はなれても、お父さんもお母さんも大好き!離婚後の親子をリモートでつなぐオンライン面会交流

【「リモート」から見える未来】 vol.3

  • ライフスタイル

2020年06月19日

  • 子育て・教育

「面会交流」という言葉をご存知でしょうか?両親が離婚した後に、離れて暮らす父親または母親と子どもが定期的に会い、交流することです。
たとえ両親が離婚しても、親子の絆は変わりません。同居する親だけでなく、離れて暮らす親からも愛情を受けて育つことで子どもは心理的に安定するといわれています。

しかし新型コロナウイルスの影響で、別居する親と子が直接会って面会することが困難になりました。そのような状況を打開しようと、面会交流を支援する一般社団法人びじっと様はZOOMを使ったリモートでの面会交流支援を4月から開始しました。また面会交流のIT環境整備のためクラウドファンディングも実施されています。

前回の連載 新規タブで開く では介護施設における入居者と家族のビデオ通話による遠隔面会を取り上げましたが、同様の動きが面会交流でも進んでいます。家庭を中心とした生活環境のデジタル化について調査研究を進めている未来サービス研究所では、リモートによる面会交流の詳しい仕組みについて、びじっと代表理事の古市理奈さんからお話を伺いました。

新型コロナウイルスの影響で面会交流数が激減、オンラインの試行へ

まず、びじっと様の活動の概要について教えてください。

びじっとは、両親が離婚後、子どもと一緒に住んでいない親(別居親)が子どもと会う面会交流を支援する団体です。2007年に設立し、今年で13年目を迎えました。年間600件以上の面会交流支援を行っており、また離婚や別居により心に負担を抱えた親子のケア(相談事業や交流会)にも取り組んでいます。事務局に加え、ボランティアの面会交流支援者(ペアレンティング・コーディネーター)が活動を支えています。

面会交流の種類は、大きく3つに分けられます。別居親と子どもの面会交流に支援者が同席する「付き添い型」、別居親に子どもが会う往復の受け渡しを支援者が助ける「受け渡し型」、面会交流の日時・場所・時間の連絡仲介のみをLINEでおこなう「連絡調整型」です。

今年の2月までは、3つの型を合計すると毎月40~60組の親子の面会交流を支援してきました。しかし3月に入り新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化するにつれ、面会交流を続けることが困難になりました。親が面会を希望したとしても、面会場所まで出向く子どもの感染に対する安全を確保できませんし、付き添う支援者の感染リスクもあります。

びじっとが支援した面会交流件数の推移。3月に激減した
出典:お父さんもお母さんも大好き! 新型コロナで会えない親子へのオンライン面会交流支援 - CAMPFIRE (キャンプファイヤー)

当初は、父母間で面会の合意があり、かつ支援者が現場へ行かなくても実施可能な連絡調整型以外の面会交流を中止して様子をみていました。しかし予想以上に外出の自粛が長引き、先が見えない状況の中で事務局や支援者の間でも危機感が出てきました。

たとえば、別居親は子どもとの面会を希望しているが、同居親は感染リスクから面会を拒否し、その調整で支援者が板挟みになる。あるいは両親の離婚にともなうストレスから子どもが家庭以外の居場所を求め外出したがるようになる、などの問題が顕在化してきました。こうした離婚家庭の不安定な状況を支援していくのが私たちの役割ですので、なんとか介入する方法はないか、ということでオンラインという手段を使うことにしました。

オンライン面会交流にはZOOMを使われ、4月から試行されたそうですね。準備から実施までの間に印象的だったとことはありますか?

オンライン化を手掛けた当初はとにかくばたばたしていました。それまで、オンラインでのスタッフミーティングはLINEで行っており、ZOOMは他団体との打合せで使うくらいでしたので、まず利用に慣れるようにしました。有料にするか無料にするかも迷いましたが、オンラインであっても支援者が面会に立ち合うので人数や時間がそれなりにかかるため有料版にしました。

親御さんに関しては、もともとWeb会議やテレビ電話などのリモートツールを利用した経験のある方がオンライン面会交流を希望される傾向にあり、利用にハードルはありませんでした。

面会交流に適した付加機能として、ZOOMにある「待機室」設定はとても役立っています。離婚された両親の場合、オンラインであっても相互が顔を合わせたくないという要望もあるのです。そういったときに、子どもと同居親が一緒にZOOMにいる時は別居親のほうは待機室にいてもらう。同居親がいなくなり、子どもだけZOOMに写ってから別居親に参加してもらう...などの配慮ができるので助かります。

ITならではの使い勝手の良さですね。他にもITの活用として、オンラインでの「写真共有調整」という支援もされています。こちらはどのような仕組みなのでしょうか。

子どもの写真が欲しいが、親どうしで直接データのやり取りをすることに抵抗がある...という方からの要望に応えた仕組みです。びじっとの事務局側で写真共有アプリの紹介と使い方をレクチャしています。

以前は、まず同居親から送られてくる写真データを事務局が受信し、それを別居親へ転送する...という作業をしていたのですが、写真の数が大量なので転送するのにも手間がかり、大変だということがわかりました。そこで写真共有アプリの紹介をはじめました。

ポーカーやクイズショー!リモートでも充実した面会時間に

いろいろなかたちの交流支援があるのですね。話はオンライン面会交流に戻りますが、これまでに10組ほどの親子が利用されたそうですね。どのような感想がありますか?

オンラインでの面会交流時間は原則一時間としていますが、じっさいには子どもの年齢や家庭の状況によりさまざまです。お子さんの年齢がまだ小さい場合は30分程度ということもありますし、長い例では、子どもからのアイデアで2時間トランプのポーカーをしたこともありました。モノ作りが好きなお子さんだと、自分が作った作品を見せてくれることもあります。

別居されているお父さんがパワーポイントでクイズのプレゼンを作り、画面共有しながら楽しんだ例もありました。すごくよくできたプレゼン資料でした(笑)。
限られた面会時間だからこそ、別居親も子どもも充実した良い時間にしようと思っているのだと感じます。

※子ども(左下)と別居親(右下)の交流を見守るスタッフ(左上)
※写真はイメージです(提供:びじっと)

緊急事態宣言の解除にともない、6月からリアルでの面会交流を再開しました。しかしまだ直接会うのはちょっと怖いという方から、オンライン面会の申し込みが入ることもあります。

実は6月に、びじっとの利用者へ面会交流についてのWebアンケート 新規タブで開く を実施しました。今後、感染の第二波・第三波がきたときにオンライン面会を検討しますか?という質問に対して、同居親の31%、別居親の45%から「利用を検討する」との回答がありました。すでにオンラインを使った利用者からは、オンライン面会交流に対して肯定的な意見が多く聞かれています。

支援者のデジタル環境充実のため、クラウドファンディング活用へ

オンライン面会交流について前向きに考える親御さんが増えているということですね。面会に立ち会う、支援者の方からの反応はいかがでしょうか。

現在はオンライン面会交流の数がそれほど多くないので、ITが扱える支援者に限定して実施できています。しかし今後件数が増えると、支援者のデジタルスキルの習得とデバイス整備が課題になると感じています。

ボランタリーな活動であることから、現在は面会交流に用いるスマートフォンやWifiなどのデジタルツールは支援者個人所有のものを使っていただいています。

面会交流のときは、別居親・子ども・支援者(2名)が同時にZOOMへ接続しています。同居親が子どものそばにいるわけではないので、たとえばもうすぐ面会が終わりそうなタイミングがきたら、支援者は子どもを介さずそっとそのことを同居親に伝えるなど、細やかなやり取りが発生します。

この時にはLINEを使うのですが、支援者がデバイスを一つしかもっていない場合、ZOOMでの面会の立ち合いとLINE連絡を同時に行うのは難しいことがわかりました。タブレットを貸与するなど、支援者側は少なくとも二台のデバイスで臨めば面会はスムーズに進みます。

また自宅のWifi環境が十分ではなく、面会交流中に支援者がシステムダウンしたこともありました。支援者は2名の体制で、この時ダウンした支援者はたまたまZOOMのホスト(オンライン面会設定者)ではありませんでしたが、もしもホストの支援者が突然システムダウンしたら面会そのものが止まってしまいます。また自宅の通信パケット量の限界の問題もあり、支援者への補助が必要になっています。

こうした課題が徐々に明らかになってきたので、オンライン面会交流のマニュアルを作成し、支援者への研修やデバイス供給も充実させていく予定です。
そのための資金源として、クラウドファンディングを始めることにしました。

そのような背景からクラウドファンディングに取り組まれたのですね。反響はいかがでしょうか。

クラウドファンディングは5月中旬から開始中で、目標金額は100万円です。大きな目的は、先ほど申し上げたオンライン面会を実施できる支援スタッフの育成とデジタル環境整備になります。

またもう一つの目的として、面会交流そのものの認知拡大と事業活動としての自立があります。離婚した親子の面会交流はまだまだ認知が高いとは言えず、ましてそれを支援する団体があるということは、なおさら知られていません。クラウドファンディングなどを活用することで活動の認知度を上げ、さらに頂戴した資金をもとに、優れたスタッフが安定的に活躍できる体制を整えていくことを目指しています。

<筆者注>
2020年6月18日時点でクラウドファンディングの支援総額は約65万円、支援者数は87名に達している。

新型コロナウイルスが収束した後も、オンラインでの面会交流は定着すると思われますか。

離婚調停で定められる面会交流の頻度は、月一回3時間程度が多くなっています。一部の別居親からは、養育費を払っているのにもかかわらず、面会数の設定が少ないのではないかという不満があります。また子ども側から月一回では少ないという声が上がることもあります。いっぽう同居親の立場からすれば、たとえばDVの被害経験等があった場合、直接子どもを面会させることに不安を感じる方もいらっしゃいます。

こうしたそれぞれの不満や不安を、オンラインによる面会交流をもっと活用することで緩和させることができるのではと考えています。
またより便宜的な意味では、転居等により直接面会することが困難になったときの代替手段や、病気や災害等の非常時対応としてもオンラインは有効でしょう。

もちろんリアルな面会交流の価値は大きいですが、それを補完したり、プラスアルファとしての価値を与える可能性がオンラインにはあります。離婚後の面会交流について手引きを作成している法務省も、今回のコロナ問題にあたり、通信機器を使った交流を検討してほしいとの見解 新規タブで開く を公表しています。

何よりも、子どもたちが「離れていても親に会える」という安心感を持つために何が必要なのか、子どもの立場に配慮したときにオンラインという選択肢があることはとても魅力的だと感じます。

ー ありがとうございました!

リモートによるオンライン面会交流のポイント

離婚した親と子どもの面会交流は、双方の心情を考慮するととてもデリケートなイベントです。オンラインの場合でもそれは同様で、ZOOMの待機室機能や支援者のデバイスの使い方(二台持ち)など細やかな配慮が求められることがわかりました。また見方を変えると、ITだからこそ痒いところに手が届く柔軟な使い方が可能でもあります。

支援者のデジタル環境整備は、事務局のオフィスを利用できず自宅から接続せざるを得ない状況ゆえの課題でもあります。会社員等のテレワークでも、自宅の通信やPC機器の環境整備が問題になることはよくあります。リモート時代を迎え、各個人によるIT環境の整備と必要な援助の洗い出しはますます重要になるでしょう。

新型コロナウイルスが落ち着いてからも、リアル+リモートによる新しい面会交流から、子どもの健やかな育ちを応援できればと思いました。

なおびじっとのクラウドファンディングは7月末まで実施しています。ご興味のある方は当該サイトお父さんもお母さんも大好き! 新型コロナで会えない親子へのオンライン面会交流支援 新規タブで開く をご覧下さい。

「リモート」から見える未来

新型コロナウイルスと共存する「ニューノーマル」の一つのスタイルとして、これまで「直接の対面」が前提だったビジネスや人々の行動を、「リモート」「遠隔」「オンライン」へ置き換える試みが加速しています。

本連載では、様々な業界やビジネスにおけるリモート化の新しい動きを紹介しています。

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  • 自治体・企業・人物名は、取材制作時点のものです。

2020年06月19日公開
(2020年07月01日更新)

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