくれるスタッフの存在が必要です。「個人」を生かすのはチームであり戦術です。「自分の色」は与えられたポジション、役割、周囲との連携や影響でつくられます。
味方をもあざむくような即興性が必要なときもありますが、それもフォーメーションを確認しながら練習を繰り返した土台があってのことです。しかも即興性を発揮できるのはゴールを決める直前だけです。
試合の局面によっても異なりますが、選手の取り得る選択肢は多くてもせいぜい3つか4つです。その中で瞬時に何を選択するか。そこで選手にとって重要なのは、「認知能力」です。適切な認知ができれば、相手の動きに制限をかけたり、相手の戦術を封じたりすることができます。例えば、川崎フロンターレのMF(ミッドフィルダー)中村憲剛選手。2018年8月25日のベガルタ仙台戦でゴールを決めました。そのシーンを取り上げたメディアは多かったですが、僕は解説者として、そこに至るまでの彼の動きに注目しました。実は、ゴールシーンのしばらく前に中村選手の動きによって、相手チームのGK(ゴールキーパー)がポジションを下げた。それを見計らったように、中村選手は鋭くゴール近くにアプローチすることで、相手GKの選択肢を狭めました。
僕にはそれが、相手GKに中村選手が自分の存在を意識させることで「下げさせた」計算されたプレーに見えました。このボールに触れていないときの動きが、その直後のチャンスに転じたのです。メディアではあまりフォーカスされませんが、このように攻守を切り替える一瞬のタイミングを捉え、味方を動かし、相手にプレスをかけて攻撃の起点となれるような選手は貴重です。
指導者として考えるチームづくりのポイント
慶應義塾大学ソッカー部にはA~Dまで4チームがあり、僕はCチームを指揮しています。Cチームは育成リーグである「インディペンデンスリーグ」で戦っていて、個人を成長させながら発展性のあるサッカーをし、その中で勝利することを目指しています。慶應ソッカー部は学業と両立、または学業を優先している学生が多く、モチベーションもさまざまです。練習する時間にも限りがあります。
僕が赴任して、まず行ったのは意識改革です。「君たち学生が毎日わざわざ、グラウンドに足を運んで、サッカーをする意味は何か」と問いかけ、選手たちに考えさせました。主体性があるからサッカーをしているわけですが、だからといって自己中心的なドリブルばかりしていてもチームメートから信頼されず誰もボールを回しません。チームの中で担うべき役割を認識して、責任をしっかり果たす自覚があるかどうか。自分の気持ちと向き合わせた上で、サッカーとはどういうスポーツなのかを選手になるべく伝えています。
日々の練習内容をその日に必ず振り返り、1人ひとりの選手に次の練習までの課題を出します。撮影したプレー映像とメッセージを交えて、課題を共有することを心掛けています。日ごろのトレーニングでやりたいこと、やってほしいことをきちんと会話してお互いに理解しておく。試合直前のミーティングでは、監督として僕が相手チームの動きを見て、戦術を練り、選手たちに伝えます。それでも勝つのは簡単ではありませんが、少しずつ手応えが出ています。まだ課題は多く、監督である僕自身が反省や学びの連続です。
弱いところを認識しカバーする
そうですね。実際、出場する選手11人のレベルがそろっていないのが実情です。どうしても個人のフィジカルやスキル、サッカー観、認知力などのレベルは違う。弱いところを攻められたら対応が難しい。そこで、どうするか。頼りになる選手をどこに置き、どんな役割を担わせるか。僕は監督として選手のレベルを見極め、できることとできないことを把握しているので、弱いところをカバーする戦術を取っています。
試合ではまず、守備を整えます。ゴールを守る準備が整ってから攻める。整っていないまま攻めると、簡単に"空き巣"に入られてしまいますから。守る場合は相手の選手をマンマークしますし、ゾーンで守ることもある。大切なのは攻守では優先順位があるということ。選手にはそれを意識するように伝えています。
海外では日々の生活も含めて、全部自分でやらなければなりませんでした。日本と比べると世界各地からさまざまなバックグラウンドの選手がやってきてプレーをしています。日本人とは違うので、ピッチの上で相手に動いてもらいたい場合は、対話を通じて自分の意思をしっかり言葉で相手に伝え、互いの理解を深めておく必要があります。
トップクラスの選手が世界中から集まる欧州で強く感じるのは、サッカーがものすごいスピードで日々進化しているということです。特にデータの活用は進んでいます。例えば欧州では選手にGPSデバイスをつけて集めたデータと、その分析結果をハーフタイムでフィードバックするチームもあります。"これ以上行ったら危険"だとか、運動量や運動強度を的確にアドバイスしています。データの活用に限らず、最近の欧州選手は身体が大きくプレーも速い。別のスポーツに見えることもあります。こうなると日本人は欧州の大型の選手によるダイナミックなサッカーと同じところを単純には目指せません。日本人は日本人なりのスタイル、戦術をつくっていかないといけない。データを有効に活用しながら、フィジカルを鍛えていかないと一気に世界から置いていかれる可能性もあると僕は感じています。
その中で、勝つ確率の高い戦術やプレーは何か。選手の持つ「個」の力を引き出すために組織としてどう取り組むか。簡単ではありません。しかし、それができるとサッカーは劇的に変わるし、もっと楽しくなると僕は確信しています。これからもサッカーの面白さをもっと多くの人に伝えていきたいと思っています。
プロフィール
解説者としてのプライドと信念を綴った戸田和幸氏の注目の著書 『解説者の流儀』を
戸田氏のサイン入りで 抽選で5名様にプレゼントさせていただきます。
締切り:2018年11月22日(木)
たくさんのご応募ありがとうございました。
当選の発表は本の発送をもって代えさせていただきます。
新しいことをやると拒否反応があることも分かっていた。
それでも自分にはできる自信がありました。
試合にはストーリーがあります。
それを感じながらサッカーの本質と楽しみを伝えていきたいと思っています。
戸田和幸
戸田和幸(とだ・かずゆき)
1977年、東京都出身。桐蔭学園高等学校卒業後、清水エスパルスに加入。2002年ワールドカップ日韓大会では守備的MFとして4試合にフル出場し、ベスト16進出に貢献。その後は国内の複数クラブ、イングランドの名門トッテナム、オランダのADOデンハーグなど海外でもプレー。13年限りで現役を引退。現在は解説者として活躍する傍ら、18年からは慶應義塾体育会ソッカー部Cチームのコーチに就任。近著に『解説者の流儀』(洋泉社発行)がある。
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