ペットボトルの水平リサイクルが創る未来の循環型社会とは

【エネルギー×ITが創る未来 vol.10】

  • 環境

2020年07月28日

  • 資源循環

私たちにとって非常に身近な存在であるペットボトル。一日に1本はペットボトル飲料を買っているという方も多いと思います。飲み終わったペットボトルがどのように処理されているかご存知でしょうか?
 
サントリーでは、使用済みペットボトルを新しいペットボトルにリサイクルする「水平リサイクル」に取り組んでおられます。水平リサイクルをすることで、ペットボトル資源が半永久的に循環することができるそうです。
 
「エネルギー×ITが創る未来 vol.10」では、サントリーホールディングス株式会社で水平リサイクルに取り組むコーポレートサステナビリティ推進本部の北村暢康氏、森原征司氏に、水平リサイクルの取組概要やITに期待することについてお話を伺いました。

北村 暢康(きたむら のぶやす)

サントリーホールディングス株式会社 コーポレートサステナビリティ推進本部
サステナビリティ推進部長

1989年入社。人事、営業、マーケティング、CSR、経営企画、生産各部門での業務を経て、2019年より現職。
サントリーグループの企業理念『人と自然と響きあう』の実現に向け、サステナビリティ経営の推進に取り組んでいる。

サントリー北村氏プロフィール写真

森原 征司(もりはら せいじ)

サントリーホールディングス株式会社コーポレートサステナビリティ推進本部
サステナビリティ推進部 部長

1996年入社。営業、マーケティング、人事を経て2021年より現職。

サントリー森原氏プロフィール写真

使い終わったペットボトルに「またあえる」!ペットボトルの水平リサイクルループとは?

金森  近年、海洋プラスチックゴミが問題視されるなど、プラスチック資源の活用の在り方が課題となっているように感じます。御社では、ペットボトルのリサイクルに積極的に取り組まれているとうかがいました。どのような活動をしておられますか?

森原  当社ではペットボトルの水平リサイクルを推進しています。リサイクル素材や植物由来素材を100%使用したサステナブルなペットボトルを「またあえるボトル」と命名し、2021年4月に「GREEN DA・KA・RA やさしい麦茶」の650ml、600ml製品に採用しました。

金森  「またあえるボトル」なんて夢のある名前ですね。どのような意味が込められているのでしょうか?

森原  当社はペットボトルの「ボトルtoボトル」を進めています。これは使用済のペットボトルから新しいペットボトルを作る、水平リサイクルといわれる活動です。ペットボトルは適切にリサイクルすることで何度も循環する資源だということをお客さまにお伝えするため、「またあえるボトル」と名付けました。

金森  リサイクルすることで何度でもペットボトルとして利用することができるのですね。ペットボトルがいろいろなものにリサイクルされていることは知っていましたが、他の製品にリサイクルする場合とペットボトルにリサイクルする場合でどのような違いがあるのでしょうか?

北村  ペットボトルは非常に使い勝手がよく、食品トレーや衣料など幅広くさまざまな用途にリサイクルされています。ですが、ペットボトル以外のものにリサイクルされた場合の多くは使用後に廃棄されています。ペットボトルからペットボトルにリサイクルすることで、半永久的に同じ素材を活用し続けていくことができ、化石由来原料を新しく使用する必要が無くなります。

金森  新しい化石由来原料を使わず、同じ素材を循環し続けられるのですね。現在どの程度のペットボトルがリサイクルペットボトルなのでしょうか?

森原  当社では2011年にリサイクルペットボトルの安全性評価の手法を確立し、2012年に国内の飲料メーカーで初めてリサイクルペットボトルを商品に使用しました。2020年時点で当社製品の26%にリサイクルペットボトルを使用しています。2030年には当社で利用するペットボトルの全てをリサイクル素材あるいは植物由来素材のみとすることを目指しています。当初の計画では2025年に50%を目指していましたが、積極的な活動により3年前倒しし、2022年に50%を達成できる見込みです。

金森  来年には御社で使われるペットボトルの50%がサステナブルなボトルになるのですね。

森原  当社では、2019年にペットボトルリサイクル業者の協栄産業などと共同開発した「FtoPダイレクトリサイクル技術」を実用化しペットボトルをリサイクルしています。この技術により、製造時のCO2排出量を石油由来 PET を使用した製造と比較して60%削減することができます。

金森  素材だけでなく、製造プロセスも環境に優しいペットボトルですね。

消費者、自治体との三位一体で循環型社会を推進!

金森  ペットボトルをリサイクルするためには、使用済みペットボトルを集めてくる必要があると思います。そもそも日本では使用済みペットボトルはどのように処理されているのでしょうか?

森原  海洋プラスチックゴミが世界的な課題となっていますが、実は日本では消費者のみなさまがしっかり分別して処分してくださっていますので、使用済みペットボトルの回収率は9割超、リサイクルされている割合が約85%と、しっかりしたリサイクルの仕組みができています。

北村  特に店頭の回収ボックスや自治体が回収しているペットボトルは、キャップとラベルを外しきれいに洗って出していただいている場合が多いです。一方で自販機の隣にあるリサイクルボックス(ゴミ箱だと誤解されているケースもありますが、「リサイクルボックス」です)には、ラベルやキャップが分別されていないもの、飲み残しがあるもの、ペットボトル以外のものが捨てられていることもあります。こういったものはリサイクルしづらくなります。ペットボトルはうまく分別し回収すれば何度でも循環できるということを、一層多くの方に知っていただけるよう活動していかなければならないと感じています。

金森  自販機の隣にあるのは「リサイクルボックス」なんですね。今お話をうかがって初めて知りました。使用済みペットボトルはゴミではなく、リサイクル資源なのだという意識を持たなければいけませんね。とはいえ、日本のペットボトルのリサイクル率はかなり高い水準なのですね。御社では使用済みペットボトルをどのように調達しているのでしょうか?

森原  2021年2月に当社工場がある兵庫県高砂市を含む2市2町と「ボトルtoボトルリサイクル事業」に関する協定を締結しました。提携自治体が回収した使用済みペットボトルを当社工場で製品にし、東播磨エリアを中心に出荷しています。消費者の皆さま、自治体、飲料メーカーである当社が一体となって循環型社会の仕組み作りに取り組んでいます。

金森  地域内でペットボトル資源が循環していく仕組みができているのですね。

古いペットボトルがどうやって新しいペットボトルに?循環の見える化がリサイクル意欲を向上!

金森  リサイクルにはコストがかかるイメージがありますが、実際のところいかがでしょうか?

森原  石油由来のペットボトルの原材料は原油価格によって上下します。一定ではありませんので一概には比較できませんが、確かにリサイクルボトルのほうがコストがかかる場合もあります。とはいえ、じゃあ安いほうにしよう、というわけにはいきません。サステナブルな社会を作っていくためにそこは踏ん張りどころですね。

金森  短期的な利益ではなく長期的、俯瞰的な視点で取り組んでおられるのですね。水平リサイクルを推進する上で課題になっていることはありますか?

北村  まずはリサイクルの割合を上げていくことです。日本のリサイクル率は約85%と諸外国と比べ高い水準ではありますが、まだまだ向上の余地があります。そして、リサイクルされている中でも、現在はペットボトル以外の製品にリサイクルされているものが多く、リサイクル後に捨てられてしまうと資源の寿命はそこで終わってしまいます。最も効率が良いのは水平リサイクルで回していくことです。水平リサイクルが合理的なリサイクルであるということをもっと多くの方にお伝えしていきたいと考えています。

金森  水平リサイクル拡大のためにITができることはあるでしょうか?

森原  お客さまがペットボトルを手に取っていただいた際に、それがどのような資源で作られたボトルなのか、飲み終わったあとにそのペットボトルはどうなっていくのか、そういったことをもっと見える化し感じ取っていただくことがお客さまへの啓発につながっていくのではないかと思います。

金森  確かに、消費者にとっては分別して回収されたあとにどのような処理をされているのか、よく分からない部分です。循環の仕組みが見える化されることが、分別回収への意欲向上や水平リサイクルの重要性の認知につながりそうです。近年では、廃棄物業界もDX(デジタルトランスフォーメーション)化が進展しています。水平リサイクル拡大のためにITが貢献していけたらと思います。

森原  ペットボトルやプラスチックは非常に使いやすく、循環可能な素材です。それを私たちがどううまく使っていくかが問題です。水平リサイクルという概念をうまく世の中に伝えていき、お客さまとともに新しい社会を共創していけたらと思います。

北村  SDGs、サーキュラーエコノミーといった言葉が話題になっていますが、使用済みペットボトルを正しく分別して処理するといった身近なことから循環型社会が作られていくのだと思います。その流れを当社が牽引していけるといいですね。

インタビューを終えて

ペットボトルをはじめリサイクル可能なモノはゴミではなく資源だと認識を変えていくことが大切だと感じました。循環型社会実現に向け、資源循環の見える化やトレーサビリティー管理など、ITの役割はたくさんありそうです。

未来サービス研究所 金森

【エネルギー×ITが創る未来】について

エネルギーにまつわる市場環境は、今大きな変革のときを迎えています。
 
「エネルギー×ITが創る未来」では、ユニアデックス未来サービス研究所員がエネルギー分野で先進的な取組みをする専門家にインタビューし、エネルギーとITの革新によってどのように社会やくらしが変わっていくのか、未来のきざしを探っていきます。

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2021年07月28日公開

(2021年07月28日更新)

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