ご近所で電気をシェアする!IoTで消費者間での電気のシェアリングプラットフォームを目指すNatureの取り組みとは?
【エネルギー×ITが創る未来 vol.8】
- 環境
2021年04月02日
- カーボンニュートラル
自然への想いとコンピューターサイエンスの知識を活かし創業
もともとは情報系で大学院までコンピューターサイエンスを勉強していたんです。父親もITエンジニアで、楽しそうに仕事をしているのを見ていましたし、僕自身子どもの頃からプログラミングを書いて遊んでいましたので自然と情報系に進みました。三井物産入社後もユビキタスに関連する事業部への配属を希望していたのですが、ちょうど関連部署がなくなってしまったんです。その時に改めて自分の興味を振り返ってみたときに、自然というキーワードが浮かびました。僕は自然が大好きで、大学院卒業前には3カ月間ヨットでの洋上生活をしたこともありました。自然に関連して今後花開く領域は何かと考えたときに、クリーンエネルギーに行きつきました。
はい。ですがその頃インドネシアのカリマンタンの炭鉱に行き、小型飛行機で上空から炭鉱を見る機会がありました。小さな村の横に広大な地面をえぐりとって広がる石炭鉱があり、想像を超えた規模の採掘機や輸送機が動いていました。また、石炭鉱の現場では事故も多く時には亡くなる方もいらっしゃいます。空から眺めながら、これまで当然のように使っていた電気はこのような犠牲の上に成り立っているのだと改めて認識し、本当にこれでよいのかと大きな違和感を覚えました。
その同時期に日本では東日本大震災による福島原発の事故が起きました。そこで再度世の中のエネルギーがもっと分散化されたクリーンエネルギーにシフトしていく必要があると考えるようになりました。
三井物産入社前から将来は起業することを考えていたので、クリーンエネルギーに関連した事業を起こそうと考えるようになりました。ただ、ベンチャー企業がクリーンエネルギーの発電に関わるのはちょっと重たいですし、送配電も手が出しづらい。その中で、電気を使う一般消費者に向けたビジネスであれば可能性があると考えました。もともとコンピューターサイエンスを専門としてきましたから、IT技術を使って住宅内の電力を制御するようなことができるのではと考えました。
制御対象としては家庭用エアコンが適していると考えました。赤外線リモコンを作ればほとんどの機種に対応できますし、家庭の電力消費の多くをエアコンが占めていますから、世の中に与えるインパクトも大きい。そこで、赤外線でエアコンを制御するスマートリモコン「Nature Remo」を開発しました。
発売当初は新しいもの好きなイノベーター層に注目していただきました。最近ではユーザー層が広がり、育児中のご夫婦やペットを飼っている方などが、快適に便利に暮らしたいという想いからご購入いただくことが増えてきています。
「Nature スマート電気」でもっと賢い電気の使い方を促進!
在宅時間が増えた分、家の中をもっと便利にしたいという方が増えているようです。住宅内をIoT化するためにNature Remoをご利用いただいています。
今後コロナからの経済回復が進むにつれ、カーボンニュートラルに対する世界からの注目度は一層高くなっていくと考えています。当社としてもクリーンエネルギー100%の世界を目指す中で、2021年3月より電力小売り事業「Natureスマート電気」を開始することとなりました。
多くの電力会社では電気料金の単価をあらかじめ決めていますが、Natureスマート電気は市場の電気の価格にあわせ30分ごとに単価が決まります。このような電気代の設定方法は「ダイナミックプライシング」と呼ばれていて、電力自由化が先行している欧州では広く採用されています。電気の利用が多い時間帯は電気代が高くなり、少ない時間帯は安くなります。そのため、電気代が安い時間に意識して家電を使っていただくことで電気代を節約することができます。
2021年5月には、Nature Remoと連携し、電気料金が安い時間に自動でエアコンなどが稼働できるようになります。住宅の電気代の中でもエアコンの割合が大きいので、エアコンを効率的に動かすことで電気代の削減効果が高まります。
はい。そのような仕組みをデマンドレスポンスといいます。電力需給と電気料金を連動させることで、各消費者が電力のピークタイムを避けて、電気を使うようになります。それが、火力発電などの余分な稼働を抑えてカーボンニュートラルに寄与するからです。
安い時間帯に電気を使えば安くなるし、高い時間に使えば高くなるという、他の産業では昔から導入されている市場原理を受け入れ、うまく活用することで、これまで以上に安価に賢く電気を利用することができるようになります。Nature Remoを活用することでそれを自動化させることができますので、消費者が負担を感じるようなこともありません。
目指すは電気のシェアリング!クリーンエネルギーを賢く活用するプラットフォームを構築
将来的には電気のシェアリングプラットフォームを構築することを目指しています。家の中で不要な電気をご近所の別の家に融通するようなイメージです。当社はそれを実現するための電力のCtoCプラットフォームを構築していきたいと考えています。
送電にかかる費用を託送料金というのですが、現在は距離によらず一定額です。ですが、実際は送電線を作るのにコストがかかっていますから、距離に応じた価格になるべきです。高速道路もそうですよね?現在託送料金の見直しへの声が高まっており、グローバルな流れをみても将来的には距離を考慮した価格設定になることが予想されます。
売る側はそうですね。太陽光発電で発電した電気や、EVや蓄電システムに貯めた電気で余っている電気を販売します。買う側は誰でも買うことができます。今後太陽光発電やEV、蓄電システムがさらに普及することで電気のCtoC市場の活性化が期待されます。当社では家庭内のエネルギーマネジメントデバイスNature Remo Eを扱っていますが、この端末で電気の融通を制御することを想定しています。ユーザーは何もしなくても自動的に売買ができるような仕組みを構築します。
インタビューを終えて
近所で電気を融通しあうというのは非常に素敵なコンセプトだと感じました。クリーンエネルギーは高いという印象がありましたが、発電特性や電気の利用変動を踏まえ、ユーザーが賢く電気を使っていくことで、安価にクリーンエネルギーを普及させていくことができるというのはとても期待したい未来です。
未来サービス研究所 金森
【エネルギー×ITが創る未来】について
バックナンバー
- 【vol.7】エネルギー事業を軸に地域活性化をはかる「未来型まちづくり」とは?
- 【vol.6】植物のようにCO2を吸い込むコンクリート「CO2-SUICOM(スイコム)」で未来の低炭素社会を創る!(前編)
- 【vol.6】植物のようにCO2を吸い込むコンクリート「CO2-SUICOM(スイコム)」で未来の低炭素社会を創る!(後編)
- 【vol.5】データサイエンスが起こす食料のサプライチェーン改革!社会全体のフードロス削減を実現
- 【vol.4】新型コロナウイルスがエネルギー消費に与える影響とは?新しい省エネ社会に向けて!
- 【vol.3】いつでも、どこでも、だれでもコンセント無しで電源を利用できる未来!ワイヤレス給電とブロックチェーンが創る新しい暮らしとは?(前編)
- 【vol.3】いつでも、どこでも、だれでもコンセント無しで電源を利用できる未来!ワイヤレス給電とブロックチェーンが創る新しい暮らしとは?(中編)
- 【vol.3】いつでも、どこでも、だれでもコンセント無しで電源を利用できる未来!ワイヤレス給電とブロックチェーンが創る新しい暮らしとは?(後編)
- 【vol.2】道路が発電所に!太陽光発電舗装が創る世界初のサステナブルなMaaS社会
- 【vol.1】安価な革新的二次電池が創る「誰でもエネルギーにアクセスできる社会」
関連サイト
- ※ 記載の会社名、製品名は、各社の商標または登録商標です。
- ※ 自治体・企業・人物名は、取材制作時点のものです。
2021年04月02日公開
(2021年06月02日更新)
塩出 晴海(しおで はるうみ)
Nature株式会社 代表取締役社長13才の頃にインベーダーゲームを自作、2008年にスウェーデン王立工科大学でComputer Scienceの修士課程修了後3カ月間洋上で生活。その後三井物産に入社し、途上国での電力事業投資・開発等を経験する。2016年にハーバード・ビジネス・スクールでMBA課程を修了。ハーバード大在学中にNature株式会社を創業する。
お問い合わせ
お客さまの立場で考えた、
最適なソリューションをご提供いたします。
お気軽にお問い合わせください。