データサイエンスが起こす食料のサプライチェーン改革!社会全体のフードロス削減を実現
【エネルギー×ITが創る未来 vol.5】
- 環境
2020年08月27日
- カーボンニュートラル
世界では1年で13億トンにも及ぶ食料品が廃棄されており、そのなかにはまだ食べられる食料も多く含まれています。まだ食べられる食料を廃棄する事は「フードロス」と呼ばれ、世界的な課題となっています。世界の持続可能な開発目標を示すSDGsでは「2030年までに小売りや消費レベルで世界全体の一人当たりの食料廃棄を半減させ、生産・サプライチェーンにおけるフードロスを減少させる」ことを目指しています。
フードロスは非常に身近な問題で一人ひとりのちょっとした意識変化も大切ですが、社会全体のフードロスの規模を考えると個人の取り組みだけで対応するのは難しそうです。私たち未来サービス研究所でもフードロス問題に着目し調査研究に取り組んでいます。
「エネルギー×ITが創る未来 vol.5」では、エネルギーに関わる社会課題の一つとしてフードロスに注目し、未来サービス研究所 金森研究員がデータサイエンスの力でフードロス削減に取り組む株式会社DATAFLUCT CEO 久米村隼人氏と、フードロスの調査を行う未来サービス研究所 山田研究員を加えてサプライチェーン全体のフードロス削減についてお話を伺いました。
データサイエンスでサプライチェーン全体のフードロスを削減!
金森 御社では「Data Science for every business.」をミッションと掲げデータサイエンス事業に取り組んでおられますが、その中でフードロスに着目されたのはなぜですか?
久米村 創業の際に、社会的な課題に貢献できる企業を目指そうと考えました。当社は衛星データ、具体的には天気、GPS、衛星画像、CO2モニタリングなどのデータを活用しています。衛星データを活かせる社会課題は何かと考えたときに、フードロスは親和性が高いのではと気づきました。
金森 衛星データとの親和性からフードロスに着目されたのですね。日本ではどの程度フードロスが発生しているのでしょうか?
山田 日本全体で毎年600万トン超のフードロスが発生しています。家庭からのフードロスが46%(平成29年度)と多く、廃棄前の食品のマッチングや消費者の意識向上などについてさまざまな取り組みが進められています。一方で、多くの食品ロスを排出しているスーパーや飲食店などでのフードロス対策に関しては、PoCは多く実施されているものの、まだまだこれといった成功事例が少ないのが実態です。
久米村 当社ではフードロスを構造的に解決するためには、現在主に取り組まれている個人や家庭向けの施策だけでなく、サプライチェーン全体を変える必要があると考えました。これまでは安全安心な食品を届けるためにフードロスの発生は仕方ない、という考えで社会が発展してきました。ですが、データサイエンスを活用することで物流面でも更なる効率化が可能ですし、発注も経験と勘が頼りにされ標準化されていない部分がまだ多くあります。システム化はされていても、インテリジェンスなデータの活用がされていない状況です。
山田 データを活用していくことでサプライチェーン全体の無駄を削減できるのですね。御社では食品スーパー向け、農業従事者向けなどさまざまなソリューションを提供しておられますが、それぞれのソリューションがつながっているのでしょうか。
久米村 現在はそれぞれのモデルを構築しており、今後10年程で全てのデータをつなげていく計画です。その第一歩として2020年7月より「DATAFLUCT food supply chain.」のサービスを開始しています。生産、物流、小売などそれぞれの現場で管理されてきたデータを垂直統合し、未来予測によって青果物のサプライチェーンの再構築を支援するサービスです。生産量や在庫量、ルート、調達コストを最適化し、食品流通に関わる事業者の利益最大化とフードロス削減を実現します。
出典:DATAFLUCT
新型コロナウイルスや異常気象などの環境変化に対応した高精度な予測を目指す!
金森 サプライチェーンの中で特に力を入れているのはどの業種ですか?
久米村 まずは食品スーパーを中心に取り組んできており、直近では倉庫、物流に注力しています。
金森 食品スーパーというと私たち消費者にとっても身近な存在ですが、どのようにフードロスを削減するのでしょうか?
久米村 当社は食品スーパーのなかでもボリュームゾーンである中堅規模のスーパーを中心にサービスを提供しているのですが、中堅スーパーの特徴として、店長が非常に忙しいことがあります。多忙ななかで需要を高精度に予測して発注や棚割りを行うのは容易なことではなく、その結果フードロスが発生しています。そこで、自動発注、自動値引き、自動値札変更の3つの動きができるサービスを提供し、最適な発注量と価格設定を実現することで、フードロス削減と利益拡大を支援しています。
金森 フードロスが削減でき、店舗の業績向上にもつながるというのは素晴らしいですね。
山田 そのような価格形態なら導入へのハードルはかなり下がりますね。予測にはどのようなデータを活用していますか?
久米村 店舗によっても異なりますが、主にPOSデータや天気、人流など店舗の立地を考慮して活用するデータを検討しています。
山田 導入しやすい価格形態で、人流などのデータを活用できるのは魅力的ですね。データの取得方法にも独自の工夫があるのではないでしょうか?
久米村 コストをかければたくさんのデータを取ることはできますが、それが精度向上につながるとは限りません。当社では、どのようなデータがあれば予測精度があげられるかを見極めたうえで、必要なデータを効率的に取得しています。
山田 このコロナ禍で食品スーパーの利用状況にも影響がでてきています。外食の減少やテレワークの増加による自炊の増加、新規感染者数の発表報道による日々の行動変化などで需要が読みづらくなり、フードロスの削減も難しくなっているのではないでしょうか。
久米村 全体的な変化としてはスーパーに行く頻度を減らしてまとめ買いをする方が増えています。そのほかにも、日々の報道の影響による増減や長梅雨による野菜高騰の影響もあり、これまでの予測モデルで完全に対応するのは難しい状況です。アフターコロナに向けた予測モデルの精度向上が必要となっています。
金森 この夏の野菜高騰の影響も大きいのですね。
久米村 水産青果は需要よりも供給の変化による影響を受けやすいですね。当社では市場の価格変動や生産量・出荷量、気象データなどをもとに、30日後の価格変動予測を行っています。このデータは生産者側、食品スーパー双方に提供します。
山田 1カ月前に価格高騰がわかっていれば、食品スーパーでは冷凍野菜の仕入れを増やすなどさまざまな対策がとれそうですね。
金森 異常気象の発生も増えていますので、生産者側にとっても興味のあるデータになりそうです。直近では倉庫・物流に注力されているそうですが、どのような取り組みをしておられますか?
久米村 何社かと話をしながら最適な発注量や物流ルートを最適化するモデルを構築しています。
山田 物流ということはMaaSの考え方も取り入れているかと思います。未来研でもフードロス削減、特に青果のような足の早い食材ではMaaSによる物流の効率化が重要だと考えています。
久米村 物流の効率化はフードロス削減だけでなく、人件費やガソリン代などの移動コスト削減にも貢献します。倉庫や物流はフードロスの規模も大きく、当社では今一番注力して取り組んでいる領域です。
小規模事業者も導入できるデジタルトランスフォーメーションを推進
金森 サプライチェーン全般のフードロスに取り組むことでどの程度の削減が期待できますか?
久米村 さまざまな事業者のデータをつなげることで、これまで以上の高精度な予測ができるようになります。これが実現すれば、10年後には日本のフードロスを3分の1程度に削減できると考えています。そのためにまずは当社が各事業者からデータを預けてもらえる会社になることですね。データを預けるというのは信頼の証です。当社は2019年1月に創業したばかりですので、今後も実績を増やし、この会社にならデータを預けてもよいと思われる会社に成長していきたいと考えています。
金森 技術面でもさらに進化していかれるのでしょうか?
久米村 データの高度化を進めています。オートマシンラーニングにより、データサイエンティスト不在でも機械学習のアルゴリズムを組めるようにすることで、誰でもデータを利用できる仕組みを目指します。より安価に、また専門知識がなくてもデータを扱うことができるようになれば、小規模な店舗や会社でもDXによる業務変革が可能になると考えています。
山田 食料のサプライチェーンの中には中小企業も多く存在しますから、安価にデータを利用できることは利用を拡大する点で重要な要因ですね。
久米村 当社はすべての産業にデータサイエンスを導入することを目指しています。フードロスをはじめとしたさまざまな社会課題解決に向け、幅広い事業者にサービスを提供していきたいですね。
山田 日本のフードロスはこの数年横ばいで推移しています。これが10年後に3分の1になれば社会的に大きな貢献となります。今後の取組を楽しみにしています。
インタビューを終えて
フードロスというと身近な課題で個人個人が取り組んでいくことだと感じていましたが、サプライチェーン全体でみると大きな社会課題であり、フードロス削減が食品に関わるさまざまな産業の効率化や業務改善にもつながっていくのだと気づきました。未来サービス研究所でも引き続き注目していきたいテーマです。
未来サービス研究所 金森
【エネルギー×ITが創る未来】について
バックナンバー
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- ※ 記載の会社名、製品名は、各社の商標または登録商標です。
- ※ 自治体・企業・人物名は、取材制作時点のものです。
2020年08月27日公開
(2020年08月27日更新)
久米村 隼人(くめむら はやと)
株式会社DATAFLUCT CEO/Founder2007年にベネッセコーポレーションに入社後、CRMやダイレクトマーケティングに従事。その後、日本経済新聞社、リクルートマーケティングパートナーズなど複数の会社でデータサイエンス関連業務に従事し、その技術を活かし多くの新規事業立ち上げや社内起業を行う。
早稲田大学大学院商学研究科(夜間主MBA)修了、宇宙航空研究開発機構(JAXA)招聘職員。
2019年1月、株式会社DATAFLUCTを設立。JAXAベンチャー認定。データサイエンスでフードロスなどのあらゆる社会課題解決を目指す。
※JAXAベンチャー:JAXAの知財や知見を利用し事業を行うJAXA職員が出資し設立したベンチャー企業
山田 峰大(やまだ みねひろ)
ユニアデックス株式会社 未来サービス研究所 次世代ビジネス室 研究員2015年ユニアデックス株式会社入社。フードロスやEdTech、ダイバーシティーなどのライフスタイルに関わる社会課題を中心に調査研究活動を行う。
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