わが家のデジタル化は、お父さんの「見えない家事」?

「ICTを活用した学校教育に対する家庭での取り組みに関するアンケート」父母別分析から

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2020年2月5日公開

2021年3月末の完了を目標とし、前倒しで進められてきたGIGAスクール構想による生徒向け学習用端末整備の期日が目前に迫ってきました。さらに、2024年のデジタル教科書本格導入に向けた動きや教員のICTスキル向上への議論がなされるなど、学校教育のデジタル化はますます加速しています。

未来サービス研究所では、こうしたデジタル化の進展により家庭でもICTを駆使して遠隔で学校教育を受ける機会が増えると予測し、小・中学生の保護者の意識を調査しています。

今回は本アンケート調査から、とくに父親と母親の家庭での役割の違いや意識差に注目し、教育分野にとどまらず拡大していくと予想される家庭におけるデジタル化の未来について考察してみました。

わが家のデジタル化は、お父さんの「見えない家事」?

新型コロナウイルスの影響により学校の一斉休校措置が取られた2020年3月からアンケートを実施した同年9月までの間に、ICTを用いた学習環境の整備のために新しくPCやタブレットを購入した家庭は小・中ともに約2割ありました。

これは5世帯に1世帯にあたります。また小学生の子を持つ家庭では、約1割がイヤホン等の付属物やプリンターを新しく購入しています。デジタル教育を進めるためにはこうしたICT環境に対する投資が家庭において負担になることは否定できません。

教育デジタル調査図表1

それでは、こうしたICT環境の整備は家庭の中でだれが担当しているのでしょうか。調査結果によれば、おもに父親になっています(小学生47.4%、中学生58.3%)。

教育デジタル調査図表2

国立社会保障・人口問題研究所が定期的に実施している全国家庭動向調査では、2018年に「見えない家事」を家庭の中でだれが担当しているか質問しています。

「見えない家事」とは、「掃除」や「食事作り」のような家事として明示的な行為ではなく、家事として語られることは少ないが誰かが担当しなければならない行為(「食材や日用品の在庫把握」「家族の予定調整」など)を指します。<図表3> が示すように多くの見えない家事はもっぱら母親が担当していますが、唯一「購入する電化製品の選定」だけは、母親よりも父親が担当する割合が高くなっています。

教育デジタル調査図表3

市場に出回るPCやタブレットからを家庭での利用に適したスペックを選定し、インターネットやオンライン教育システムにつながるよう設定するICT環境の整備も、電化製品の選定と性質的には近い行為と言えます。これらの「ICTにかかわる見えない家事」はおもに父親(男性)が担う傾向にあることが見えてきます。

母親は勉強の支援、父親はICTの支援

それでは、家庭で子どもがICTを用い勉強に取り組んでいるときに親はどのような支援や行動をしているのでしょうか。保護者が実施していることを「学習環境」「学習内容」「ICT支援」の3分野から質問しました。

【学習環境に関すること】
 ・学習を始めるよう声がけするなど、生活リズムの管理をする
 ・子どもがデバイスで学習以外のこと(YouTubeやゲームなど)をしていないかチェックする
【学習内容に関すること】
 ・子どもの学習の進捗状況をチェックする
 ・子どもが学習内容を理解できるよう支援する、
【ICT支援に関すること】
 ・デバイスのセッティングやコンテンツ操作など、ICTの操作方法を支援する
 ・Eメールやオンラインシステム等を介し、子どもの代わりに学校や教師側と連絡を取る
 ・Eメールやオンラインシステム等を介し、子どもが学校の友達と交流できるよう支援する

教育デジタル調査図表4

父親と母親別に傾向を見ると、母親は子どもの学習環境、学習内容にかかわる行動の値が高いのですが、ICT支援になると父親と母親の値が同等になるか、父親が逆転しています。

インターネットへの接続やオンライン授業へのアクセス設定など、家庭におけるICT環境に対する知識や技術が必要な作業は父親が担当することが多そうです。いっぽうで、子どもが勉強を習慣化し集中できるよう学習環境を整え、学習が滞っていないか、学んだ内容をちゃんと理解しているか確認・支援する作業は母親が担当しているのではないかと推測されます。

ICTを活用した教育に父親が肯定的であるいっぽう、負担感を感じる母親も

父親のほうが家庭内のICT環境に対する関与が強いという特徴は、ICTを用いた学習に対する父母間の意識面の違いにも表れています。

<図表5> は家庭内でICTを用いた学校教育を受けることに対する意見を聞いたものですが、父親は「紙の教材が減るのでスペースを取らない」「これからの社会には必要である」というICTを用いた学習のメリットに対する数値が高くなっています。いっぽうで母親は、「子どもだけで学習するのは難しい(親が付き添う必要がある)」「親が子どもの勉強を教えるのは難しい」といった家庭学習の困難さに対する数値が高くなりました。

とくに小学生の母親では40.2%が「子どもだけで学習するのは難しい(親が付き添う必要がある)」と回答しており、家庭で子どもの勉強を見ることが、とくに小学生の子どもを持つ母親には負担になっていることがうかがえます。

教育デジタル調査図表5

子どもとICTの関わりに対する父親と母親の意識の違いは他の調査結果においてもみられ、父親のほうが子どもにデジタル機器を使わせることによる知識・情報の取得に肯定的である※1、ICTを利活用するための指導に対する関与度が高い※2など本調査と同様の傾向を示していました。

家庭のデジタル化の未来はどうなる?

学校教育に限らず、今後も家庭で営まれるさまざまな行為のデジタル化が進むと予想されます。たとえばIoTを活用して家電製品を遠隔から操作することはすでに可能ですし、家事全般を代行するロボットが一家に一台ある未来もそう遠くないかもしれません。

こうして家庭内のデジタル化が浸透するほど、製品選定や初期設定、故障対応などICTに関するある程度の知識や技術が必要な行為を家族の誰かが担当しなければいけなくなります。また、子どもなど家族員に対してICTの知識や使い方を教える機会も増加します。現在これらの行為は「見えない家事」という位置づけにとどまっていますが、加速するデジタル化の潮流の中でその存在感は高まっていくでしょう。

今回の調査データからは、これらのICTに関わる家事労働はもっぱら父親の役割であることが示唆されました。昔ながらの表現を使うと、いわゆる機械いじりに近い作業は父親(=男性)、子どもがちゃんと学習しているか行動に気を配り、身の回りの世話をするのは母親(=女性)という一種の性別役割分業がデジタル社会においても根強く残っているのではないかと感じられます。

科学技術の社会史を専門とする米国人学者ルース・シュウォーツ・コーワンはテクノロジーがもたらす家事労働の変化に着目し、電気洗濯機など家電製品の普及で利便性はもたらされたものの、かえって洗濯回数が増えるなど手をかけた家事の労力が増え、「家族が快適に過ごせるために気を配る」女性の家事負担は減らなかったと指摘しています※3

今後も家庭内のデジタル化が進むにつれて、家事労働の中身や方法は変化していくでしょう。来たるべき未来社会は、男性・女性どちらかに特定の役割や負担が偏ることのないテクノロジーを提供できるものであってほしいと思います。

※1「子育て中のデジタル機器とインターネットの利用に関するアンケート」(2018)チエネッタ/NTT西日本
https://flets-w.com/chienetta/list/2018/03/digital-child-raising-questionnaire.html
※2「子どものICT利活用能力に係る保護者の意識に関する調査報告書【概要版】」(2014)総務省情報通信政策研究所
※3ルース・シュウォーツ・コーワン著、高橋雄造訳「お母さんは忙しくなるばかり 家事労働とテクノロジーの社会史」(2010)法政大学出版局

(未来サービス研究所 八巻睦子)

「ICTを活用した学校教育に対する家庭での取り組みに関するアンケート調査」概要

【調査内容】
・新型コロナウイルスの影響による休校期間中および現在における、家庭でのICTを用いた学校教育の実施実態
・ICTを用いた家庭での学校教育に対する保護者の意識
【調査手法】
 調査会社のモニターを用いたWeb調査
【調査期間】
 2020年9月16日~9月20日
【調査対象】
 新型コロナウイルスの影響による休校期間中に家庭でICTを使った学習をした、または現在学習している小学生・中学生の保護者1,091名
 ※塾や習い事など学校教育以外のICT利用は除外して質問
<対象者詳細>
 関東・中部・近畿地方に在住する30~50歳代男女
 男性(父親)478名、女性(母親)613名
 小学生の保護者764名、中学生の保護者327名

調査結果の詳細につきましては別冊のレポートをご覧ください。
「ICTを活用した学校教育に対する家庭での取り組みに関するアンケート調査」(下の表紙をクリックするとダウンロードできます)

ICT教育調査表紙

※本調査結果を引用いただく際は出所の明記をお願いいたします。

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※自治体・企業・人物名は、取材制作時点のものです。


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