自分の頭で本質を考える“哲学対話“を解説!

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2023年09月04日

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製造業からIT業界へ転職して1年経過した駆け出し研究員が、働きながら感じていることをもとに「哲学対話」について解説していきます。

ビジネス文脈で"哲学"が出てくる背景

IT業界で働いていて感じることとして、「トレンドの流れが早い」ということが挙げられます。製造業では1年でトレンドがどんどん変わるという感覚は強くはなかったのですが、ITでは1年でトレンドの変化が顕著に見られます(製造業でもトレンドの流れは早くなってきています)。
未来サービス研究所でも未来予測を実施していますが、毎年のトレンドの変化が目に見えてわかります。
急速なトレンド変化の具定例として、話題となっている生成AIは以前からありましたが、chatGPTの登場によって数ヶ月で大きなトレンドが生まれました。


このように変化の激しいIT業界ですが、さらに俯瞰して社会を捉えたとき、社会全体の変化も早くなっていると感じています。

変化が早く、先行き不透明な現代をVUCAと表現することも多いですが、そんな時代の未来を紐解く上で何が重要になるでしょうか?

未来サービス研究所では、未来のことを考えるアイデア発想ワークショップを実施してきました。具体的にはクロストライアルなどの手法を使い、新規ビジネスアイデアを発想してきました。
あらゆる手法を活用することで、様々な角度から未来を考えることができます。しかし、その土台として「あらゆるものを問い、本質を考える”哲学的思考”をもとに未来を考える重要性が増している」と感じています。注意していただきたいのが、ここでいっている”哲学”とは、本や論文などから得た知識ではなく、”そもそもを問い、本質を考える態度”のことです。

複雑かつ変化が激しい時代だからこそ、目の前のことに捉われず、相対的に変化しづらい本質を洞察していく力がより一層求められるのではないでしょうか。

ここで、「自分で考えなくても、調べれば本質がわかるのでは?」と思った人もいるかもしれません。確かに、調べたり勉強したりすることによって、物事の本質がわかることもあると思います。
しかし、本質を洞察する力がなければ、インプットしている情報が本質的かどうかの吟味ができません。つまり、情報に溢れている現代では、哲学的思考によって自ら本質を洞察することで、情報(≒知識)を吟味しつつ活用していくことも大事になってくると考えています。

では、どのように哲学的思考を身につければよいのでしょうか。
その手段としては、読書やセミナーを受けるなどさまざまな手法が考えられますが、哲学的に考える環境が整いやすい”哲学対話”が有効的だと考えられます。
近年、教育において哲学対話を活用する動きも出てきていますが、なかなか日常で耳にする機会も少ないかもしれません。

そこで、本記事では「哲学対話とは何か?」を解説していきます。

目次

そもそも"哲学対話"とはなにか?

日本で「哲学対話」という言葉が生まれたのは2010年以降、哲学カフェやP4C(子どものための哲学)などの対話形式で行われる哲学の営みを、いつしか関係者の間で「哲学対話」と呼ぶようになったことからはじまります。
さまざまな手法をひっくるめた総称となっている「哲学対話」には明確な定義がありません。
実践者によってルールや目的も異なるというのが実情です。
あえて哲学対話をどのようなものか書くのであれば、
”人が生きる中で出会うさまざまな問いを、人々と言葉を交わしながら、ゆっくり、じっくり考えることによって、自己と世界の見方を深く豊かにしていくこと。[注1]”
といえるでしょう。

「自分ひとりで思考するのではなく、人の意見を聞くことで自身の思考や認識の枠から解放され、自分の意見を伝えることで思考を深めあう営み」ともいえそうです。

「哲学対話」という言葉は日本で独自に使われている言葉であり、世界的には「哲学プラクティス」という呼び方が一般的です。
しかし、哲学プラクティスは哲学カフェやP4C(子どものための哲学)、哲学カウンセリングなどの活動の総称であるため、哲学対話と全く同じ言葉とは言えません。
哲学プラクティスと哲学対話の関係性を図で示すとこのようになります。

哲学対話のイメージ

哲学対話以外の哲学プラクティスを日本で耳にすることはかなり稀ですが、Appleが企業内哲学者としてジョシュア・コーエンを2014年から継続的にフルタイム雇用[注2]、2017年に日本初の哲学コンサルを事業とするクロスフィロソフィーズ(株)が設立される[注3]など、以前からビジネスに哲学を取り入れる動きは少しずつみられています。

哲学対話の種類

前述の図の通り、哲学対話にもさまざまな種類があります。
それぞれ成り立ちや特徴が違うため、ここでは代表的なものを取り上げ、解説していきます。

哲学カフェ

“哲学カフェとは、一言でいうと、みんなで哲学をする場のことです。[注1]”
1992年に哲学研究者のマルク・ソーテがフランス パリで哲学カフェを始めました。マルク・ソーテが出ていたラジオを聞いていたリスナーが「ソーテが誰にでも哲学カウンセリングしてくれるらしい」と誤解し、カフェにリスナーが集まってしまったことから始まったという話もあります。この哲学カフェは世界中に広まり、哲学研究に関わっていないような一般の人々が哲学的な対話を楽しむようになりました。
決まった方法や手順はなく、主催者によって多様な場が開かれています。

P4C(Philosophy for Children/子どものための哲学)

1970年代にアメリカのマシュー・リップマンという哲学者・教育学者によってアメリカ本土ではじめられました。リップマンは大学教員として働く中で、学生たちの思考力や反省する力が弱いことを痛感し、高等教育以前に実施することを想定したP4Cが考案されたとされています。
ハワイで積極的に取り入れられた後、独自に発達したP4Cが日本に入ってくることによって、日本でも広く実践されています。
P4C全てに共通するわけではありませんが、誰が話すタイミングなのかわかりやすくするコミュニティーボールやイスだけで輪になって座るなどの特徴があります。

本質観取

オーストリアの数学者、哲学者であるエトムント・フッサールが、各個人が体験の中で直観している共通の意味を言語化する作業を「本質観取」と名付けたことがはじまりとされています。
本質観取とは”自分自身の体験を生き生きと想起し、そこから得られる「反省的エヴィデンス」にもとづいて、「どんな人の体験にも共通するだろう一般的な構図」(自我一般の構図)を取り出して記述することである。”[注4]。簡単に言い換えると、「自らの体験に基づいて、対話の参加者全員が納得するような本質を言語化する営み」であるといえそうです。
特徴として、参加者全員が常に自分自身の体験に立ち返って言語化、合意していく点があります。

図のように、参加者がテーマに関しての体験を持ち寄り、どの体験にも共通しそうな本質(赤色部分)を洞察し、言語化していきます。

ネオ・ソクラティック・ダイアローグ

20世紀初頭、ドイツのレオナルド・ネルゾンが行っていた”ソクラテス的方法”という哲学することを教える教育がはじまりといわれています。その後、ネルゾンの弟子であったグスタフ・ベックマンがその方法を改良し、現在のネオ・ソクラティク・ダイアローグとなりました。
ネオ・ソクラティク・ダイアローグとは、「一つのテーマに対して、参加者自らの経験をもとに全員の合意を得ながらテーマの答えを言語化していく手法」です。標準的なもので2日半ほどの時間をかけます。また、取り扱うテーマは「○○とは何か?」といった言葉・概念の定義や意味などを問うものが適しているとされています。
特徴としては、全員の合意がなければ先に進めないことをルール化していること、参加者全員の中から1人の体験を詳細に文章に起こし、そこから抽象化していく点です。そして他の哲学対話よりかなり時間をかけて実施される点も特徴の一つといえます。

類似概念との違い

ここまでで「哲学対話とは何なのか?」についてある程度理解いただけたかと思います。
最後に類似概念との違いを知ることで「哲学対話」の輪郭をよりはっきりさせていきましょう。

ディベートと哲学対話の違い

ディベートとは特定の論題について、あえて異なる立場に分かれて議論をする手法のことです。
具体的には、自分の意見に関係なく肯定・否定グループに分かれ、相手側もしくはジャッジと呼ばれる第三者に対して、理論的に説得を行います。[注5]
つまり、「自分がどう感じるか」は関係なく、自らのポジションを擁護し、自分の伝える主張について相手に賛同してもらうことや説得を目的としています。
哲学対話では賛同してもらうことを目的に発言はしません。むしろ違う意見を言われることによって、自分の考えを積極的に変えることもよしとされる場といえます。

ディスカッションと哲学対話の違い

「ディスカッション(discussion)」とは、直訳すると討論・議論という意味の言葉。あるテーマについて、参加者たちが自由に意見や情報を出し合いながら、より良い結論へと導いていくことを指します。[注6]
一見、哲学対話と似ているようにみえる概念です。しかし、哲学対話によく見られるルールとして「本や論文などの知識ではなく、自分の経験にそくして話す」というものがあります。また、哲学対話は本質を洞察・探求していく場ではありますが、結論を出すことを目的としていない場も多く存在します。何を善しとしているか、ある程度共有されているうえで結論を出していくディスカッションと、そもそもを問い考える場としての哲学対話は、共通する要素もありますが別物といえそうです。

おわりに

以上、哲学対話の解説でした。

少しでも哲学対話に興味を持った人は、是非オンラインや対面で開催されている哲学対話に参加してみてください!
体験することで、哲学的に考えることを感覚的にも理解できると思います。
何より人の意見を聞くことによる発見や気づきが楽しいです!



以下サイトにて全国の哲学対話の情報がまとめられているようですので、参考にしてみてください。
哲学カフェ・哲学対話ガイド



※書籍や記事を参考に調査を実施しましたが、厳密な考証は行っておりません。記載している情報に間違いなどありましたら、ご指摘いただけると助かります。

参考文献

[注1]河野哲也 ゼロからはじめる哲学対話
https://www.hituzi.co.jp/hituzibooks/ISBN978-4-8234-1032-1.htm

[注2] Apple employs an in-house philosopher but won’t let him talk to the press(WEB記事) QUARTZ
https://qz.com/1600358/apple-wont-let-its-in-house-philosopher-talk-to-the-press

[注3]クロスフィロソフィーズ(株)会社概要
https://c-philos.com/about_cp/

[注4]西研 哲学は対話する ─プラトン、フッサールの〈共通了解をつくる方法〉https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480016898/

[注5]「ディベート」とは(WEB記事) リクルートマネジメントソリューションズ
https://www.recruit-ms.co.jp/glossary/dtl/0000000161/

[注6] ディスカッションとは?意味や種類、進め方のポイントをチェック!(WEB記事) SPACEMARKET
https://www.spacemarket.com/magazine/know-how/discussion/



【その他参考文献】
梶谷真司 考えるとはどういうことか
https://www.gentosha.co.jp/book/detail/9784344985148/

堀江剛 ソクラティク・ダイアローグ
https://www.osaka-up.or.jp/book.php?isbn=978-4-87259-604-5

堀越耀介 哲学はこう使う
https://www.j-n.co.jp/books/?goods_code=978-4-408-33943-6


【その他参考記事】
BIZ PHILO 第一回:今、「哲学コンサルティング」が必要だ──ビジネスにおける哲学の可能性とは
https://bizphilo.jp/column/35/

澤田 和宏(さわだ かずひろ)

ユニアデックス株式会社 未来サービス研究所

製造業にて勤務後、IT業界へ転職。現在は、ドローンの新規事業を担当。
また、ビジネス領域において哲学を応用できないか個人的に模索中。

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