“幸福学”前野教授と語る、つながりを大切に社員の幸せを高めるユニアデックスの取り組み

働き方の多様化などを背景に、一人一人の想いやあり方に寄り添ったウェルビーイング実現が企業において重視されています。ユニアデックスでも、社員の幸福度を高め、より働きがいのある職場環境をつくることを目的に「働きがい推進課」を創設するなど、さまざまな取り組みを行っています。今回、日本におけるウェルビーイング・幸福学研究の第一人者である慶應義塾大学教授の前野隆司さんをお招きし、専門家の視点から、ユニアデックスが実践する取り組みへの率直なご意見や、その取り組みをさらに進化させることでどのような効果が期待できるのか。ユニアデックス常務執行役員 橋本博文が、これからの歩みに必要な視点についてお聞きしました。

つながりを大切にすることが、社員の幸福度にも直結する

橋本 私は以前から、前野先生がこれまでに提唱されている「幸せの4つの因子」に大変感銘を受けています。新入社員の前、組織の発足式、息子や娘の結婚式などでも話すなどさまざまなシーンで引用させていただいています(参考:「幸福学の前野 隆司教授に聞いた_どうしたら幸せに働けますか?」)。実はその他にも、私の座右の銘である「チェーンせよ」という言葉も折に触れて伝えているんです。

慶應義塾大学 大学院システムデザイン・マネジメント研究科 教授・博士(工学)前野 隆司 さん

前野 会社でもプライベートでも「幸せの4つの因子」について話してくださっているなんて、一貫性がありますね(笑)。ありがとうございます。とてもうれしいです。ユニアデックスは社員一人一人の働きがいに向けて、さまざまな取り組みを実践されているとのことですが、まずは、その精神的支柱の1つになっているであろう橋本さんの「チェーンせよ」という言葉が生まれたきっかけについて教えていただけますか。

橋本
 はい。当時、システムエンジニアだった38歳のとき、お客さま向けシステム構築の巨大プロジェクトのPM(プロジェクトマネージャー)として、プロジェクトの遂行に苦しんでいたときに生まれた言葉です。とかくプロジェクトは、箱を線でつなげるピラミッド型の体制図になりがちですが、そうではなく、円と円が直接つながるイメージで、一人一人がつながりを持ち、助け合い、ゴールに向かって進んでいくチームになりたい。そして、みんなで幸せになるという想いで「チェーンせよ」という言葉が生まれました。

これには、人と人との輪をつなげ、今を変える力にしていく。そんな願いを込めています。確かに、言い切る形なので、今の時代には強い印象を受ける言葉です。ただ、メンバー同志が信頼関係を築いた上で用いていました。こうした想いや関係性がなければ良好な人間関係は生まれません。苦しいときはなおさらです。今でもこれまでの経験を糧にしながら、この言葉を使い続けて人とのつながりを大切にしています。

ユニアデックス株式会社 常務執行役員(技術全般管掌) 橋本 博文

前野 幸せの研究によると、つながりは幸福度を高めます。「幸せの4つの因子」の1つに「ありがとう」因子があります。周囲にいるさまざまな人とのつながりを大切にする人や、親切な心、感謝の気持ちを持っている人は、より幸せを感じやすいという研究結果ですが、「チェーンせよ」にも近いものがありますね。 

出典:2019年度ユニアデックス決起集会講演資料/「幸福学」前野 隆司さん 

確かに、言葉自体は強い印象なので、信頼関係がなければ成立しにくい面もあるでしょう。実は、こうした強い言葉でコミュニケーションを図るには、お互いがお互いのことを分かりあっているような良好な人間関係が基礎になければいけないのです。こうした社風の醸成にも、ユニアデックスの確かな歩みを感じます。本当に素晴らしいことです。

また、幸せは伝染し、不幸せも伝染するという研究結果もあります。これは裏を返せば、幸せであれば不幸せが伝染しにくくなるということです。仮に周囲にやる気がないという人がいたとしても、ポジティブなつながりに守られるのです。このことから、幸せなつながりを目指す「チェーンせよ」という言葉には、社員の幸福度を高めるための想いが込められていると言えますね。

橋本 先ほども少し触れましたが、この言葉を使い始めた当初は、メンバー同士の“強固なつながり”をイメージしていました。しかし、時が経ち、より多くの経験を積むにつれ、お客さまや他部署のみならず、社員の家族、私の家族などさまざまなステークホルダーとのつながりがゆるやかに広がっていくような感覚があることに気付かされました。例えば、社内で顔がなんとなく分かる、だから何か依頼がある際には安心して相談ができる。そんな感覚です。

前野 強いつながりはもちろん、今お話してくださったような“弱いつながり”も大事だという研究もあります。会社で言えば、同じチームで毎日顔を合わせるような強いつながりはもちろん重要です。ただ、橋本さんがお話くださったように、他の部署でなんとなく顔見知りの程度という弱いつながりも、いざというときに頼りになる存在となる例が多々存在します。ところで、こちらの紙はどのような歴史のあるものなのですか?
 

橋本 この紙は、「チェーンせよ」という言葉を思いついた2002年に現場に貼っていたものです。今では「チェーンせよ」という言葉を伝えていますが、他にはラグビーの精神をイメージした「One for ALL/ALL for One」や、社員やステークホルダーも含めて、みんなで幸せになろうという想いを込めた「Win-Win」なども書き添えていました。

ここには書いてはいませんが、難しい業務で行き詰まったときには、みんなで高校球児のように上を見て、手を上げたりもしていました。普段、なかなかやらない動作ですが、やってみると意欲が湧いてくるんですよ。そうやってチームメンバーと励まし合って、難局を乗り切りました。
 

前野 希望に満ちたポーズをとることで、実際に希望に満ちた気分になれるという研究もありますよ。例えば、顔を上げて大股で歩くだけでも、幸福度は高まると言われています。「チェーンせよ」のような「〜せよ」という命令形の言葉は、先ほども少し触れましたが今の時代だと強い印象を与えるかもしれません。しかし、橋本さんの温かい人柄や、その背景にあるメッセージがきちんとあるため、社員の心に響き、「ついていこう」という気持ちにさせてくれるのだと感じますね。 

サンクスカードを贈ることで感謝が可視化され、社員の幸福度がより高まっている

橋本 当社では2024年5月から、日々の業務で生まれた感謝の気持ちをWeb上で贈り合うことができる「PHONE APPLI THANKS(以下、サンクスカード)」を導入しています。それまではオープンではなく贈り合う同志のみで感謝を伝え合う取り組みを行っていました。今回から、より感謝と称賛を広げることを目的に、全社員がサンクスカードを閲覧できるようになりました。私も普段会話をしている間柄でも、このような形で感謝の気持ちを伝えてくれるとうれしいものだと実感しましたね。

前野 「感謝を伝えると幸福度が上がる」という研究結果は、数多く存在します。「社会関係資本」と言いまして、良好な人間関係を築くことで幸福度が上がるというものです。サンクスカードによって感謝を可視化し、社員のつながりを強めることは、まさに幸福度を高めるための王道のプロセスと言えるでしょう。


サンクスカード

橋本 当社の社長と会話している中で、「想い」という言葉が印象に残ります。そして、この言葉をサンクスカードでも用いています。お互い「苦しいときがあっても、強い想いがあれば乗り越えられる」と信じていて、そんな信念を改めて確認し合う場にもなっています。

前野 「想い」という言葉を使うのは素晴らしいですね。IT系企業など、業務に追われてしまうことで人間味が失われると、幸福度が低下している会社が多い傾向にあります。その中で、大切になるのが「想い」です。経営陣のお二人が「想い」という言葉を使われているのは、企業として培ってきた歴史などもその根底にあるのでしょうか?

橋本 ええ。もともとの社風がその基礎にあると思います。お客さまから「ありがとう」と言っていただくために、「想い」を持って仕事をする。こうした文化が根付いていると感じます。

前野 想いにあふれた温かい会社を作られていることに非常に感銘を受けます。

橋本 サンクスカードは派遣社員も含めた社員が使用でき、「いいね」機能で共感できる点も魅力です。最近では、サンクスリレーを実施しました。これは、経営層からスタートし、リレー形式でカードを贈り合うものです。部門対抗でカードの枚数を競い合い、ゲーム感覚で楽しみながら感謝を伝え合いました。これによって通常月の3倍のやり取りが生まれたのでとても良い取り組みでした。

前野 サンクスリレーもまさに「チェーン」ですね。ちなみに、感謝は、当たり前になると“飽きる”のが人間の脳の構造です。そのため、定期的にサンクスリレーのような工夫(非日常の体験)を取り入れることで、幸福度を維持するのが良いでしょう。例えば、まだ目に見える成果が出ていなくても、努力している人に対して「励ましたり、元気づけたり」するような応援メッセージを送ることも一人一人の幸福度を高めることにつながると考えられるので、エンカレッジ月間を作るなどの取り組みも実践されると良いです。


「チェーンせよ。そして健やかに」。心と体の両方が健康でこそ幸せになれる

橋本 ここ数年で、「チェーンせよ」の後に「そして健やかに」を加えるようになりました。きっかけは、私が人生で初めて大病を経験したことです。一気に体力がなくなり、それまでの「当たり前」ができなくなる中で、心身ともに健康であることの大切さを身にしみて実感しました。みんなで幸せになるためには、大前提として「健やか」であることが何より大切だと知ることができたのです。

前野 「チェーンせよ。そして健やかに」となることで温かみを感じますね。ウェルビーイングの視点でお話をすると、ウェルビーイングとは「幸せ」に近い意味で用いられることが多くなりましたが、WHO(世界保健機関)の定義では、「心と体と社会がいい状態」を指します。つまり、体の健康は心の幸せに、心の幸せは体の健康にそれぞれ影響を与え合っている、切り離すことができないチェーンなのです。

橋本 ユニアデックス全体では、2014年から社員が日々の仕事をする上で、意識して行動していくために「ユニアデックス・フィロソフィー」を掲げています。そのなかのビジョンである「未来のデジタル社会に「ほっとする幸せ」を創ります。ムズカシイも楽しもう!」は、社員投票で決めました。サンクスカードのスタンプ機能にもそのキーワードを登録し、メッセージに添えて想いを共有しています。

前野 言葉が分かりやすいですし、社員みんなで作り上げている点は良いですね。今回お話をうかがって、IT業界の中で、思いやりにあふれた幸せな会社になることを実践されていらっしゃることに感動しました。また、組織として「働きがい推進課」という部署があることからも、経営陣はもちろん社員のみなさん全員が「幸せ」について真剣に考えていることも感じられるお話でした。

プロフィール

前野隆司(まえの たかし)
1984年東京工業大学(現東京科学大学)工学部機械工学科卒業、1986年同大理工学研究科機械工学専攻修士課程修了、同年キヤノン株式会社入社。1993年博士(工学)学位取得(東京工業大学(現東京科学大学))、1995年慶應義塾大学理工学部専任講師、同助教授、同教授を経て、2008年慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科教授。2024年より武蔵野大学ウェルビーイング学部長兼務。著書に「脳はなぜ「心」を作ったのか」「幸せのメカニズム-実践・幸福学入門」「実践・脳を活かす幸福学 無意識の力を伸ばす8つの講義」などがある。

橋本博文(はしもと ひろふみ)
1987年バロース(現BIPROGY)に入社。2001年日本の有価証券電子化プロジェクト(株券電子化等)に参画し、2002年大手金融機関の一大プロジェクトのPMを担当。プロジェクトマネジメントの中で自身、そしてチームメンバーの結束力を高め、完遂に向けて「チェーンせよ」の合言葉を発見。プロジェクトを成功に導く。その後、金融機関全般、製造業、流通業のお客さまを担当する執行役員を歴任。2020年、ユニアデックス常務執行役員(エンジニアリング部門全般担当)として異動、現在に至る。