植物のようにCO2を吸い込むコンクリート「CO2-SUICOM(スイコム)」で未来の低炭素社会を創る!(後編)

【エネルギー×ITが創る未来 vol.6】

  • 環境

2020年10月30日

  • カーボンニュートラル

温室効果ガス排出量削減に向けてCO2削減が叫ばれる中で、エネルギー使用の効率化や再エネの普及などさまざまな取り組みが進められています。IT業界においても、IT化の進展が人やモノの移動を減らしCO2の削減に貢献する一方、データセンターなどのITインフラによりCO2が排出されています。
再エネや省エネでCO2の排出量を減らしたとしても、完全にゼロにするのはなかなか難しいことです。そんななかで、既に排出されたCO2を吸収する、まるで植物のようなコンクリート「CO2-SUICOM」が開発され、すでに実用化も始まっています。
今回は、CO2-SUICOMの事業に携わる鹿島建設、中国電力、デンカ、三菱商事、ランデスのご担当者様に未来サービス研究所金森がオンラインインタビューを行い、CO2-SUICOMの仕組みや普及に向けた取組についてお話を伺いました。
後編ではCO2-SUICOMの用途、今後の更なる開発についてご紹介します。

  • 中国電力株式会社 電源事業本部 水力土木運営担当副長 河内 友一 こうち ゆういち 火力発電所でのCO2-SUICOM製造試験、事業性評価等に携わる。
  • 鹿島建設株式会社 技術研究所 土木材料グループ 主任研究員 関 健吾 せき けんご CO2-SUICOMの技術開発・展開全般に携わる。
  • デンカ株式会社 青海工場 セメント・特混研究部 グループリーダー 森 泰一郎 もり たいいちろう 炭酸化混和材「LEAF」の研究・開発、CO2-SUICOMの品質評価(CO2吸収量の評価方法と実際の評価など)などに携わる。
  • 三菱商事株式会社、ローカーボンタスクフォース担当 滝川 晃史 たきがわ あきふみ 海外を中心としたCO2-SUICOM事業化のサポート及び海外市場・カーボンプライシングなどの制度調査を行う。
  • ランデス株式会社 品質推進本部長 藤木 昭宏 ふじき あきひろ プレキャストコンクリート製品の研究開発・品質保証などに携わる。

国内外での用途開拓が進むCO2-SUICOM

未来研 金森  現在、どのようなところで使われているのでしょうか?

中国電力 河内 基本的には普通のプレキャストコンクリート製品と同様に利用できます。現状の特性では鉄筋コンクリートに利用できないのと、屋外でCO2を吸収する方法が確立できておらず現場打設コンクリートに使用できないため、道路ブロックや基礎ブロックなど無筋のプレキャスト製品が中心です。採用例は、国道の歩車道境界ブロックや集合住宅バルコニー天井部のプレキャスト打込型枠、太陽光発電所のパネル基礎ブロック、道路の舗装ブロック、河川の護岸ブロックなど多岐にわたります。

CO2-SUICOM採用例の写真
採用例:島根県の国道における歩車道境界ブロック

鹿島建設 関  現在、鉄筋コンクリートに利用できないのは、通常のコンクリートがアルカリ性であるのに対してCO2-SUICOMは中性のためです。一方、中性なので生物や植物に優しく植生を阻害しません。また、通常のコンクリートと比べ、表面に経年変化が少なく、美観が保てて滑りにくいという長所もあります。

未来研 金森  特に利用が多いのはどのような用途ですか?

ランデス 藤木 さまざまな引き合いがあります。ただ、現在は生産体制を確立している段階で、価格が高いという課題も抱えています。そのため付加価値が高く、薄型で短時間で製造できる用途ということで、埋設型枠が事業化しやすいと考えています。

未来研 金森  埋設型枠とはどのような製品なのでしょうか?

鹿島建設 関  型枠自体も構造物の一部として一体化できるタイプのコンクリート製品です。既存の埋設型枠は高価ではありますが非常に高い耐久性のものと、リーズナブルですが耐久性は低いものに二極化しています。CO2-SUICOMは、耐久性があり、価格もほどほどな中間的な製品を開発できますし、埋設型枠は薄くて作りやすいのでCO2-SUICOMの課題を克服しながら優位性を出していける用途だと考えています。このような付加価値の高い製品を販売しながら生産量を増やし価格を下げていく考えです。

未来研 金森  価格面の課題を高い付加価値で補いながら量産につなげて価格を下げていくという方針なのですね。海外でも販売を検討しておられるとのことですが、同じ状況でしょうか?

三菱商事 滝川 海外、特に欧米では、日本ほど価格は問題になっていません。欧米では炭素税、排出権取引などの制度が進んでおり、企業が脱炭素に積極的に取り組まないと事業が継続しづらい環境ができてきているためです。欧米企業からのCO2-SUICOMへの関心は高く、既にいくつかのセメント、コンクリート、建材メーカーと製品化や販売の話を進めています。海外でもカーボンリサイクル技術の開発は活発化していますが、CO2-SUICOMはCO2排出量がマイナスで、既に日本で採用実績があるという点で大きな優位性を持っています。

未来研 金森  サステナビリティーへの取組が事業に必須のものとなるなかで、CO2-SUICOMへの期待が高まっているのですね。

三菱商事 滝川 カーボンニュートラル、カーボンネガティブという言葉が出てきており、従来はCO2排出量を削減しよう、という動きだったのが、現在では排出量ゼロや、過去に排出したCO2をカーボンリサイクルで回収しよう、という目標を立てる企業も出てきています。

未来研 金森  日本でも同様の動きはあるのでしょうか?

三菱商事 滝川 日本でもJ-クレジット制度(温室効果ガスの排出削減量を取引するために国が運用する制度)などができています。ただ、CO2-SUICOMのような新しい技術は対象となっておらず、取引価格も安価なため、まずは先行している欧米での取り組みを進めていきます。

欧米での販路開拓について話される三菱商事 滝川様

CO2-SUICOMで環境性能の高い構造物を次世代につなぐ!

未来研 金森  今後さらに開発も進めていかれるのでしょうか?

中国電力 河内 この8月にNEDOの公募委託事業「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/ CO2有効利用拠点における技術開発」にCO2-SUICOMの研究開発が採択されました。今後はこのなかで、用途拡大に向け開発を進めていきます。

未来研 金森  特にどのような用途を増やしていくご予定でしょうか?

中国電力 河内 鉄筋コンクリートや現場打設コンクリートとしても利用できるようにしていきます。これらの製品に対応できるようになれば、対象となるコンクリート量が非常に大きくなりますので、スケールメリットが得られて課題である価格低下の促進が期待できます。2025年頃を目途に新しい用途での製品化を目指しています。

ランデス 藤木 量産でのコストダウンとあわせ、CO2-SUICOMに最適な生産環境を当社の工場に作っていくことで生産性を向上させ、更なるコストダウンも進めていきます。

未来研 金森  コストが下がることで一層の普及が期待できますね。CO2-SUICOMの普及でどのような社会を目指しておられますか?

中国電力 河内 カーボンリサイクルはまだ新しい概念ですので、基礎研究段階の技術が多いなかで、我々の技術は一部ではありますが、商用化ができています。更なる開発で普及を進め、経済産業省が示しているカーボンリサイクル社会の実現に貢献していきたいですね。

三菱商事 滝川 既に排出されたCO2を削減していくことでカーボンニュートラル・ネガティブの社会に近づけていくことができます。将来的には世界中のコンクリート建材の全てを脱炭素化していくことが世界で目指すべき社会だと思います。CO2-SUICOMをはじめとしたさまざまな技術でその実現を目指します。

CO2-SUICOMによる環境貢献の想いを語るランデス 藤木様
CO2-SUICOMによる環境貢献の想いを語るデンカ 森様

未来研 金森  コンクリ—トのすべてが脱炭素になっていけば素晴らしいですね。皆様のお話をうかがい、今後は街を歩いていてもコンクリートを見る目が変わりそうです。

ランデス 藤木 コンクリートや建設分野は環境に悪いというイメージを持たれがちですが、CO2-SUICOMでそのイメージを変えていきたいですね。

中国電力 河内 見た目では通常のコンクリートもCO2-SUICOMも違いはありません。CO2-SUICOMがどれくらい環境に貢献しているか見える化できるようになるといいなと思います。

三菱商事 滝川 プラスチックの利用削減が課題となっているなかで、アパレルメーカーがプラスチックを靴や服に再利用したり、小売店がレジ袋をなくしたり、といった取り組みが進んでおり、企業だけでなく消費者も環境貢献に積極的に取り組む社会ができてきています。構造物の世界でも、住宅に環境負荷の低いコンクリートを使うような流れはできていくのではないでしょうか。個人個人が一層脱炭素を意識できる世の中に繋げていけたらいいですね。

鹿島建設 関  東日本大震災以降、インフラの強靭化も社会課題となっており、災害対策として土木構造物は今後も必要だと考えています。一方、近未来の社会を思い描いたときに、緑にあふれたなかにコンクリートの建物があるような絵が描かれることが多いです。世間が望む未来社会というのは緑にあふれた環境に配慮された社会なのかなと感じています。そういった社会の実現にCO2-SUICOMで貢献していきたいですね。

デンカ 森   コンクリート構造物は社会資本であり、世の中に長年に渡ってストックされます。持続可能な発展に向けて、現代に生きる我々がCO2削減に努めて環境性能の高い構造物の技術提案と構築を通じて、次の世代につなげていくことができたらと考えています。

集合写真
<オンラインインタビューでの記念撮影>
デンカ 森様(上段左)、ランデス 藤木様(中段左)、三菱商事 滝川様(中段右)、中国電力 河内様(下段左)、鹿島建設 関様(下段右)

インタビューを終えて

過去に排出したCO2を有効利用できるというのは素晴らしい技術だと感じました。CO2-SUICOMの今後一層用途が拡大し、身近な構造物にどんどん利用されていくことが楽しみです。

日本でも環境への取組がビジネスとして一層活性化していくことを期待したいですね。

未来サービス研究所 金森

【エネルギー×ITが創る未来】について

エネルギーにまつわる市場環境は、今大きな変革のときを迎えています。
「エネルギー×ITが創る未来」では、ユニアデックス未来サービス研究所員がエネルギー分野で先進的な取組みをする専門家にインタビューし、エネルギーとITの革新によってどのように社会やくらしが変わっていくのか、未来のきざしを探っていきます。

関連サイト

  • 記載の会社名、製品名は、各社の商標または登録商標です。
  • 自治体・企業・人物名は、取材制作時点のものです。

2020年10月30日公開
(2020年10月30日更新)

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