保育のICT化が目指す、より良い子育てのかたちとは(前編) ~「効率化」を模索しながらたどり着いた「保育の質の向上」という真の価値

Work, Life, +Digital ~暮らしのデジタル化から見える未来

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MIRAI SERVICE - Future Service Laboratory

2022年3月14日公開

仕事と子育てを両立するためには欠かせない存在である保育園。待機児童問題や多忙な保育士の労働環境改善が大きな課題ですが、その解決策の一つとしてICTの導入が進んでいます。政府は2017年に公表した「子育て安心プラン」では保育士の業務負担軽減のための支援策としてICTの活用がうたわれており、保育園によるICT環境整備に対する補助金も支給されるようになりました。

日本ユニシス株式会社(注)では、こうした政策的な注目が高まる以前から保育現場でのICT活用に向け取り組みを始めています。2015年に保育業務支援クラウドサービス「ChiReaff Space®」(チャイリーフスペース)をリリースしています。
まさに先駆けといえるこのサービスが2021年には「BabyTech®AwardJapan 2021」の保育ICT部門で優秀賞を受賞しました。今回の "Work, Life, +Digital" では、ChiReaff Spaceの企画から開発までのエピソードやお客さまからの反応、そして2022年春にリリースを予定している新サービスmierun(ミエルン)について担当者の浜田大輔さん、河本あかりさんにお話を伺いました。

(注)日本ユニシス株式会社は、2022年4月1日付で商号を「BIPROGY株式会社」へと変更いたします。
(インタビュアー:未来サービス研究所八巻 取材日:2022年1月24日)

浜田大輔(はまだ だいすけ)chihamada

キャナルベンチャーズ株式会社 ディレクター
2004年日本ユニシス入社。入社後はおもに金融営業部門を担当しつつ、社内プロジェクトの一環で2012年に子育て支援サービスを企画。2014年には医療・福祉分野(子育て・介護)へ転じ、新規事業「ChiReaff Space」の立ち上げを担う。2017年に日本ユニシス傘下のコーポレート・ベンチャー・キャピタル「キャナルベンチャーズ」の立ち上げメンバーとなり、現在は同社ディレクター。

河本あかり(かわもと あかり)chikawamoto

日本ユニシス株式会社 サービスイノベーション事業部 ソーシャルサービス営業部
2018年日本ユニシス入社。配属当初から保育・子育て分野を担当。「ChiReaff Space」の販売をしていく中で、顧客からの要望をきっかけに2022年春リリース予定の新サービス「mierun」を企画。


リリースまで足かけ3年。「業務効率化」が保育園側に受け入れられず苦悩

八巻 ChiReaff Spaceの概要をお聞かせください。

河本 保育園、こども園向けの業務支援システムです。多くの時間がかかる保育計画や発達記録などの書類作成やその他の事務作業の負担を軽減し、園児と直接触れ合う時間を増やします。さらには、園児一人一人の発達状況を可視化し、指導計画などへ効果的に反映させる仕組みなども用意しており、保育の質の向上にも貢献できるサービスを目指しています。現在約200施設の導入実績があります。

ChiReaff Spaceの利用イメージ。①園児の登降園管理、②発達チェック/園児カルテ、③指導計画作成など、さまざまな機能を用意。詳細はChiReaff Space商品ページをご覧ください。

八巻 このサービスは、保育のICT化の先駆けだと思いますが、浜田さんは当時、開発の主要メンバーとしてなぜ保育業界に注目されたのでしょうか。

浜田 はじまりは2012年になります。日本ユニシスの平岡社長(※当時はCMO)が率いる社内プロジェクトで、週一回のペースで新規事業の検討をしていました。私を含む4人のメンバーで検討を始めたのですが、4人とも教育や子育て分野に関心があり、ビジネスとしての市場性や課題の多さを絞り込む中で保育にたどりついたのです。メンバーの一人はキッザニアでアルバイトをした経験があり、子どもの興味関心を育てることに思い入れがありました。私は妻が保育士ということもあり、さまざまな社会課題の根幹の一つとして少子化に関心を持っていました。
そのプロジェクトでは1年かけてプレゼンをしたのですが、結局事業化への承認はおりず...。でも自分としては、絶対に必要なサービスだ、いけるんじゃないかという勝手な自信が当時はありまして(笑)。その後2年くらい粘りに粘ってリリースへこぎつけました。

八巻 3年という時間をかけてサービスを作り上げられましたが、思い出に残っているエピソードはありますか?

浜田 検討を始めてから保育園を回ってアイデアの説明をしたのですが、はじめの1年くらいは全然振り向いてもらえませんでした。「保育士さんたちの大変な業務を効率化して解決します」と説明すると、反応が悪いというか、聞いてもらえない。「そこは保育士が頑張ればいい」とか、「保育士をだめにする」という反応でした。「ダイナマイトを作っているのと一緒だ」みたいなことを言われたこともありました。いいものを作っているのかもしれないけれど、それでは保育士が育たない、ということなのでしょうね。そんな一つ一つの意見に応えていこうとするなかで、なにが正しいのか、正しくないのかわからなくなってしまい悩んだ時期もありました。

現場と対話しながら「保育の質の向上」の価値提供に気づいたのが転換点

八巻 当初は効率化に対する保育現場の抵抗感が大きかったということですね。

浜田 保育園の内装を手掛けている会社と一緒に、日本ユニシスが保育園のシステム的なソフトを提供し、内装などのハード面はこの会社が提供するという座組で一緒に提案を進めたこともありました。いろいろな保育園を回ったのですが、やはり受けがあまりよくなく、もうやめようとしていた矢先に大手保育事業者さんが興味を持ってくださいました。この保育事業者さんからは「これは保育の質の向上に寄与するじゃないか、ぜひ日本に広めたい」と言っていただいたんです。その時に、「そうか、このサービスは効率化だけじゃなくて、日本の保育の質を上げるためのものになるんだ」ということに気づきました。
その後は、保育園に説明する際に「このサービスを利用すると保育の質が上がる、子どもと接する質が変わる」という話をするようにしました。すると、途端にどこの保育園でも目の色を変えて話を聞いてくれるようになりました。そこが大きな転換点です。

それから1年ほど、アドバイスをくださった保育事業者さんが運営する最先端の保育園や研究部門を訪問し、どういうサービスをどう作ったらいいのかという議論をさせていただきました。日本の保育に求められるものが何か、それを知る一念でサービスをブラッシュアップしていき、そこで改めて、大事なものは効率化ではないということがはっきりわかりました。結局、その事業者さんへのサービス導入には至らなかったのですが、でもその1年間は結構大きかったかなと思います。

八巻 保育現場に提供するサービスの価値として、「業務の効率化」というキーワードから、「保育の質の向上」という非常に大きな転換点があったわけですね!ところで、浜田さんはChiReaff Spaceの開発を進めながら、保育士の資格も取られたと伺いました。きっかけなどはあったのでしょうか。

浜田 開発にかかわってきた数年の間に、社内の風土が少しずつ変わってきていました。ICTのシステムを売るだけではなく、新規事業の主体になってチャレンジするという空気が出てきました。そうなると、保育園にシステムを提供するだけではなく、私が保育園を経営するのも一つの選択肢になります。このような流れの中で、保育士の資格をとるのも当然の一つの過程だと思いました。またもう一つ、ChiReaff Spaceの開発を通じて、保育業界はなかなか外の人を受け入れにくい風土があると感じていました。保育士の言葉でしゃべらないと聞いてもらえない、ならば資格をとろう、ということです。

八巻 実際、保育の現場に立つことはされたのですか?

浜田 知人の保育園で1日体験しました。まあちょっとお手伝いをしたというくらいですが、保育士らしい動きはできませんでしたね。オムツ替えや寝かしつけ、どれもやっぱり座学とは違います。プロフェッショナルな仕事なんだなと改めて感じました。たとえば自分の子を一人寝かせるのと、他人の子を五人同時に寝かせるっていうのはやっぱり違いました。ケイパビリティーが異なります。
日本は集団保育が基本ですから、その集団保育の中で保育士がされていることというのはすごいプロフェッショナルであり、素晴らしい。家庭での保育、子育てとは多分まったく違う視点の仕事なんだと思います。しかし、保護者の家庭にはあまりその素晴らしさが伝わっていないのではないかというもどかしさも感じていました。家庭と保育の現場がもっと一体になると、日本の子育てがより良くなるのではという気持ちも強くなってきました。

八巻 つぎに現在販売を担当されている河本さんにお伺いします。ChiReaff Spaceがリリースされてから7年がたちました。お客さまからの反応はどのようなものでしょうか。

河本 まず書類作成のような、事務に関する時間が大幅に削減されたというご意見を多くいただいております。またその削減された時間の使い方は、園によってさまざまだなという印象を受けています。たとえば園児一人一人と触れ合う時間にあてている園があれば、おもちゃの制作や読み聞かせの準備など、保育士さんの得意分野を伸ばしていく時間に使っているという園もありました。あるいは保育とは離れて休憩にあてている、そういった時間をしっかりと確保することで次の保育の充実につながるというご意見もありました。
事務的な業務負担の軽減に加え、園児の発達状況を可視化できる特徴がありますので、この可視化された記録に基づいて次の保育計画を立案するサイクルを回しやすくなった、保育の質の向上につながった、というご意見もいただいております。


園児カルテの一例。園児一人一人の発達状況、興味を持っていることが可視化されており、個性にあった指導計画が立てやすくなります。

河本 ほかにも、ChiReaff Spaceを導入されるにあたり、これまで紙でやってきた業務をどうICTで運用していくかという話し合いを園でされることがあります。この話し合いが、一つ一つの業務に対して、「この業務は何のためにやっているのか?」という目的意識の再確認に繋がります。結果として、業務に対する職員の方々の意識改革や、タイムマネジメントに対する意識の向上につながった、という意見も頂戴しました。

八巻 お客さまからの声としても、業務の効率化と保育の質の向上という双方のメリットを感じていらっしゃるということですね。開発当時のコンセプトの狙い通りの反応になりますね。

浜田 企画当初の考えとして、初めの一年は完全に業務の効率化を狙っていました。しかし実際に保育の現場の声を聞いてみると、効率化により空いた時間で子供と接する時間を増やしたり、保育の勉強に費やしたりすることで、保育の質の向上につながるとわかりました。販売開始時も、保育の質の向上を強調するべきか、効率化を強調するべきかというのは大変悩んだ部分です。結果としては「保育の質の向上が業務の効率化につながる」と、『保育の質向上』を一番に据え二面性をうまくアピールすることが非常に大事だと感じています。

(後編へ続く)
後編は、デジタル時代の中での子育ての未来、2022年春にリリースが予定されているmierunの概要を中心に伺います。
保育のICT化が目指す、より良い子育てのかたちとは(後編) ~デジタル時代の子育ては、保育園・保護者とつながりながら共に創っていく

【関連サイト】
保育業支援クラウドサービス ChiReaff Space®(チャイリーフスペース)

※記載の会社名、製品名は、各社の商標または登録商標です。
※自治体・企業・人物名は、取材制作時点のものです。

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(2022年03月14日更新)
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