量子コンピューターから見える、コンピューターの未来

  • テクノロジー

2021年06月14日

  • 量子コンピューター

未来サービス研究所の活動の一つに、将来普及することが予想される先端技術の調査研究があります。そこで本コラムでは、先端技術に詳しい後藤研究員が今話題の量子コンピューターについて、その仕組みと未来像をわかりやすくご紹介します!

高まる量子コンピューターへの期待

2019年10月Googleは、同社の研究チームが開発した量子コンピューターが、既存のスーパーコンピューターで1万年かかる計算を200秒で解いたと発表しました[1]。この発表は一般向けのメディアでも取り上げられ、このニュースで量子コンピューターという言葉を初めて聞いた方もいらっしゃるかもしれません。デジタル化社会に向け、大量なデータをAIなどの高度な分析手法により高速に処理する技術への需要が高まっています。そのような中、既存コンピューターの計算能力を大きく超える量子コンピューターの実現が期待されています。

そもそも、量子コンピューターとは?

量子コンピューターは、電子や原子などのような量子の性質を積極的に利用して計算を行うコンピューターです。量子コンピューターと既存のコンピューター(以降、古典コンピューター)は何が違うのでしょうか?
大きな違いは、情報の単位となるビットの性質とその性質を使った計算方法です。

量子コンピューターと古典コンピューターの比較

古典コンピューターでは、一つのビットで0か1いずれかの値を表しますが、量子コンピューターでは、一つの量子ビットで0と1を同時に表す(重ね合わせ)ことができます。そのため、例えば2ビットの計算結果から一つの解を選ぶ場合、古典コンピューターでは1と0の全ての組み合わせ4通りの計算を行う必要がありますが、量子コンピューターでは、二つの量子ビットを重ね合わせ状態にすることで、4通りの計算を一括で行うことができます。これが、量子コンピューターの特徴である並列計算ができる、ということに繋がります。

量子ゲート方式と量子アニーリング方式、それぞれの特徴

量子コンピューターには現在大きく二つの方式があります。一つは量子ゲート方式と言われるもので、古典コンピューターと同様の汎用性があるものです。もう一つが量子アニーリング方式で、組み合わせ最適化問題*を解くことに特化しています。

この二つの方式に関してはそれぞれ特徴や課題があります。まず量子ゲート方式の特徴としては、扱える問題の汎用性が高いことが挙げられ、実用化すればさまざまな分野でのインパクトが大きいとされています。一方、課題としてはハードウエア開発における量子ビット数の拡大やエラー訂正技術の開発が挙げられ、実用的なハードウエア登場にはまだ10年程かかると予想されています。

もう一つの量子アニーリング方式の特徴としては、組み合わせ最適化問題を解くことに特化し、量子ゲート方式に比べノイズに強い点が挙げられます。課題としては、用途特化型であるため扱える問題が組み合わせ最適化問題に限られてしまうことが挙げられます。それでも組み合わせ最適化問題はさまざまな産業で活用できることから、ビジネス適用を想定した実証事例も出始めています。

*組み合わせ最適化問題:複数の組み合わせのうち、条件を満たす最も良い組み合わせを選ぶ問題

期待される産業分野への活用

量子コンピューターの高い計算能力は、金融、化学、製造などさまざまな産業での活用が期待されています。量子ゲート方式では金融におけるリスク分析や材料開発における分子構造探索などの研究、量子アニーリング方式では搬送経路や金融ポートフォリオの最適化などで研究や実証実験が行われています。またさまざまな分野で活用が広がっている人工知能(AI)技術でも、量子コンピューターによる機械学習の高速化や新たなアルゴリズムの研究が進められています。

暗号は解読されるのか?

インターネット通信の暗号が量子コンピューターを使うと解読される、という話を聞かれたことがあるかもしれません。現在インターネット通信で使われているRSA暗号を古典コンピューターで解読するには、膨大な計算量が必要で現実的な時間で解くことはできません。しかし、今後実現が予想されている数百万量子ビット規模の量子コンピューターで特定のアルゴリズム(Shorのアルゴリズム)を使うと、現実的な時間で暗号を解読できる可能性があります。

それでは、量子コンピューターの登場は私たちのインターネット通信に危険をもたらすものでしょうか?実際には、RSA暗号を高速に解読できる性能を持った量子コンピューターの実現には、まだ10年以上かかると予想されており、直近数年で起こる話ではありません。

そうはいっても、量子コンピューターの開発は着々と進展しており、RSA暗号を高速に解読できるハードウエアが10年後、あるいは技術革新でさらに早い時期に登場する可能性もあります。そのため米国国立標準技術研究所(NIST)は、量子コンピューターでも解読困難な暗号(耐量子暗号)の標準化に向け動き始めており、2026年頃までに耐量子暗号へ移行する計画を公表しています[2]。日本や欧州でも、耐量子暗号への移行に向けた調査・検討が進められています。

少し前まで未来のコンピューターと言われていた量子コンピューターですが、国内外でハードウエアやソフトウエアの開発が進められており、数年のうちに私たちの身近なところで活用が始まっていくかもしれません。

(未来サービス研究所 後藤泰之)

  • [1]F. Arute, K. Arya, et al. "Quantum supremacy using a programmable superconducting
    processor", Nature 574, 505-510, Oct. 2019.
  • [2]NIST, "NISTIR 8105: Report on Post-Quantum Cryptography", April. 2016.
    https://nvlpubs.nist.gov/nistpubs/ir/2016/NIST.IR.8105.pdf

未来サービス研究所では、今後も量子コンピューターをはじめとする先端技術の動向にアンテナを張ってまいります。また本テーマに関する講演実績も多数ございますので、ご興味がある方は下記「お問い合わせ」までお気軽にご連絡ください。

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  • 自治体・企業・人物名は、取材制作時点のものです。

2021年06月14日公開
(2021年06月22日更新)

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