【エネルギー×ITが創る未来 vol.1】安価な革新的二次電池が創る「誰でもエネルギーにアクセスできる社会」

  • 環境

2020年01月16日

  • カーボンニュートラル

エネルギーにまつわる市場環境は、今大きな変革のときを迎えています。
「エネルギー×ITが創る未来」では、ユニアデックス未来サービス研究所員がエネルギー分野で先進的な取り組みをする専門家にインタビューし、エネルギーとITの革新によってどのように社会やくらしが変わっていくのか、未来のきざしを探っていきます。

私たちが使っている電気は、発電所で発電され、送配電網を通して家や会社に送られてきます。発電したらすぐに使う必要があります。発電しても使わない電気は捨てられてしまっています。しかし、二次電池(バッテリー)があれば電気を貯めたり、持ち運んだりすることができます。電気を無駄なく賢く使うために二次電池は欠かせない技術です。スマートフォンなどのポータブル機器ではおなじみの技術ですが、大型の二次電池は非常に高価で大きいため一部でしか利用できていません。「エネルギー×ITが創る未来 vol.1」では、安価で使いやすい二次電池を開発し、電池がインターネットのようにネットワーク化された社会「POWER-NET」を構想しておられるCONNEXX SYSTEMS代表取締役 塚本壽氏に、二次電池と「POWER-NET」が創る未来社会についてお話をうかがいました。

塚本 壽(つかもと ひさし)

CONNEXX SYSTEMS株式会社 代表取締役、理学博士

1979年日本電池(現 GSユアサ)に入社。世界ではじめての角形Ni-Cd電池やリチウムイオン電池の開発・製造に携わり、小型電子機器や携帯電話の実用化に貢献する。
1998年米ロサンゼルスでQuallion LLCを設立。医療、衛星、軍事などの特殊用途向けリチウムイオン電池の開発、製造を行い、国際電池・材料学会技術賞、フロスト・サリバン賞などを受賞。
2011年にCONNEXX SYSTEMSを設立し現在に至る。

写真:塚本 壽(つかもと ひさし) CONNEXX SYSTEMS株式会社 代表取締役、理学博士

日本のエネルギー問題に資する二次電池を創る!

2011年に米国から戻られ日本でCONNEXX SYSTEMSを創業されましたね。起業にはどのような想いがあったのでしょうか?

私はロサンゼルスの中でも治安が決して良いとは言えない地域で会社を興し、さまざまな方を採用して一緒に働いてきました。そうした中で分かったのは、治安が決して良くない地域ではありましたが、彼らは仕事さえあれば決して犯罪などに手を染めたりはしないということです。仕事は人にとって極めて重要であり、基本的な役割だということをその時に認識しました。2010年から2011年ごろ、これまでに得た自らの蓄電池技術を活かして米国で新たな事業を始めようと考えていましたが、その当時リーマンショックなどの影響もあり、日本では就職氷河期でなかなか仕事がないという状況がありました。そのような中でさらに2011年3月11日には東日本大震災が起こりました。故郷である日本の悲惨な状況を目の当たりにし、なんとか日本を元気にするため雇用を創出したいと思いCONNEXX SYSTEMSを創業しました。

米国で開発してこられた特殊電池とはどのようなものですか?

渡米したのは40代の頃です。自分は技術者として今がピークだと思っていました。それならば今、人がやらない難しいことをやろうと思い、人の体内に埋め込む医療用インプラントデバイス向けの電池や衛星用の電池など特殊な用途に用いられ、極めて高信頼性を求められるリチウムイオン電池の開発を手がけました。

現在はインフラ向けの電池を開発しておられますね。

東日本大震災により原子力発電所の事故がありましたし、それ以前から資源の乏しい日本ではエネルギー問題は重要な課題です。高信頼性畜電池に関する知見を活かし日本のエネルギー問題、さらには世界のエネルギー問題に資する二次電池を作りたいと考え、インフラ向け電池の開発に取り組んでおります。

安くて安全、小型で大容量!革新的な電池技術で電池の本格普及を実現

貴社では「BIND Battery(バインド電池)」「HYPER Battery(ハイパー電池)」「SHUTTLE Battery(シャトル電池)」と、3種の二次電池を開発しておられます。まずは「バインド電池」の特徴を教えてください。

バインド電池は当社の独自技術で2種類の電池を組み合わせる蓄電システムの総称として用いています。
現在、家庭用やBCP用に販売している小型のバインド電池はリチウムイオン電池と鉛電池を組み合わせており、リチウムイオン電池の利点に加えて耐過充電性能や良好な低温特性などの鉛蓄電池の特徴を併せ持っています。そのため安全性が極めて高く、過酷環境にも強い電池となっています。リチウムイオン電池は小型軽量、耐久性が高いなどのメリットがありますが、リチウムイオン電池には熱暴走のリスクがあり、何らかの原因で保護回路が機能せず過充電になると危険電圧が長時間続きます。一方で鉛電池は大きくて重たいものの、熱暴走のリスクはありません。バインド電池の場合ではリチウムイオン電池から鉛電池にエネルギーが移転され、過充電が解消され、自律的に安全性を回復します。つまり、バインド電池は、リチウムイオン電池がもつリスクを鉛電池で補完する仕組みです。2つの電池の組み合わせにより、安全性や低温特性が高く適度な大きさの電池が実現しました。

写真:CONNEXX SYSTEMSの電池評価室にて CONNEXX SYSTEMSの電池評価室にて

リチウムイオン電池と鉛電池の良いとこ取りをした電池なんですね。

そうですね。とはいえ、鉛電池を使うことでリチウムイオン電池単体よりも大きく重たくなります。全てが優れた電池というのはなかなかありません。バインド電池は安全性や低温特性に特に優れた電池ということです。

現在は家庭用、BCP用に販売しておられますが、バインド電池の次の展開は?

家庭用の20~30倍の容量の中規模蓄電システムを工場やスーパーマーケット、その他さまざまな業種に提供していこうと考えています。現在の電力システムは、大規模な発電所で発電し送配電網から家庭やビルに送っています。後ほど詳しくお話ししますが、当社が構想している「POWER-NET」は、街中にたくさんの畜電池があり、それらが不安定に発電する再生可能エネルギーなどを吸収してくれます。POWER-NET実現への次の展開として中規模畜電システムの普及を目指します。そして、最終的にはより大規模な蓄電システムを開発していきます。

それが現在開発中のシャトル電池ですね。これはどのような電池なのでしょうか?

鉄の酸化還元反応と固体酸化物形燃料電池(SOFC)の発電機能を組み合せた新タイプの高エネルギー密度電池です。これまで小規模なスケールで実験してきましたが、2020年からいよいよスケールアップの段階に入ります。まずは数MWh程度での実用化を目指します。

現在主流のリチウムイオン電池と比べるとシャトル電池にはどのような特徴がありますか?

エネルギー密度が高いため、サイズはリチウムイオン電池の数分の1を実現できますので、大容量でも場所をとらずに設置できます。また、シャトル電池は極めて安全な鉄と空気を活物質として使い、その他の材料は全て不燃性の固体のため、耐火性も高く本質的に安全な電池です。そして重要なのは非常に安価に作れるということです。シャトル電池の主な材料は鉄と空気です。鉄は非常に安価に手に入ります。二次電池普及の最大の課題は未だ価格が高いということです。リチウムイオン電池は希少な材料を使うため低価格化には限界があります。価格の壁を越えない限り二次電池の本当の普及は難しいと思います。リチウムイオン電池もスケールメリットでまだ安くできるでしょうが、シャトル電池はそれ以上の低価格を実現できます。

価格が二次電池普及の最大の課題なのですね。シャトル電池は安くて安全でエネルギー密度が高いと、まさに夢の電池ですね。

ですがやはり課題があります。シャトル電池はたくさんの電気を貯めることができますが、それを入出力する速度はそこまで早くありません。ダムにたくさんの水が溜まっていても、穴が小さければ水は少しずつしか出てきませんね。それと同じです。そのため急に大きな電力を必要とする用途に単独で使用するのは向きません。そこで、もう一つの当社の電池、ハイパー電池と組み合わせて利用することを考えています。

ハイパー電池とシャトル電池を組み合わせるとどうなるのでしょうか?

ハイパー電池は貯められる電気の量は多くありませんが、入出力特性が高く、瞬間的にたくさんの電気を出し入れすることができます。ハイパー電池が瞬間的な電気の入出力を担い、シャトル電池が電気の貯蔵の役割を担います。この組み合わせを想定してそれぞれの電池を開発してきました。ハイパー電池は既に実用化していますが、シャトル電池は開発中のため、開発が完了次第この組み合わせの実用化を図りたいと思います。用途としては、特に変電所、大規模な風力発電所、その他発電所などに設置できたらと考えています。当社は関西電力グループ様と資本業務提携をしていますので、同社と連携し電力システムの中でうまく活用していけるといいですね。例えば、アルゼンチンのように風況の良い地域に風力発電を多く設置しても、今は電力を使う場所まで電気を届ける送電網が十分ではありません。そこで、送電網でつなぐのではなく電池で貯めて運ぶことができたら面白いかもしれません。太陽光も季節によって発電量が異なりますから、発電量が多い時期に電池に貯めて少ない時期に電池から使う、といった利用もできそうです。電池を使うことで、時間や場所を超えてエネルギーをつないでいくことができるようになります。

写真:塚本社長と、「ハイパー電池」
塚本社長の前にある黒い筐体が「ハイパー電池」です。
シャトル電池との組み合わせだけでなく単体でも活躍の場は多く、2019年12月からは物流支援ロボット向けに出荷されています。

「POWER-NET」が創る誰でもエネルギーにアクセスできる社会

貴社が考えるPOWER-NETとはどのようなものでしょうか?

街のいたるところに電池が分散しており、インターネットのように繋げることで一つの大きなエネルギーとして利用できるシステムです。電池に電気を貯めることでエネルギーの利用を効率化できます。今は余れば捨て、足りなければ発電していますが、POWER-NETによって無駄な発電が無くなり不安定な再エネも有効に活用できるようになります。そして誰でもエネルギーにアクセスできるようになります。

実現に向けてどのような取り組みを進めておられますか?

都市設計や電力網の設計との融合や電力変換器など、さまざまなプレーヤーとの協力が必要になりますので、他社との連携を進めています。当社ではまずは安価、大容量、長寿命な電池を開発します。何より重要なのは価格の問題をどのようにクリアするかです。解決の方策は2つあります。1つは電池自体を安価にすることです。これは先ほどお話したシャトル電池で実現します。もう一つはPOWER-NETに別の付加価値をつけることです。これには情報がカギになると考えています。IoTやAI技術を活用し、POWER-NETの利用者の生産性が向上するような情報を提供できるようさまざまな方策を考えています。

POWER-NETによって私たちのくらしはどのように変化するでしょうか?

エネルギーのサービス化が進むと考えています。消費者は電池自体が欲しいのではなく電気を使って何らかの活動をしたいわけです。電池は第三者が保有して必要な分だけ電気を提供し、対価として電池が劣化した分だけ使用料を支払うようなサービスが必要になるでしょう。

POWER-NETは世界のエネルギー問題にも影響を与えそうですね。

例えば日本のエネルギー自給率は10%に満たないと言われています。今後再エネが普及し、POWER-NETで効率的に利用することでこの自給率を50%まで上げられるといいですね。将来的にはPOWER-NETという電力システムを、電力網が未整備なアフリカやアジアにも展開していきたいと考えています。電力網が未整備な地域のほうがPOWER-NETが早く社会になじむことも期待できます。世界の争いの多くはエネルギー問題に起因しています。エネルギーを効率的に利用し、いつでも誰でもエネルギーにアクセスできるようになることが社会の平和にもつながっていくことを願っています。

インタビューを終えて

一長一短あるさまざまな二次電池を組み合わせるバインド電池や低価格なシャトル電池など、CONNEXX SYSTEMS様の高い技術力に驚くとともに、今後二次電池の活躍の場が広がり、エネルギーシステムの在り方が変わっていく未来を現実のものとして感じることができました。IoTやAIによる二次電池の付加価値向上やエネルギーのサービス化は未来研でも取り組んでいきたいテーマです。

未来サービス研究所 金森

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