保育のICT化が目指す、より良い子育てのかたちとは(後編) ~デジタル時代の子育ては、保育園・保護者とつながりながら共に創っていく

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2022年03月14日

  • 子育て・教育

保育現場でのICT活用における先駆的なサービスである日本ユニシスの「ChiReaff Space®」(チャイリーフスペース)。インタビューの前編では、サービスを企画した当初のコンセプト「保育士の業務効率化」がなかなか保育園側へ受け入れられず、現場との対話を続ける中で「保育の質の向上」という本当に求められている価値に気づいたエピソードをうかがいました。
後編では、競争が激化する保育ICT市場の中で進化を続けるChiReaff Spaceの強み、2022年春にリリースが予定されているmierun™(ミエルン)の概要、これからますます進むであろう保育のデジタル化に対する思いを伺いました。

前編はこちらから
保育のICT化が目指す、より良い子育てのかたちとは(前編)~「効率化」を模索しながらたどり着いた「保育の質の向上」という真の価値

若い保育士の方々の成長にICTで貢献したい

八巻 ChiReaff Spaceは保育のICT化として先駆けのサービスですが、現在は競合となる他社製品も多くリリースされています。他社製品と比較した際の強みについてどうお考えでしょうか。
 
河本 業務の効率化だけでなく、保育の質の向上を目指しているというところが一番の強みです。少子化ではありますが、近年は保育園も選ばれる側になり競争が厳しくなっているとよく耳にします。そのような業界環境の中で、リリース当初の2015年から効率化だけでなく、質の向上も目指してきたのはおそらく当社だけだったのではないかと思っています。
 
ChiReaff Spaceの機能の一つに園児の発達記録/園児カルテがあります。園児の発達記録は国から定められている業務ですが、ChiReaff Spaceでは入力された発達記録をグラフとして可視化できます。また同時に、4万人分の子どもの発達データの統計をシステムから確認できますので、このデータを参考に園児一人一人の個性を伸ばす一助にすることができます。統計データの提供は、発達とは他と比べるものではないという意見もいただくのですが、決して比べるということではなく、一人一人の個性を捉える上の一つの客観的な指標としてご活用いただいております。
 
もう一つ、独自の機能である辞書機能も好評です。辞書には発達記録に記載する項目について、その行為ができたことの意味や発達段階ごとの特徴などがまとめられています。一例を挙げると、「おいしいものを食べると『おいしい』と言う」ための言語発達や好奇心の発達にはどういった段階があるか、などを解説しています。こうした辞書は書籍でももちろんありますが、多忙な業務をしながらいちいち分厚い辞書を引っ張り出して発達について調べるのは大変です。ChiReaff Spaceですと、気になる項目をクリックするだけで内容を参照することが可能になります。この辞書機能を活用すれば、保育士としての経験年数に関わらず保育に関する知識を効率よく取得し、自信を持って保育に取り組んでいただけることもメリットの一つと考えております。

浜田 この背景には、保育士の方々の属性的な特徴も影響していると感じています。保育士の仕事に就かれている方の多くは20歳代くらいの若い女性で、未婚で子どもがいない方も多い。一方で園児の保護者は30代や40代で社会経験があり、バリバリ働いている方だったりします。ですので、保護者たちと話をするときにどうしても少し遠慮がちになってしまう。そういう若い保育士の方が、デジタルの力で事務的な業務をしながら保育のスキルを向上させる、さらに削減した時間で目の前の子どもに向き合う時間を増やすことで、保護者に対する接し方にも自信が出てくると思うんです。
 
八巻 質問は変わりますが、ChiReaff Spaceの機能についてリリース当初に比べて追加やブラッシュアップされた部分はありますか。
 
河本 まず国の方針や制度の変化にはしっかりと対応しています。保育指針の改定や、2019年に保育の無償化が始まった際もすぐにアップデートしました。お客さまからのニーズという点では、最近の新型コロナウイルスの情勢を受けて入退園時刻の打刻の方法を変えました。これまではタッチパネルを採用していたのですが、非接触のQRコード式でも打刻できるように変更しました。あとは、安心安全やヒヤリハットへの関心も高まっているので、園児の午睡の様子を記録する帳票入力機能への要望があり、テストリリースしている状況です。

保育士と保護者をつなぐ新サービスmierun。高速サイクルの機能改善も強み

八巻 2022年春には保護者と保育士のコミュニケーションサービスであるmierunをリリース予定ですが、開発されたきっかけについて教えてください。
 
河本 きっかけは、こちらもお客さまからの声になります。ChiReaff Spaceはもともと、保育士と保護者間の連絡帳機能は用意していませんでした。対面やアナログによるコミュニケーションの部分も残しておいた方がよいのではないかという思いが当時はあったのですが、実際にはお客さま側から連絡帳に関する業務負担が大きいという声が聞こえてきました。
 
たとえば外遊びで公園に行きました、ということを連絡帳に書くとなると、「今日は公園に行きました」という文章を園児30名なら30回、一人の保育士さんが書いている。保護者がお迎えに来る時間までにすべて書かなければいけないので、昼休みがそれでつぶれてしまう、というお話も聞きました。また最近では、新型コロナウイルスの影響で家庭への緊急連絡に対する需要が急増したということもあります。感染状況や自治体などの指針に応じて、「明日休園しなければならない」ということが前日の夜に決定する、などという事態が起こっています。連絡帳や配布物だけですと保護者の方が見ているかわからないし、間に合わない場合は保育園の職員が園児の自宅一軒一軒にお知らせをポスティングした、というケースもあったそうです。
 
こうした保育園側のニーズだけではなく、保護者からのニーズもあります。一つには、「育児の孤立化」が社会的な問題になっています。少子化が進み、核家族で暮らす中で保護者が子育てについて相談相手がなかなかいないという現状があります。さらにコロナ禍、地域の子育て相談室に通ったり、近所の公園でママ友とお話ししたりするような機会も減ってしまいました。mierunは保育士と保護者のコミュニケーションに特化したサービスではありますが、育児の孤立化を防いで相談がしやすくなるような環境やサービスづくりに貢献したいという思いも込められています。

mierun

mierunは保育園と家庭での子どもの様子や園職員の勤務状況、さらに開発者側の改善状況まで「みえる化」にこだわったサービスです。詳細は、日本ユニシスのニュースリリースをご覧ください。
 
八巻 保育士と保護者の間のコミュニケーションを支援するのがmierunの特徴ですが、こうした連絡帳機能は類似システムがすでに他社からも提供されています。差別化要素はどのようにお考えですか?
 
河本 はい、確かに後発という面はあります。しかし実際に他社の連絡帳サービスを利用されているお客さまから悩みを聞いてみたところ、一番多いのはサービスの改善要望がなかなか反映されない、ということでした。mierunは、改善要望へ素早く対応するとともに、対応の過程も見える化していくという点が大きなポイントとなっています。
 
一例を挙げますと、トライアル期間中に「保育士同士にしか見えないメモ機能を追加できないか」という要望がありました。連絡帳は保護者と保育士間のやり取りが基本になりますが、たとえば虐待の疑いなど、保護者には見られたくないけれども保育士間では共有しておきたい機微な情報というものもあります。
 
この要望を受けてから、2週間で実装を実現しました。他社の場合ですと一カ月から数カ月かかるという話も聞きますので、このスピード感はICTを専業とする当社ならではの強みだと自認しております。さらに、昨年12月初頭に開催された保育の展示会で、ブースの来訪者に新機能の要望について投票してもらうイベントをやりました。最も多かった多言語対応についてもすぐに実装に向けた準備をはじめ、年末の時点ではもう少しで現場実証するというタイミングまで来ています。
 
八巻 そういった先端的な技術開発という点では、最近は園児の午睡状況をモニタリングするマット型のセンサーや、電子体温計で計測した検温データを保育園業務システムと連動させるIoTの活用もはじまっています。IoTに関して今後の展開予定はございますか。
 
河本 展開としては視野に入れております。IoTのどういった機能と連携することが保育園にとって有益なのか、またコスト面はどうか、など多角的に検討しながら関係者の皆さまと意見交換を進めています。

デジタル時代の子育ては、さらに多くの人とつながっていく

八巻 IoT以外にも最近のトレンドは、母子手帳アプリの普及が進み乳幼児期のヘルスケアデータが取得しやすくなります。またGIGAスクール構想により小中学生の教育に関するデータ化も進んでいます。まさに妊娠・出産から青年期に至るまでのさまざまな情報がデジタル化される社会が近づいているといえますが、保育のICT化の先頭にいるお二人から見て、こうしたデジタル時代の子育てについてご意見をお聞かせください。
 
浜田 デジタル時代が進む中で、子育てについて考える人や議論する人が増えていくのはいいことだと思っています。今の子どもを取り巻く状況は本当にすごく変わっていて、自分たちが過ごしてきた子ども時代と同じように生きているわけじゃないですよね。ジェンダーだったり環境問題だったり、新しい価値観が出てきている。その新しい価値観のなかでどのように子どもと向き合っていくのか、そしてデジタルがどう寄与できるのか、そういった議論をしていきたいです。ICTの活用というと効率化の視点にいきがちですが、そこではない。デジタルサービスを作っている人たちの中でもそれぞれが「子育てってこうあるべきじゃないか」という思いを持って、議論しながら、いいものを作っていきたいです。
 
河本 データの活用に向けて価値提供をしていきたいと考えています。私は保育部門を担当していますが、当社には学校向けのサービスを提供しているチームがありますし、社会人向けのリカレント教育を担当しているチームもあります。そういった分野とも横断的に連携しながら、どういった価値提供ができるのか活動をしていきます。また、現実的なところではデータの取り扱いに関しては制度などへの考慮も必要となりますので、そういった動きも見つつ、お客さまからのお話も聞きながら進めていきます。これからmierunをリリースしますが、mierunをお使いいただくことで保育園側と家庭側のデータ連携が可能になることも一歩進んだ部分かなと考えております。お客さまから、たとえば保育園でこういう活動をした日は家で子どもは早く寝た、などの相関がとれると面白いね、などの感想もいただいています。
 
浜田 保育や子育てについて研究している先生方も多くいますので、先々にはそういった研究に貢献できるデータとしても還元していきたいですね。あとは、欧米では「子育てはプロに任せる」という意識がある一方で、まだ日本には「保育園に預けるのはかわいそう」という意識の違いがあるのではと感じています。データを活用することで、そういった日本の風習にチャレンジする企業もこれから出てくるのではないですかね。
 
八巻 共働きの家庭も増えていますし、そういったチャレンジが男女を問わず働きやすい社会につながっていくかもしれませんね。
 
浜田 おっしゃる通りだと思います。子育てや家族のあり方も大きく変わってきています。そういった変化に対して、一緒にチャレンジして行きたい人がいたら、ぜひ繋がりたいですね。子育てに対して想いを持っている方は、結構いると思うので。私は現在キャナルベンチャーズという会社に出向していてChiReaff Spaceとは離れてしまっていますが、今の職場でも子育てやお父さん・お母さんのケアに関するビジネスを担当していますので、子育て関係のサービスの方々との会話は続けていきます。
 
河本 繋がりたいというところでは、私も同じ思いです。ChiReaff Spaceはあくまでも保育園向けのサービスですが、mierunをリリースすることで保護者とも繋がりを持てるようになりました。ぜひ、多くの方に当社を身近に感じていただき、ご意見を頂戴したいですね。また、保育業界全体として変化のスピードが速くなっているとも感じています。こうした変化に対しても、当社が強みとする開発力をもってこれまで以上に素早く対応できるよう努めてまいります。
 
八巻 本日は貴重なお話をありがとうございました!

mierun2

インタビューに答えてくださった河本さん(左側)。ChiReaff Space、mierunにご興味がある方はいつでもお問い合わせください!とのことでした。浜田さん(右側)は、長年手掛けてきた子育て支援サービスへの熱い思いを語ってくださいました!

インタビューを終えて
 
 
筆者も我が子が保育園に通っていました。初めての子育てはわからないことだらけ、さらに仕事の山場が重なると身体的にも精神的にも不安定に...。そんな時、信頼して子どもを預けられる保育士さんの存在はとても頼もしく、いろいろ相談にも乗っていただきました。同時に、保育士さんの忙しさも目の当たりにしてきました。「より良い子育て」のあり方は人それぞれであり、おそらく正解はありませんが、効率化という軸だけで測れないことは間違いないでしょう。豊かな子育て社会を築くため、デジタルが果たせる役割には多くの可能性があります。そしてその可能性をかたちにするには、多くの人々と対話をし、つながっていくことが大切なのだとインタビューから教えていただきました。
 
 
(インタビュアー:未来サービス研究所 八巻)

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未来サービス研究所では、働き方や暮らしにまつわるデジタル化の動きについて調査研究を進めています。これまでのレポートやコラムは以下をご覧ください。

ほかにも、教育や介護のデジタル化に関するレポートを以下のリンクからご覧になれます。

2022年03月14日公開(2022年03月14日更新)

浜田大輔(はまだ だいすけ)

キャナルベンチャーズ株式会社 ディレクター

2004年日本ユニシス入社。社内プロジェクトの一環で2012年より子育て支援サービスを企画、新規事業「ChiReaff Space」の立ち上げを担う。2017年に日本ユニシス傘下のコーポレート・ベンチャー・キャピタル「キャナルベンチャーズ」の立ち上げメンバーとなり、現在は同社ディレクター。

河本あかり(かわもと あかり)

日本ユニシス株式会社 サービスイノベーション事業部 ソーシャルサービス営業部

2018年日本ユニシス入社。配属当初から保育・子育て分野を担当。「ChiReaff Space」の販売をしていく中で、顧客からの要望をきっかけに2022年春リリース予定の新サービス「mierun」を企画。

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