高齢者のデジタル・インクルージョンはどこまで進んでいるか

Work, Life, +Digital ~暮らしのデジタル化から見える未来

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MIRAI SERVICE - Future Service Laboratory

2022年5月19日公開

デジタル化はビジネスの世界を中心に進んでいると思われがちですが、私たちの暮らしにもより身近に、手軽にデジタルが取り入れられるようになってきました。「Work, Life, +Digital」(ワーク・ライフ・プラスデジタル)では身近な生活分野のデジタル化の兆しを紹介しています。
今回はデジタル社会と高齢者の関係を深めるために注目されている「デジタル・インクルージョン」を取り上げます。

高齢者のデジタル利用の現状

携帯電話ショップで見かけたのは...

先日、スマートフォンの機種変更のため某携帯電話会社のショップに行き対面で手続きをしました。すると、「スマホがうまく動かないから、操作の仕方を教えてほしい」と予約なしの飛び込みでショップにいらっしゃった高齢者の方を見かけました。私がショップに滞在していたのは1時間ほどですが、その間に2名の高齢者の方が飛び込みでいらっしゃいました。残念ながら、「対面サポートは事前予約制なので、予約をお願いします...」と店員さんから断られショップを後にしていましたが、スマートフォンの扱い方に戸惑っているシニア世代の切実さを改めて感じました。

令和3年版高齢社会白書によれば、60歳以上の44.5%がふだんからスマートフォンを利用しており普及率は高まっています(注1)。70歳代の筆者の両親もスマートフォンでメールやLINE、インターネット検索などの基本的な操作はできますが、「LINEでグループを作る」など慣れない操作や複雑な操作になると難しいようで、質問の連絡が来たり、操作すること自体をあきらめたりすることがあります。

アフターコロナでも進むデジタル社会

新型コロナウイルス感染症をきっかけとし、従来型の対面を前提とするコミュニケーションやサービスからデジタル技術を活用したオンライン会議やキャッシュレス決済、遠隔診療などが急速に広まりました。政府もデジタル庁を発足し、マイナンバーカードをはじめとする行政サービスの電子化を加速させています。今後、新型コロナウイルスの感染が収束しても、社会のデジタル化の流れは止まらないと予想されます。

しかし、高齢者にとってこれらのサービスを利用するには障壁があり、デジタル化に取り残される懸念が発生しています。令和3年版高齢社会白書を再び引用すると、日本の高齢者はSNSやインターネットショッピング、ネットバンキング、電子化された行政サービスの利用率が諸外国に比して低くなっています。つまり、情報通信機器を保有しメールやインターネット検索など基本的な操作ができる高齢者は増加しつつあるものの、SNSなどを駆使して多くの人々と交流したり、さまざまなデジタルサービスを享受したりできる段階には至っていないと推測できます 。

情報通信機器の利用内容

情報通信機器の利用内容(複数回答)
※各国の60歳以上を対象とした調査(令和2年実施)。令和3年版高齢社会白書より一部加工して作成

高齢者のデジタル・インクルージョン

高齢者のデジタル活用支援の取り組み

デジタル・インクルージョンとは、「誰もがデジタルテクノロジーを安全・自由に活用できること」を意味します。高齢者に関しては、総務省が2020年度から「デジタル活用支援員推進事業」を開始し高齢者のデジタル活用を支援する諸団体に対する助成を行っています(注2)。この事業を活用して、携帯電話会社や地方公共団体などがスマートフォン利用に関する講習会を開催しています。デジタル活用支援員推進事業のホームページから、お住いの近くで講習会を開催している団体の検索ができます。

また、高齢者のデジタル利用を支援する民間のスタートアップも誕生しています。2020年に設立された株式会社MIHARUは「60歳からの出張スマホ講座」を提供しており、スタッフがマンツーマンでスマートフォンの使い方を教えています。スタッフは高齢者にとって孫にあたる世代が多いそうですが、こうした若い世代を高齢者の生活支援に派遣するサービスは海外でもpapaなどが注目されています。

デジタル活用支援のコツは?大学生に聞いてみました!

それでは高齢者へのデジタル活用の支援は、具体的にどのようになされているのでしょう。

筆者が所属するシニア社会学会社会情報研究会では、「デジタル社会に必要なシニアの情報リテラシーとは?」をテーマに研究活動を続けています。研究会のメンバーが、有償ボランティアで高齢者のデジタル活用をサポートしている大学生を知っているということで、お話を伺ってみました。

【高齢の方へ、スマートフォンなどデジタル機器の操作を教えるときのポイント】

・カタカナ用語が伝わりにくい
たとえばWi-Fi、Bluetooth、ギガ、などが伝わりにくかった。Bluetoothの場合、「無線」と理解されている方がいれば、「青い何か」だと思っている方もいる。このようなカタカナ用語を使うときは、「自分たちも初めてスマートフォンを使ったとき、わからなくて親に聞いていたな」ということを思い返しながら、相手の気持ちになって違う表現を考えるようにしている。たとえばWi-Fiなら、「アンテナのないアンテナ」、「世界中の人とつながる手段」と説明したこともあった。

・スマートフォンのタップに慣れていない
長押ししないと反応しないと思っている方が多く、ボタンを押すように画面を押す傾向にある。強く押してしまい、かえって反応がうまくいかないことがある。また、指先が乾燥していたり、汗をかいていたりして反応が鈍くなることもあるので、「手を洗って、拭いてから操作しましょう」と遠巻きに反応がよくなるようお伝えすることもあった。

・どんな操作を教えてほしいと頼まれるか
電話やメールの仕方など基礎的なことも頼まれるが、「チラシにYouTubeのQRコードがついているのでそれを見たい」などの応用的なことを聞かれることも増えている。電話とメールのみであれば、スマートフォンの購入時に携帯ショップの人に教えてもらえば一人でもできるだろう。そこからGoogleアカウントを作る、YouTubeのチャンネルを登録する、Zoomをしたいなど、操作したいことの幅が広がってくると、気軽に教えてくれる誰かのサポートが必要になってくる

・デジタルサポートをして良かったこと
将来は高齢者関係の仕事に就くことを希望しているので、高齢の方が理解しにくい言葉などを知ることで、高齢者への話し方や言葉づかいの練習になる。
また自分自身はiPhoneを使っているので、Androidやらくらくスマホなど機種が変わると大変で、調べながら教えている。しかし、もともとパソコンなどの電子機器が好きなので、いろいろな機種に触れることがプラスになっている。自分の機器にはない新しい機能を見つけると、楽しい発見で、勉強になる。

一緒に楽しむことがデジタル・インクルージョンへの近道

「誰一人取り残さない」デジタル社会の実現のためには、老若男女を問わず使いやすいデジタル機器やアプリケーションなどのUIの工夫、そして困ったときに気軽に相談できる支援者の存在が不可欠です。
支援に適しているのは携帯電話ショップやスタートアップ、学生ボランティアなどの専門的な組織だけではありません。私たち一人ひとりも、身近な方がデジタル機器やサービスの利用に困っていたら「一緒に新しい機能を触って、楽しんでみよう!」という前向きな気持ちでサポートをすることが、デジタル・インクルージョンへの近道だと学生さんへのヒアリングを通じて感じました。


(注1)内閣府「令和3年版高齢社会白書」全体版
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2021/zenbun/03pdf_index.html
(注2)総務省「デジタル活用支援令和3年度事業実施計画 等」
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu02_02000306.html

(未来サービス研究所 八巻睦子)

※記載の会社名、製品名は、各社の商標または登録商標です。
※自治体・企業・人物名は、取材制作時点のものです。

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2022年05月19日公開
(2022年05月19日更新)
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