いつでも、どこでも、だれでもコンセント無しで電源を利用できる未来!ワイヤレス給電とブロックチェーンが創る新しい暮らしとは?(前編)

【エネルギー×ITが創る未来 vol.3】

  • 環境

2020年04月14日

  • カーボンニュートラル

ワイヤレス給電技術を用いてコップやお皿を送電部内蔵のテーブルやキッチンに置くと、保温や加熱ができ、回転させると温度調整ができる。そんな新しい暮らしを作ろうとしているスタートアップ企業があります。ワイヤレス給電システム「POWER SPOT」を開発する株式会社ベルデザインです。同社では、身の回りのモノにワイヤレス給電を搭載し、暮らしがより豊かになるような製品、サービス開発に取り組んでいます。
また、仮想通貨などで利用されているブロックチェーン技術をワイヤレス給電システムに活用することで、ワイヤレス給電のビジネス化が加速することが期待されます。

「エネルギー×ITが創る未来 vol.3」では、未来研・金森研究員がPOWER SPOTを開発する株式会社ベルデザイン 代表取締役CEO 鈴木健一郎氏と、エネルギーデジタル化やブロックチェーンにご見識の深い一般社団法人エネルギー情報センター 理事 江田健二氏のお二人にお会いし、ワイヤレス給電とブロックチェーンが創る未来についてお話をうかがいました。

前編ではベルデザインが開発するPOWER SPOTについてご紹介します。

ベルデザイン創業経緯

金森 ベルニクスは元々電源のメーカーですね。ここからワイヤレス給電のスタートアップとしてベルデザインを創業された経緯を教えていただけますでしょうか。

鈴木 ベルニクスは創業42年、老舗の電源メーカーです。火力発電所や原子力発電所、飛行機、携帯基地局、医療モニターや超音波診断装置などの医療機器、放送、鉄道業界などあらゆる産業機器に電源を提供しています。工場のAGV(無人搬送車)などさまざまな産業機器にもワイヤレス給電を採用頂いていますが、ワイヤレス給電は産業機器だけでなく、もっと普通の生活のなかで利用してこそ価値が出てくるものだと感じていました。

金森 普通の生活の中というと、ベルニクスの従来のビジネス領域とはかなり対象が異なりますね。

鈴木 社内で検討を進める中、2015年にさいたま市、埼玉大学とワイヤレス給電で充電できる電動アシスト自転車を開発し、市内で社会実験、実証実験、実用化を行いました。ワイヤレス給電で充電できるため、漏電や感電を気にせず、完全防水で安全、容易に充電できます。

ワイヤレス給電による電動アシスト自転車のシェアサイクルを手掛け、ワイヤレス給電という技術は改めて人々のライフスタイルに価値を提供できるものだと感じました。発電の方法は火力から原子力、再生可能エネルギーへと進化してきています。コンセントの先につながる機器も、携帯電話、パソコンをはじめどんどん進化してきたのはご存知のとおりですが、その間を繋げるコンセントだけは何も変わっていません。コンセントをワイヤレス給電化、デジタル化することができればと思いました。それらを具現化するには電子部品メーカーのベルニクスではなく、新たなプラットフォームを作る必要があり、スタートアップ企業として2019年1月に株式会社ベルデザインを設立しました。

POWER SPOTに人が集まる快適な暮らし

金森 貴社で開発しているPOWER SPOTとはどのようなものでしょうか?

鈴木 ベルデザインでは、まずは机の上のケーブルを無くそうと発想しました。カフェ、オフィス、ダイニングテーブル、キッチン、などの周辺にあるモノに着目し、ワイヤレス給電化を進めていきたいと思っております。現代の暮らしでは電源があるところに人が集まりますので、パワーが集まる場所、人が集まる場所、ということで「POWER SPOT」と名付けました。弊社の技術は50W給電することができますので、加熱、保温が可能です。コーヒーや紅茶などを飲むタンブラー「MUG」、日本酒などお酒を常温から燗で飲むための「CHOCO」、ケーブルレスの持ち運べる照明「LUX」です。

POWER SPOT

左から熱燗のための「CHOCO」、タンブラー「MUG」、持ち運べる照明「LUX」です。

各製品にワイヤレス給電の受信機が、下のテーブルに送信機が搭載されており、テーブルに置くだけで器が温まったり照明が点灯したりします。

写真の「MUG」は木製のプレミアムモデル。零戦のプロペラで採用された木材加工技術と最新テクノロジーを融合させた製品です。

鈴木 最近の子どもは子ども部屋があってもダイニングテーブルで勉強することが多いです。私の家もそうですが、ダイニングは間接照明のためあまり明るくありません。勉強するときには電気スタンドを持ってくるのですが、コードに引っ掛かってしまうことがたまにあります。子どもが大きくなるとスマートフォンを充電するため、コンセントがある壁の近くにいることが多くなります。電気のある場所に寄って行くんですね。それならば、人が集まりやすい場所、集まってほしい場所であるダイニングテーブルをワイヤレス給電で演出しようと考えました。食事中にお茶やコーヒーなど飲み物を温めながら飲んで、食事が終わったら照明を持ってきて勉強し、夜が遅くなるとお酒を飲んで大人の時間を過ごす、といった具合です。

金森 POWER SPOTでは、保温や加熱ができるんですね。ワイヤレス給電を熱として利用するという発想はありませんでした。

鈴木 電気は熱に変換できますから、温めることができるんです。沸騰もできますし、1度単位の温度調節も可能です。CHOCOはおちょこをイメージしています。昔は熱燗というと、奥さんがお燗をつけて持ってきてくれましたが、今はなかなかそういうことを頼みづらくなって「自分でやれば」なんて言われてしまいます。それだったら手軽にビールでも飲もう、という人が増えている。

江田 僕は富山出身で、子どもの頃見ていた大人はみんな日本酒を飲んでいる印象でしたが、大人になって東京に来て、都会の人はみんな冷酒を飲むのかと思っていました。

鈴木 お燗するのが面倒で飲まれなくなってきているんですよ。飲食店でも人手不足が進む中、ひと手間かかる熱燗よりも手軽な冷やが中心になっています。ですが、温めても常温でも冷やでもおいしいというのが日本酒の魅力です。日本酒業界の方々と新たな燗酒の世界を作れないかと模索しています。「CHOCO」を使えば手軽にお燗ができますので、日本酒の楽しみ方を多くの方に知っていただけると考えています。

江田 冷やすこともできるんでしょうか?

鈴木 冷やす機能は搭載していません。ただ、魔法瓶メーカーとコラボすることで保温ができるようにと開発を進めています。

江田 僕はコーヒーが好きで毎日たくさん飲むんです。何度も注ぎに行くのが面倒なので、大きなカップで飲んでいて、そうするとどんどん冷めてしまいます。なので、MUGの大きなサイズがあると嬉しいですね。そういう人は多いんじゃないかな。

鈴木 コーヒーや紅茶の適温は諸説ありますが、私が聞いたのは、コーヒーは57度、紅茶は59度が一番美味しいそうです。コーヒーは高温で保温し続けると苦くなってしまいますが、57度であれば保温し続けても味は変わりません。

江田 ずっとおいしく飲めるんですね!1度単位で調整できるなら、自分の一番好きな温度を探したり、楽しみも広がりそうですね。

鈴木 今後はお皿の開発も検討しています。これまではレストランでウォーマーで温めたお皿が運ばれてきましたが、POWER SPOTを使えばテーブルの上で温かい状態を保つことができます。日本人は大皿形式だと遠慮して少し料理を残しますよね。でも次のお皿が置けないので、冷めてしまった状態で誰かが最後に食べる、なんてことがよくあります。ですが実は最後に食べた味が舌に残り、その料理の印象になってしまうそうなんです。提供する側としては温かい、一番おいしい状態でずっと食べてもらいたい。だからといって加熱しすぎても味が変わってしまいます。保温することで最後までおいしく味わってもらうことができます。

金森 置くだけで給電が始まるんですか?

鈴木 そうです。受信機側の個体認証を行い、自動で給電が始まります。誤って受信機以外のモノに給電するようなことはありませんので、安全です。送信機はテーブルの中に埋め込んでいますので、凹凸も無く普通のテーブルとして利用できます。受信機側にはケーブルが無いので、回転させることもできます。受信機にジャイロセンサーを入れており、回すと出力を調整できます。右に回すとスイッチが入り、照明が明るくなったり加熱したりします。

江田 すごいな。手品みたいですね。

CHOKO回転

CHOCOを回転させ温度調節をしている様子。スマートフォンアプリでの温度調節も可能。

鈴木 今後ですが、POWER SPOTがインターネットにつながる機器のリモコンになるような技術開発をしています。例えば、朝MUGをHOME(送電部)に置いたらカーテンが自動で開くようになったり、夜、日本酒を飲んでいるCHOCOを、POWER SPOTのアプリで音響や照明に関連つけて回す事で音量、チャンネル、明るさなどを調節することができるようにしたいと思っています。

江田 CHOCOやMUGがスイッチのような役割になり、スマートフォンアプリを連携させることで、他のスマート家電との連携も可能になるんですね。

鈴木 ケーブルから解放されたモノは自由自在に回転できるようになります。モノを回すことが次のアクションにつながるような仕組みをライフスタイルに埋め込んでいこうと考えています。

中編では、異業種を巻き込んだPOWER SPOTの事業展開について、そしてワイヤレス給電とブロックチェーンが創る未来についてご紹介します。

【エネルギー×ITが創る未来】について

エネルギーにまつわる市場環境は、今大きな変革のときを迎えています。

「エネルギー×ITが創る未来」では、ユニアデックス未来サービス研究所員がエネルギー分野で先進的な取組みをする専門家にインタビューし、エネルギーとITの革新によってどのように社会やくらしが変わっていくのか、未来のきざしを探っていきます。

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【vol.3】いつでも、どこでも、だれでもコンセント無しで電源を利用できる未来!ワイヤレス給電とブロックチェーンが創る新しい暮らしとは?(前編)(中編)(後編)

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2020年04月14日公開
(2020年05月07日更新)

鈴木 健一郎(すずき けんいちろう)

株式会社ベルニクス 代表取締役社長 株式会社ベルデザイン 代表取締役CEO

半導体商社トーメンエレクトロニクス(現 ネクスティエレクトロニクス)勤務後、1999年に電源メーカーであるベルニクスに入社。ビジネス戦略室室長、常務取締役を経て2016年代表取締役社長に就任する。
2019年1月にベルニクス社内ベンチャーとしてベルデザインを設立。生活用品・家電に関わる様々な事業者の連携を促進し、ワイヤレス給電が創る新しいライフスタイルの提案に取り組む。

江田 健二(えだ けんじ)

一般社団法人エネルギー情報センター 理事、RAUL株式会社 代表取締役社長

アンダーセンコンサルティング(現 アクセンチュア)のエネルギー/化学産業本部に所属し、電力会社や大手化学メーカーのコンサルティングに従事する。
2005年にエネルギーデジタル化や環境経営を支援するRAUL株式会社を設立。エネルギー関連の情報提供を行う一般社団法人エネルギー情報センター 理事に着任。エネルギーデジタル化に関連する市場活性化や新ビジネス創造を目指し執筆・講演活動を行う。
主な著書「エネルギーデジタル化の未来」「ブロックチェーン×エネルギービジネス」など多数

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