世界最先端のIT国家、エストニアを知っていますか【第3回】次にくるスタートアップが続々「Latitude59」

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  • 2019.06.24

国の存亡をかけてIT活用を磨き上げてきたのがバルト三国の1つ、エストニアです。前回は世界最先端といわれる電子政府が築き上げたセキュリティーについて解説しました。今回は、2019年5月16日、17日にエストニアで開かれた年に1度の国際的なスタートアップイベント「Latitude59」を紹介します。エストニア大統領がスピーチをする一大イベントは、世界のスタートアップの今と未来を知る絶好の機会です。

kumagai

Next innovation OÜ 代表取締役 熊谷宏人氏
1997年生まれ、東京都出身。東京・小平と米・イリノイにて幼少期を過ごす。エストニアのサイバーセキュリティー教育に魅了され、タリン工科大学ITカレッジのサイバーセキュリティー専攻に入学(在学中)。2018年3月にエストニアでNext innovation OÜ
を起業。日本とエストニアの架け橋となるべく日々奮闘中。






エストニアに世界中のスタートアップ関係者が集合

LatitudeOpening
Photo by Ahto Sooaru

Latitude59は、700以上のスタートアップが集まるバルト三国最大のスタートアップイベントであり、エストニア大統領がスピーチをするほど注目される催しとなっています。世界中のスタートアップ企業のCEOや政府関係者などが登壇するステージの他に、2日間で4つのピッチコンテストが行われました。ちなみに、「Latitude59」はエストニアの緯度である北緯59度に由来し、国のブランディングに数多く取り入れられています。

LatitudeOpening2Photo by Ahto Sooaru

2日間のイベントでは、世界中から集まった100人以上のスピーカーが登壇しました。イベントはエストニア大統領Kersti Kaljulaid氏の開会の辞で幕を開けました。続いてヨーロッパや北欧で活躍するVC創業者やドバイの政府アドバイザーと共に、国のスタートアップへの資金提供に関してディスカッションをしました。

LatitudePresidentPhoto by Ahto Sooaru

またイベントを通して、サイバーセキュリティー、リーダーシップ、STEAM(Science, Technology, Engineering and Mathematics)教育、スマートシティー、ヘルステックなど、19のトピックに関して包括的な議論が行われました。その中には、個人送金サービスTransferWiseの創業者Taavet Hinrikus氏やブロックチェーン企業Guardtimeの代表Martin Ruubel氏が登壇しました。

「Cyber security update」というステージでは、NATOサイバーセキュリティー本部のリサーチャーやエストニアのセキュリティー企業RangeforceのCEOなどによるパネルディスカッションが行われ、プライバシー保護やセキュリティー、そしてそれらはビジネスにどのような財務的影響を与えるのかについて話し合われました。

イベントではこのような特定のトピックに関するステージの他にもブースエリアがあり、AIやIoT、エネルギー系など、さまざまなスタートアップが並んでいました。

LatitudeInside
Photo by Ahto Sooaru

LatitudeInside2
Photo by Harry Tiits

今回はその中でもピッチコンテストに参加し注目を集めた2社のスタートアップを紹介します。

大統領候補も利用する個人認証サービス「OriginalMy」

「OriginalMy」はブロックチェーンを用いた個人認証サービスを提供しており、Latitude59のラストを飾るピッチコンテストにも出場した今注目のエストニアのスタートアップです。エストニアのIDカードと内容はほぼ同じですが、最終的にはカードではなくスマホ1台で個人の認証、電子署名、電子投票などを可能にします。

LatitudeOriginalPhoto by Kojin Kumagai

CEOであり創業者のEdilson Osório Jr.氏は、ブラジル出身の元ミュージシャンで、彼の作成した楽曲をはじめとした知的財産の保護は難しく、時間的にも金銭的にも負担がかかりました。そのため2015年に後に現在のOriginalMyとなるプロトタイプを作成したところ、ブロックチェーンで自らの認証をしたい、資産・財産の保証をしたいという方が多くいたため、サービスをより充実させ、起業するに至りました。スタッフやアドバイザーとして、Google、Samsungなどの関係者や元従業員を擁しています。

LatitudeEdilson
Photo by Ahto Sooaru

これまでの実績としては、ブラジルの政府機関や企業、署名を求めるNGOで用いられているほか、2018年のブラジル大統領候補も利用しており、現在30,000人の利用者がいます。また、2019年4月にマドリードで行われた国連ICTの会議において、ブロックチェーンが社会に与え得る影響の具体例としてOriginalMyのサービスが紹介されました。

現在のマーケットはブラジルに照準を合わせていますが、今後の展望としては近いうちにイタリア、スペイン、ポルトガルにもオフィスを設置し、事業拡大を図る予定です。また、サービスの内容としては、上記の他にも、資産や運転免許証、さらには卒業証明書といったものまで、あらゆるデータの確認を可能にし、さまざまな手続きを安全に簡略化することが最終的なゴールであると述べています。

コンテストで優勝したAI顔認証プラットフォーム「Identix.one」

「Identix.one」はAIを用いた顔認証サービスおよび情報プラットフォームを提供しています。Latitude59のラストを飾るピッチコンテストで全体優勝を果たして、10,000ユーロを獲得した今注目のスタートアップの1つです。現在従業員数は13人、ロシアを中心に顧客は銀行や保険会社など200社以上にのぼります。

LatitudeIndetixPhoto by Kojin Kumagai

主なサービスは企業向けのリアルタイムクラウドベースの顔認識プラットフォームで、従来の顔認証サービスよりも高性能な認証サービスを提供しています。そして、170カ国で300種類以上の文書を瞬時に認識できます。識別精度が高いため、顔の角度や光に関係なく認識可能です。

現在は拠点をロシアに設置し、事業はイギリスにも展開しています。今後はカリフォルニアにも事業を拡大させる予定です。

LatitudeIndetix2Photo by Ahto Sooaru

この2社に関しては今後大きく成長できる可能性を高く評価されていました。そして興味深いのが、どちらのスタートアップも海外にルーツを持ち、他国でサービスを展開しているにもかかわらず、エストニアで創業している点です。

ブースを出しているスタートアップを見ても、メンバーの出身地がインド、香港、フランス、ブルガリアなど、世界中のさまざまな国から集まっているのが印象的でした。エストニアは、国内でスタートアップが盛んなだけではなく、整ったエコシステムとEUのハブとしての役割を生かし、世界中の起業家に国境を越えたビジネスチャンスを与えているのです。

第3回【とっておきエストニア現地レポート】

Latitude59の会場であるTallinn Creative Hubは、1913年に建てられ火力発電所として使われていた施設をリノベーションしてできたカルチャーセンターです。建物内は昔の工場の面影をそのままに残してあり、歴史と未来が融合する国としてのエストニアを象徴する場所となっています。

LatitudeHallPhoto by Ahto Sooaru

LatitudeInside5Photo by Tago Kalbri

2019年のLatitude59は2日間で58もの国から約2500人のスタートアップ関係者が来場し、とても大きな盛り上がりを見せました。また1日目の夜にはネットワーキングを目的としたパーティーが開催され、地元のロックバンドが演奏するステージが設けられていたところにエストニアらしさが感じられます。

LatitudeEvent1

Photo by Ahto Sooaru
LatitudeEvent2Photo by Ahto Sooaru

イベントホールには、登壇後のスピーカーに直接質問を投げかけることができるTransferWiseブースが設けられていたり、通路を地元Starship Technologies社の自律走行ロボットが走っていたりと、エストニアのスタートアップを存分に知ることができる雰囲気となっていました。

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Photo by Kojin Kumagai
LatitudeInside4
Photo by Ahto Sooaru

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