ご近所で電気をシェアする!IoTで消費者間での電気のシェアリングプラットフォームを目指すNatureの取り組みとは?

【エネルギー×ITが創る未来 vol.8】

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2021年4月2日公開

普段何気なく使っている電気。もっと安くならないかな、とお考えの方も多いのではないでしょうか?
スマートリモコンや家庭内のエネルギーマネジメントのためのIoTデバイスを販売し、2021年3月からは電力小売り事業者に参入したNatureでは、将来的には電気をご近所で融通しあい、賢く利用することでクリーンエネルギーの普及を促進しながら電気代を安価にしていくことを目指し取り組みをすすめておられます。
今回はNatureの塩出晴海代表取締役社長にオンラインインタビューを行い、同社の現在の取り組みや電気のシェアリングプラットフォーム構想についてお話を伺いました。

塩出 晴海(しおで はるうみ)

Nature株式会社 代表取締役社長

13才の頃にインベーダーゲームを自作、2008年にスウェーデン王立工科大学でComputer Scienceの修士課程修了後3カ月間洋上で生活。その後三井物産に入社し、途上国での電力事業投資・開発等を経験する。2016年にハーバード・ビジネス・スクールでMBA課程を修了。ハーバード大在学中にNature株式会社を創業する。

自然への想いとコンピューターサイエンスの知識を活かし創業

塩出社長は三井物産時代から電力事業に携わってこられた後、スマートリモコンを開発するNatureを創業されましたね。もともとエネルギーに興味がおありだったのですか?

もともとは情報系で大学院までコンピューターサイエンスを勉強していたんです。父親もITエンジニアで、楽しそうに仕事をしているのを見ていましたし、僕自身子どもの頃からプログラミングを書いて遊んでいましたので自然と情報系に進みました。三井物産入社後もユビキタスに関連する事業部への配属を希望していたのですが、ちょうど関連部署がなくなってしまったんです。その時に改めて自分の興味を振り返ってみたときに、自然というキーワードが浮かびました。僕は自然が大好きで、大学院卒業前には3カ月間ヨットでの洋上生活をしたこともありました。自然に関連して今後花開く領域は何かと考えたときに、クリーンエネルギーに行きつきました。

自然がお好きなので会社名も「Nature」とされたんですね。その後三井物産ではクリーンエネルギーのお仕事に携わられたのでしょうか?

「三井物産の中で一番自分が成長できるクリーンエネルギーの部署にいきたい」と希望したのですが、当時のプロジェクト本部の人事にスウェーデンの大学院を卒業していてなんだか面白そうな奴と思ってもらえたようで、当時の三井物産でも大きなプロジェクトを中心に扱うプロジェクト本部に配属になり、最初はインドネシアの石炭火力発電所への事業投資案件に携わりました。
電力業界のグローバルトップ企業であるGDF Suez(現ENGIE)と対等な関係で電力ビジネスを推進する機会に恵まれ、当時は休みの日も図書館に通って数百ページあるPPA(電力売電契約)やRFP(入札要件書)をひたすら読んだり、数千から数万行あるファイナンスモデルを一行ずつ読み解いていったりしました。そうして事業の理解が深まると、実績も出てきて、どんどん周囲から認められ、タイ、マレーシアなどの類似案件にも社内外から名指しで声がかかるようになっていきました。

電力ビジネスは比較的閉じた業界ですから、精通した方は重宝されたのでしょうね。

はい。ですがその頃インドネシアのカリマンタンの炭鉱に行き、小型飛行機で上空から炭鉱を見る機会がありました。小さな村の横に広大な地面をえぐりとって広がる石炭鉱があり、想像を超えた規模の採掘機や輸送機が動いていました。また、石炭鉱の現場では事故も多く時には亡くなる方もいらっしゃいます。空から眺めながら、これまで当然のように使っていた電気はこのような犠牲の上に成り立っているのだと改めて認識し、本当にこれでよいのかと大きな違和感を覚えました。

その同時期に日本では東日本大震災による福島原発の事故が起きました。そこで再度世の中のエネルギーがもっと分散化されたクリーンエネルギーにシフトしていく必要があると考えるようになりました。

空から炭鉱の様子を俯瞰し、また、福島原発の事故を受けて、クリーンエネルギーの必要性を再認識されたのですね。

三井物産入社前から将来は起業することを考えていたので、クリーンエネルギーに関連した事業を起こそうと考えるようになりました。ただ、ベンチャー企業がクリーンエネルギーの発電に関わるのはちょっと重たいですし、送配電も手が出しづらい。その中で、電気を使う一般消費者に向けたビジネスであれば可能性があると考えました。もともとコンピューターサイエンスを専門としてきましたから、IT技術を使って住宅内の電力を制御するようなことができるのではと考えました。

塩出社長に馴染みのあったIT技術を使ってエネルギーを制御しようとお考えになったのですね。

制御対象としては家庭用エアコンが適していると考えました。赤外線リモコンを作ればほとんどの機種に対応できますし、家庭の電力消費の多くをエアコンが占めていますから、世の中に与えるインパクトも大きい。そこで、赤外線でエアコンを制御するスマートリモコン「Nature Remo」を開発しました。

Nature Remoの仕組み

出典:Nature

さまざまなスマートリモコンが販売されていますが、Nature Remoの特徴はどんなところでしょう。

創業時からデザイン性には非常にこだわっています。見た目だけでなく、使いやすさも含めてデザインを検討しています。デザインがユーザー体験の重要な部分を担っているためです。Nature Remoは赤外線を使うため、人の目につく場所に設置することになります。また、エアコンの操作をするための端末ですから、楽しくというよりは快適に操作できるデザインが望ましい。そこで、「空間に溶け込む」「ユーザーに存在を意識させない」といったコンセプトでデザインしています。
オートメーション化にも力を入れており、温度、湿度、人感、照度などのセンサーを設置しています。例えばユーザーが部屋の中に入ると自動で照明やテレビをつける設定ができます。エアコンの自動調整についても、エアコン本体にもセンサーはついていますが、より人が生活する場所に近い温度や湿度をセンシングして調節できますので、快適な温度コントロールが可能です。

ユーザーはどのような方が多いのでしょうか?

発売当初は新しいもの好きなイノベーター層に注目していただきました。最近ではユーザー層が広がり、育児中のご夫婦やペットを飼っている方などが、快適に便利に暮らしたいという想いからご購入いただくことが増えてきています。

「Nature スマート電気」でもっと賢い電気の使い方を促進!

コロナ禍で在宅時間が増え、ユーザーのニーズも変わってきているのではないでしょうか?

在宅時間が増えた分、家の中をもっと便利にしたいという方が増えているようです。住宅内をIoT化するためにNature Remoをご利用いただいています。

ユーザー層が益々広がっていますね。コロナによる貴社自身のお取り組みの変化はありますか?

今後コロナからの経済回復が進むにつれ、カーボンニュートラルに対する世界からの注目度は一層高くなっていくと考えています。当社としてもクリーンエネルギー100%の世界を目指す中で、2021年3月より電力小売り事業「Natureスマート電気」を開始することとなりました。

電力会社になられるんですね。どのような電気料金プラン、サービスをお考えでしょうか。

多くの電力会社では電気料金の単価をあらかじめ決めていますが、Natureスマート電気は市場の電気の価格にあわせ30分ごとに単価が決まります。このような電気代の設定方法は「ダイナミックプライシング」と呼ばれていて、電力自由化が先行している欧州では広く採用されています。電気の利用が多い時間帯は電気代が高くなり、少ない時間帯は安くなります。そのため、電気代が安い時間に意識して家電を使っていただくことで電気代を節約することができます。

一般的な家庭では昼間や夕方に電気の使用量が増えますが、その時間をずらして家事をしたりエアコンで空調を調節することで、電気代を節約することができるんですね。

2021年5月には、Nature Remoと連携し、電気料金が安い時間に自動でエアコンなどが稼働できるようになります。住宅の電気代の中でもエアコンの割合が大きいので、エアコンを効率的に動かすことで電気代の削減効果が高まります。

出典:Nature

Nature スマート電気にダイナミックプライシングを採用されたのはどのようなお考えがあってのことでしょうでしょうか?

菅首相の所信表明演説で、日本は2050年までにカーボンニュートラルを実現することが宣言されました。世界的にもカーボンニュートラル、クリーンエネルギーへの動きは加速しています。
当社でも将来的にクリーンエネルギーが100%となる社会を目指していますが、そのためには、これまで以上に高い電力系統運用が求められますし、クリーンエネルギーは発電量が天候などによって変動しますから、その変動を吸収するための調整力が必要になります。EVや蓄電システムなどが調整力として期待されていますが、それだけでなく消費者の意識や行動変容も必要だと考えています。そこで、電気代が高いときは消費者が電気を使うのを減らし、電気代が安い時に使うように誘導するダイナミックプライシングを採用しました。

電気代の変動に応じて消費者の電気の使用量を変化させるということですね。

はい。そのような仕組みをデマンドレスポンスといいます。電力需給と電気料金を連動させることで、各消費者が電力のピークタイムを避けて、電気を使うようになります。それが、火力発電などの余分な稼働を抑えてカーボンニュートラルに寄与するからです。

発電が不安定なクリーンエネルギーを普及させるためには、消費者の電力消費形態を変えることが必要なのですね。

安い時間帯に電気を使えば安くなるし、高い時間に使えば高くなるという、他の産業では昔から導入されている市場原理を受け入れ、うまく活用することで、これまで以上に安価に賢く電気を利用することができるようになります。Nature Remoを活用することでそれを自動化させることができますので、消費者が負担を感じるようなこともありません。

目指すは電気のシェアリング!クリーンエネルギーを賢く活用するプラットフォームを構築

Nature Remoで消費者が自動的に賢く電気を利用できるようになるのですね。今回電力小売り事業に参入されましたが、今後はどのようなエネルギー社会を目指していかれますか?

将来的には電気のシェアリングプラットフォームを構築することを目指しています。家の中で不要な電気をご近所の別の家に融通するようなイメージです。当社はそれを実現するための電力のCtoCプラットフォームを構築していきたいと考えています。

余った電気をご近所に融通するというのは面白いですね!ご近所に売るとなると、遠方の発電所から送電されるよりも安価になるのでしょうか?

送電にかかる費用を託送料金というのですが、現在は距離によらず一定額です。ですが、実際は送電線を作るのにコストがかかっていますから、距離に応じた価格になるべきです。高速道路もそうですよね?現在託送料金の見直しへの声が高まっており、グローバルな流れをみても将来的には距離を考慮した価格設定になることが予想されます。

余った電気を売るとなると、太陽光発電を搭載している住宅が対象になるのでしょうか?

売る側はそうですね。太陽光発電で発電した電気や、EVや蓄電システムに貯めた電気で余っている電気を販売します。買う側は誰でも買うことができます。今後太陽光発電やEV、蓄電システムがさらに普及することで電気のCtoC市場の活性化が期待されます。当社では家庭内のエネルギーマネジメントデバイスNature Remo Eを扱っていますが、この端末で電気の融通を制御することを想定しています。ユーザーは何もしなくても自動的に売買ができるような仕組みを構築します。

Nature Remo Eの販売はCtoC市場に向けた布石になっているのですね。まずは市区町村などの単位で始まっていくのでしょうか?時期はいつ頃を目指していますか?

一番始めやすいのは、独立した電力系統で運用している離島のようなところです。
託送料金が改定されないと経済的に成り立たないので、時期は改定のスケジュール次第ですが、3〜5年後くらいを想定しています。

託送料金が改定され、CtoC取引をすることで、電気代はどれくらい安くなるのでしょうか?

電気の価格はその時々の状況や制度によって変動しますので、今の段階でお答えするのは難しいのですが、現在の電気代のコスト構造はおおよそ1/3が発電、1/3が送電、1/3がその他です。発電は住宅の太陽光発電になりますので、大規模な発電所の電気よりも多少高くなってしまいます。ですが、託送料金が改定されることで、送電コストが劇的に下がる可能性がありますので、十分にコストメリットを出せると考えています。
電気は究極のコモディティーです。CtoC市場を実現することで、クリーンエネルギーの普及を図りながら安価に電気を供給し、ユーザーにベネフィットを提供していきたいですね。

インタビュー終了後の塩出社長。
インタビュー中は真面目なお顔で、インタビュー後は素敵な笑顔で応じていただきました。

インタビューを終えて

近所で電気を融通しあうというのは非常に素敵なコンセプトだと感じました。クリーンエネルギーは高いという印象がありましたが、発電特性や電気の利用変動を踏まえ、ユーザーが賢く電気を使っていくことで、安価にクリーンエネルギーを普及させていくことができるというのはとても期待したい未来です。

未来サービス研究所 金森

【エネルギー×ITが創る未来】について

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「エネルギー×ITが創る未来」では、ユニアデックス未来サービス研究所員がエネルギー分野で先進的な取組みをする専門家にインタビューし、エネルギーとITの革新によってどのように社会やくらしが変わっていくのか、未来のきざしを探っていきます。

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2021年04月02日公開
(2021年06月02日更新)
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