話題の元サラリーマン落語家に訊く!テレワークですべらないリモート話術 其の一「Web会議の沈黙がつらい」「もっと雑談がしたい!」編

テレワークあるある特別編

  • ワークスタイル

2021年02月25日

  • テレワーク・ハイブリッドワーク

テレワークの働き方が定着しつつある現在、リアルの状況に比べると同僚やクライアントとのコミュニケーションの取り方が難しいと感じている方は多いのではないでしょうか。たとえばリモートだと話しかけるタイミングがつかみにくい、雑談がしにくいなどという声をよく聞きます。

また対面集合式の会議では、報告内容だけでなく発言者の表情・仕草やその場全体の雰囲気からも情報を受け取ることができるため、総合的なコミュニケーションが可能でした。しかしテレワークで主要なコミュニケーション手段となるWeb会議は視覚から入る情報が限定されるため、「聞く」ことによる聴覚からの情報量に依存する傾向があるといわれています。

ところで、日本の伝統的な話芸である落語も、「語りを聞く」ことによる聴覚を主体としたエンターテイメントです。落語家がたった一人で高座に上り、仕草や少ない小道具だけを頼りに物語の世界を表現するという点でも、聴衆が受け取る視覚情報は映画などに比べてかなり限定されます。

・・・ちょっとこじつけかもしれないけれど、落語の話芸からテレワークコミュニケーションに役立つTipsが学べるかもしれない!と思いたった未来サービス研究所。37年の会社員生活を経て落語家へ転身し、「落語DE社史」などビジネス経験を活かした創作落語が注目されている参遊亭遊助さんならば我々の悩みに答えてもらえるかも、と早速コンタクト。一問一答形式で、テレワークに使えるリモート話術のコツを伺ってみました。

国際派ビジネスマンから落語家へ!転身の背景は?

一問一答に入る前に、遊助さんのプロフィールについて伺います。すでに新聞取材などでお話されていますが、会社員から落語家に転身されたきっかけについて改めて教えてください。

遊助:タイで劇団に参加したのがきっかけですね。タイで単身赴任をした場合、ほとんどの駐在員はゴルフをするんですが、私は手首を痛めていて(本当は下手なので)ゴルフをしないんです。何か他にないかなと思ったときに日本人の劇団を見つけまして、参加しました。

日本に戻られて、演劇ではなく落語を始めたのはなぜですか?

遊助:落語そのものは詳しくなかったのですが、小さいころからテレビやラジオでよく聞いていました。
ただ、それ以上に劇を続けてやりたいなという気持ちがあったのですが、よく考えると劇は時間がかかるんです。
何カ月も前から練習を始めて、平日の夜に集まったり、土日をつぶしたり。家族もいますし、仕事との両立が厳しい。それで、落語なら一人で練習できるし、昔から聞いてもいたので始めようと思いました。

ビジネス経験がある落語家、という点が遊助さんの独自性だと思うのですが、それが役に立っていると思われることはありますか。

遊助:サラリーマン時代に、当たり前にお客さまにしていた態度が自然とできていることですね。
例えば高座のあとお見送りのさいに、出口で「ありがとうございました」とご挨拶して名刺を渡す。お礼のメールを送ったりもします。高座が終わるとすぐに控室に入ってしまう落語家さんも少なくないのですが、私のようにお客さまのお帰りの時に挨拶しておくと、「今度うちの会で落語やってくれる?」とお誘いがかかることがあります。Aさんにやってくれと言われ、そこに来ていたBさんがぜひうちでもとなり、その先で聞きにきたCさんが...といった具合で6回ご縁がつながったこともありますよ。

創作落語の「落語DE社史」は企業からのヒアリングを素材にしていますが、やはりサラリーマンを37年間やってきた経験が活きています。企業という物がわかっていますし、子会社の社長も2カ所ほどやったので経営者の話もよく理解できます。
銀行員もやっていたので、資金繰りの苦労の話などもこちらから問いかけることができます。ヒアリングの際に、実感を持って聞けるというのは強みですね。

ぜひその落語家とサラリーマンのご経験を活かし、私たちの悩みを聞いてください!テレワーク中心の生活から1年以上が経過した未来研メンバーから、コミュニケーションにまつわる悩みを募集しました。事前にメールで回答を頂いていますが、今回はインタビューをしながらお答えについてより詳しくお伺いするかたちで進めさせていただきます。

一問一答! リモート話術のコツ

<お悩み> 会議報告のあと、質問を待つ沈黙...この間がプチストレス

「管理職です。オンラインの定例会で伝達事項を喋った後、『~以上です。何か質問ありますか?』と話しかけても、沈黙が・・・。みんなミュートにして聞いているせいか、雑音もなくクリアな状態での沈黙が続いてしまいます。この間が苦手で、プチストレスになっています。」


遊助から一言 answer

落語家も笑ってもらいたいところで少し間を開けることがありますが、これが慣れないとなかなか勇気がいることで。1秒間を開けるのも永遠のような気がしますよね。

「何か質問ありますか?5秒待ちます。5・・4・・3・・2・・1・・。ないですか?では、これでおしまい。」としてみてはいかがですか?数を数えているので沈黙しなくていいですし。待ち時間を明確にして、しかもカウントダウンだと何か発射しなくちゃいけないような気になるでしょ。すると多分「これでおしま・・」というあたりで、間抜けな声で「あの~」という質問が出てきますよ。

ちなみに、「1・2・3」とするとアントニオ猪木になるので注意してください。

その心は? 聞いてみました

未来研:「間や沈黙がつらい」これはWeb会議あるあるですね。カウントダウンのテクニックでなるほどと思ったのは、「数を数える」という行動を取ることで、間が作れる。さらに自ら発話することで「ずっと黙っている辛さ」がなくなる点です。

遊助:あえて「間を作る」って、慣れるまでは怖いものですよね。でも聴衆が話を咀嚼し、頭の中を一休みさせるためにも適度な間は大切です。
もうひとつ、講演などでは水を飲むことで間を作るというテクニックもあります。カウントダウンと同じように水を飲む時間が「間」になりますし、自分は水を飲むという行為をしているので、黙って間を持たせる辛さが和らぎます。
噺家さんでも、高座でお茶を飲む人がいますね。
ああやって作る間が、次に何をやってくれるのかなという期待感を持たせますよね。
そういう所作はいいかもしれません。

未来研:お茶飲み作戦ですね。

遊助:お茶を飲むこと自体を言っても良いかもしれません。
「一口飲みますね」
「ズーっ」
「質問ありますか」
なんてね。

参遊亭遊助2
「お茶飲み作戦」実演中

未来研:沈黙にまつわるこんな悩みもあります。Web会議を開室して一人で待っていると、もう一人ぽつんと入ってきたものの、話題がなく互いにシーンとなることがあります。
本番が始まるまでの沈黙です。
慣れると平気なのですが、これもプチストレスを感じます。

遊助:対策は2つありますね。
ひとつは質問を投げかけてしまうことです。
「最近どうしているの?」「あの会議の件はどうなったの?」など
何でもいいから質問を投げかけると、相手が話すきっかけができて良いでしょう。

あとは割り切ってしまって、「みんなが入って来るまで待っててね」と言ってしまいましょう。「待っててね」と言うことで、これから沈黙ができるという状況を是認する空気ができるでしょう。

未来研:「沈黙ができることを参加者で許容する」というのもいいアイデアですね!
さて次は、雑談についてのお悩みです。

<お悩み> アジェンダ中心の話題じゃなく、雑談がしたい!

「会議がアジェンダに沿った進行になり、横道にそれた雑談がオンラインでは難しい。リアル会議なら、会議室への移動途中に話をしたり、会議中でも何となく『閑話休題』的な雰囲気が出てきたりするのですが。うまく雑談へと誘導するコツがあれば...」

「雑談のコミュニケーションも大事だなと思い、『雑談目的のオンラインミーティング』を設定してみましたが、いざとなると話が弾まず沈黙がつらかった経験が...。意図的に雑談を作り出すのは難しい!」


遊助から一言 answer

会議から雑談に誘導するなら、「直接関係ないですけど」から初めてみてはいかがですか。アジェンダに沿ったことを話題にしていますが、そこからハンドル切ってずらしますよという宣言です。そこから皆さんに質問をしていきましょう。

落語には、よく、知識のない八っつぁんが知ったかぶりの御隠居にものを尋ねてきて、御隠居が珍答を繰り返すというパターンがありますが、質問→回答というのは会話の基本だと思います。

ですから、あなたが、面白い話題を提供しようと思うのではなく、皆さんから引き出しましょう。質問から入りましょう。そして何かキーワードを見つけて、それでしばらく話を展開しましょう。一方で、その話題には入らない人を見つけて、発言の機会が公平になるよう質問しましょう。そして、その人が中心になれる別のキーワードを見つけて展開していきましょう。キーワードを見つけるには聞き耳を立てることが大事ですね。

「Aさん、二度目の緊急事態でどんな生活?」「う~ん、あんまり変化ないかなぁ。在宅でまた犬とよく遊んでいるけど」「あ、犬飼っているんだ」「私も飼ってる」「Bさんも!Bさん犬種は何?」・・しばらく犬の話・・「(犬の話に入ってこなかった)Eさんは、何か飼ってる?」「いや、アパート、禁止だから」「そっか、在宅でどうしてる」「う~ん、走る距離が延びたかなぁ」「え、走るの何キロくらい?」「出勤してた時は朝5キロだったけど今は10キロいけてるね」・・

なんて感じになったらいいですね。

その心は? 聞いてみました

未来研:これは「キーワード展開法」とでも言えばいいのでしょうか。昔テレビ番組でやっていた「マジカルバナナ」を思い出しました(笑)。IT的な思考では、どちらかというと垂直な論理的整合性を求められる傾向にあるのですが、こうしたアナロジー(類推)的思考も大事ですね。

遊助:ポイントは、会議のテーマと全然違う話を始めてしまわないこと。会議のテーマの話をきっかけにして、「直接関係ないですけど」など話のひとことに引っかけて少しずつずらしていく。話題がずれていくときってそんな感じですよね。
あとは自分が盛り上がる話題を提供し続けるのは難しいので、誰かに聞いていってしまう。そして、話題に入ってこられない人がいないかちゃんとみてあげる。

未来研:話の聞き耳を立てるのが重要ですね。
テレワークというのは、会話のトレーニングに絶好の機会かもしれないですね。

本日の心得

  • 会議の沈黙は怖がらない。お茶でも飲んで自ら「間」をつくるべし!
  • 雑談は「マジカルバナナ」作戦で。皆が話題に入れる気配りを忘れずに!
  • 記載の会社名、製品名は、各社の商標または登録商標です。
  • 自治体・企業・人物名は、取材制作時点のものです。

2021年02月25日公開
(2021年03月19日更新)

参遊亭遊助(豆生田信一)さん

公式サイトはこちら

1981年 東京大学経済学部卒、横浜銀行入行。ニューヨーク支店、総合企画部、営業統括部などを経験。
1989年 ミシガン大学MBA取得
2001年 ALSOK入社。タイ現地法人社長、子会社社長など歴任
2014年 三遊亭遊三の実践落語教室入門。2015年1月初高座
2018年 ALSOK退社、落語に専念
現在までに240回以上の高座、100題超の噺を披露。英語落語や、新郎新婦の馴れ初めを語る「なれそめ落語」、故人をしのぶ「想い出落語」など創作にも取り組む。とくに、経営者からのヒアリングをもとに創業物語や企業の歴史を伝える「落語 DE 社史」は豊富なビジネス経験を活かしたオリジナル落語と評判を呼び、日本経済新聞でも紹介された(2021/1/12文化欄)。

未来飛考空間

お問い合わせ

お客さまの立場で考えた、
最適なソリューションをご提供いたします。
お気軽にお問い合わせください。