新型コロナウイルス禍でのオンライン授業最前線~大学教育の現場から
【「リモート」から見える未来】vol.5
- ライフスタイル
2020年09月16日
- 子育て・教育
オンライン授業は、オンデマンド方式と双方向方式の2つのタイプで実施
武内 産業能率大学経営学部で教員をしております武内千草と申します。国際文化比較やフランス語などの授業を担当しています。ほかには、自由が丘に訪れるお客様への「おもてなし」を実施する案内人、セザンジュという学内団体の顧問をしております。セザンジュは日曜日と祝日に街の案内や巡回を行い、観光と防犯という観点から自由が丘の街をより良いものにしようと活動している団体です。
また近年は国際交流・留学生センター長を務めており、留学生のフォローと海外研修向けの授業も受け持っています。
このようなITを駆使した授業は非常に大変でした。私はもともとITリテラシーが高いわけではないので、大学内の他の教員に教えて頂いたり、他大学の教員とも連絡を取り合ったりするなど工夫をしていました。オンライン授業はゴールデンウィーク明けから開始されたのですが、その前に教員同士でZoom授業の練習を行いかなりの準備をしました。そのような状況の中で、他大学の教員との絆ができるなど良い面もありました。
オンデマンドではなく、リアルタイムに双方向で実施した授業がフランス語です。語学については大学側から同時双方向型の指導が求められていたため、Zoomを活用しました。小テストや定期試験もZoomで行い、ブレイクアウトルームを用いたペアワークを行い、口頭での試験を実施しました。
「自由が丘コンシェルジュ」の授業も双方向で行いました。こちらはセザンジュにおもてなしのスキルを学んでもらうゼミ形式の授業です。本来は演習型の授業なのですが、当然ながらその形式では実施できていません。セザンジュもコロナになってから全く業務ができておりませんので、こちらもZoomを活用したオンライン授業で実施していました。Zoomでロールプレイを実施したり、自由が丘の街の情報もZoomを通じて皆で共有したりする形式で行いました。
また3・4年生のゼミも担当していますが、こちらも双方向型でZoomを活用して実施していました。
もうひとつグローバルインターシップ準備のための授業も担当していましたが、海外研修ということもあり、本年度は中止となっています。
武内 オンデマンド式の講義を実施するにあたり、かなりの試行錯誤がありました。PCを前にして1人で話すのは、ちょうど無観客試合を実施しているような気分になります。
オンライン授業で出席率は上昇したが、成績評価が課題に
武内 対面で行ってきたこれまでの授業との比較という観点からいうと、出席率の増加が挙げられます。視聴のみで参加することも可能な授業がありますが、中でも驚いたのが就職活動の帰りのバスのなかで、マイク機能をミュートにしつつ講義を聴講していた学生がいたことです。また、会社説明会の合間に受講する学生もいました。場所を問わず参加することができるのは、オンライン講義の良い面かもしれません。
武内 問題点は少ない点数の差で成績の差が出てしまうことです。全員にAをあげたい時もあるのですが、それぞれの授業ごとに、各成績のランクを割り当てる学生の人数が決まっているのです。たった1点の差でAかBかが決まってしまうのは少しかわいそうに思えました。
加えて、通常の授業では毎回出席してくるような真面目な学生の評価が相対的に下がってしまうという問題もあります。オンライン授業は、参加しやすいということもあって学生の出席率が高く、これまで出席点で着実に成績を積み上げて来たような真面目な学生に不利になってしまいます。この点は学生の中でも困惑している者が一定数いました。
—貴重なお話をありがとうございました。
お話をうかがうなかで、オンライン授業のメリット・デメリットが明らかになってきました。成績評価は課題ですが、学生のレポートの水準が相対的に上がるのは、やはりメリットだと思います。グループワークのようなチームワークを育む学びのかたちが最近注目を集めていますが、自分一人の力で物事を進めていくというのも重要な学びのひとつです。オンライン授業という制限があるなか、学生たちがしっかりと調べ、考え、アウトプットする時間が取れたことで、彼らの今後の成長に良い影響を及ぼすのではないでしょうか。
一方で、授業のコンテンツを作る先生側はかなり苦労されたようです。学生という相手がいない状態での講義を「無観客試合」と喩えていらっしゃったのが印象的でした。Zoomを駆使した双方向の授業の方がスムーズに進んだということですので、双方向授業を録画したものをアーカイブとして今後のノウハウに活用するなど、さまざまな改善策が考えられそうです。
オンライン授業、学生の感想は?
—4年生、3年生、2年生の皆さんありがとうございました。皆さんのコメントのなかには、共通する部分がありますね。大きく分類すると「課題提出の管理」、「質問がしにくい環境であること」、「仲間とサポートし合えないこと」が皆さんの懸念点として挙げられていました。
双方向型の授業の場合は、授業後に質問ができるなど、比較的オンデマンド型の講義よりスムーズな運営ができているように感じました。ZoomをはじめとするWebツールの技術的進歩や運用の改善がさらに進めば、先生と学生、そして、学生同士の交流をより密にすることができ、サポートを得やすい環境が整っていくかもしれません。
学年によって異なる不安感~1年生へのサポートはやはり必要
武内ゼミは、本来であれば積極的な学外活動を実施しているゼミです。1日も早くこれまでのような活動が再開されることを願っています!
- ※写真は以下のURLに掲載されている過去の活動です
(https://www.sanno.ac.jp/undergraduate/learning/semi/special/20190318_010.html )
武内 そうですね。やはりコロナによる影響は学年によって異なるのだなというのがわかりました。4年生については科目数も少なく、人間関係もできており、影響は少なかったようですが、やはり1年生の不安や負担は相当のもので、本当に大変だったと感じています。教員側でも引き続きできる支援を続けていければと考えています。
そのため教員側は、可能な限りパソコンやネットワーク環境が整っていない学生でも授業が受けられるよう配慮しました。たとえば課題はファイルでの提出ではなく、フォームへの記入式にすることでスマホしか持っていない学生に対応しています。また家のWi-Fi環境が整っていない学生向けに、動画の容量をなるべき小さくするように心がけていました。その点、YouTubeは自動で動画の容量を小さくしてくれるので便利でした。ただ、なかにはYouTubeに対して抵抗感を持っている教員もおり、そういった方はパワーポイント のコメントに自身が講義で話す内容を書き込む、パワーポイントに音声をつけたりするなどの工夫をされていました。
—現場でどのようにオンライン授業を継続し、問題を乗り越えたのかを直接伺うことができ、大変興味深いお話でした。
また大学側・学生の皆さん側の適切な対応の甲斐もあり、出席率の増加などの良い面も見ることができました。後期も引き続き試行錯誤の状況が続くと思いますが、今後のオンライン授業の社会的なモデルケースを作るような取り組みを期待しています。みなさん本日はありがとうございました。
インタビューを終えて
オンライン授業の開始と継続にあたり、教員も学生もさまざまな壁にぶつかったようです。
たとえば対面の授業に参加していれば、課題の提出期限などは学生間で自然と話題にのぼるでしょうし、学校内にいる教員にすぐさま質問を投げかけることもできます。
しかし、オンラインという形式により教員と学生、学生と学生の間に距離ができてしまい、これまでは自然と受けられたはずの支援を受けることが難しくなっています。学生が大学生活に必要な情報を得るハードルは、オンライン化により高まってしまったのかもしれません。
また、得にくくなったのは情報的なサポートだけではありません。大学内での人とのつながりが薄くなったことでコミュニケーションが減り、心理的なサポートも手薄になっているように感じられます。
今回のインタビューでは、このような状況下のなかでも密なコミュニケーションで連携し関係を強めたというエピソードもありました。武内先生がオンライン授業の準備にあたり、学内外のネットワークを駆使して授業を作り上げ、その交流のなかで教員同士の関係が強まったと語っていたのだが良い例だと思います。
コロナ禍の状況における社会のリモート化により、オンライン授業にとどまらず大小さまざまな社会的課題が発生しています。それらを乗り越えるために、個々人が協力し合い、そのつながりのなかで新たな関係性や相互支援を築いていくのが新時代の交流のかたちではないでしょうか。
(インタビュアー:未来サービス研究所 村上、山田、八巻)
「リモート」から見える未来
新型コロナウイルスと共存する「ニューノーマル」の一つのスタイルとして、これまで「直接の対面」が前提だったビジネスや人々の行動を、「リモート」「遠隔」「オンライン」へ置き換える試みが加速しています。
本連載では、様々な業界やビジネスにおけるリモート化の新しい動きを紹介しています。
- ※ 記載の会社名、製品名は、各社の商標または登録商標です。
- ※ 自治体・企業・人物名は、取材制作時点のものです。
2020年09月15日公開
(2020年09月16日更新)
武内千草教授
産業能率大学経営学部義務教育をフランスで受ける。学生時代から一貫してフランスを中心としたヨーロッパ文化と日本文化の比較研究を行ってきた。現在は学生に対し、グローバルな視点から企業・地域の課題を解決する視座を養うゼミを運営。アメリカ文化にしか馴染みのない学生に対し、日本人の視点からヨーロッパを考察する重要性を伝えている。
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