廃棄物処理・リサイクル業界を革新!守りと攻めのデジタルトランスフォーメーションで循環型社会実現へ!
【エネルギー×ITが創る未来 vol.11】
- 環境
2021年08月27日
- 資源循環
限りある資源を有効活用しながら持続的な社会を実現する「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」が期待されています。どうすれば資源を十分に循環し経済的にも成り立つ社会が実現するのでしょうか?その方法の一つに廃棄物処理やリサイクルを担う業界の変革があると考えます。
ユニアデックスは、2020年12月に一般社団法人資源循環ネットワーク、大栄環境株式会社と共に、廃棄物処理・リサイクル業界のデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)促進を目的とし、「資源循環システムズ株式会社」を設立しました(参照:「資源循環ネットワーク、大栄環境、ユニアデックス 廃棄物処理・リサイクル分野のDX推進を担う新会社を設立」)。
「エネルギー×ITが創る未来 vol.11」では、資源循環システムズ 取締役 瀧屋直樹氏とユニアデックス DXビジネス創生本部 柿澤至倫に、サーキュラーエコノミーの実現に向けた廃棄物処理・リサイクル業界の現状や資源循環システムズの取り組み内容についてお話を伺いました。
瀧屋 直樹(たきや なおき)
資源循環システムズ株式会社 取締役2010年より東京都環境局にて小型家電リサイクルや国際協力に携わったのち、経済産業省や環境省に出向しリサイクル推進や廃棄物規制の法律、制度立ち上げに従事。2018年よりオリンピック・パラリンピック組織委員会に出向し資源管理を担当するなど、日本の廃棄物・リサイクル業界の仕組みづくりに携わる。
2020年12月より現職。
柿澤 至倫(かきざわ よしとも)
ユニアデックス株式会社DXビジネス創生本部 DXビジネス開発統括部
2020年より現職。廃棄物・リサイクル業界を中心に、下水道、スマートシティーなどの領域でデジタルトランスフォーメーションの推進に取り組む。
循環型社会実現に向け廃棄物処理・リサイクル業界が迎える変革の時!
金森 日常生活の中でごみを出したり、リサイクル製品を購入して使ったりはしていますが、産業廃棄物やリサイクルの業界では、廃棄されてからどのように処理されているのか、どのような企業が活躍しているのかなど、イメージしづらい部分があります。
瀧屋 確かに廃棄後の処理の流れは、普通に生活していると見えづらいかもしれません。実際には廃棄物処理業界は「静脈産業」、製造業など製品を生み出し廃棄物を排出する業界は「動脈産業」と呼ばれており、血液の循環のように静脈産業と動脈産業の間を資源が循環しています。
金森 廃棄物が新しい製品の素材として活用され、循環しているのですね。今回設立された資源循環システムズでは、廃棄物処理・リサイクル業界のDX促進を目指しておられます。この業界でITの導入やDXが進んでいないのには何か理由があるのでしょうか?
瀧屋 中小企業中心の業界構造であることが大きな理由の一つです。日本には廃棄物処理を本業とする企業が約6万社あるといわれています。一部の企業が大規模化する動きはあるものの、海外の大手廃棄物処理業者と比べると規模が小さく、地域ごとに多くの中小企業が存在しています。
金森 企業規模を拡大するのが難しい業界なのでしょうか?
瀧屋 産業廃棄物処理業の許可は自治体ごとに取得する必要がありますので、活動エリアを拡大する際には自治体ごとの許可を取得しなければなりません。また、廃棄物は不要物ですので、排出事業者側は安く廃棄できればよいという考えから、コスト重視で処理業者が選ばれる傾向があります。一方、廃棄物は、生産、消費といった社会経済活動を通じて必然的に排出されますので、市場がなくなることはありません。廃棄物処理業者は、家業としてトラック一台で廃棄物を運搬するだけでも成り立ちますので、そのような中小企業がDXへの投資をするのはなかなか難しい現状があります。
金森 許認可制度やコスト重視など厳しい環境下ではあるものの、仕事量は安定している中で新しい取り組みをしようというモチベーションが働きづらいのですね。ただ、安定しているのであれば現状のままで良いという考えもあると思います。なぜDX化が必要なのでしょうか?
瀧屋 市場はなくならないと言いましたが、循環型社会への関心が高まる中で3R(ごみの発生抑制・Reduce、再使用・Reuse、再生利用・Recycle)が進み、マクロトレンドとしては減ってきています。今後の廃棄物減少に向け、それぞれの廃棄物処理業者が廃棄物処理というサービスに付加価値を高め、他社と差別化していく必要があります。DX化により付加価値の向上が図れると考えています。
金森 付加価値をつけて差別化していかないと、業界全体が先細りしていく恐れがありそうですね。
柿澤 廃棄物処理業界は家業としてやっておられる中小企業も多いのですが、2代目、3代目と代替わりし経営者の若返りが進む中で新しい取り組みに積極的な会社も増えているように感じます。DXにも興味はあるものの何をしたらよいか模索している状況だと思います。
金森 社会的にもサーキュラーエコノミーや持続可能な社会を目指すSDGsが話題になっているなかで、静脈産業側も今変革の時を迎えているといえそうですね。
廃棄物処理・リサイクル業界全体が使いやすい業界標準プラットフォームの構築を目指す!
金森 廃棄物処理・リサイクル業界のDX化促進のため資源循環システムズを設立されたのですね。
瀧屋 廃棄物処理のトータルサービスを提供する大栄環境、廃棄物処理・リサイクル業界の活性化を目指す一般社団法人資源循環ネットワーク、そしてITインフラサービスのユニアデックスが連携することで、業界全体のDX化を推進する中核を担っていきたいと考えています。
柿澤 廃棄物処理・リサイクル業界は汎用性の低いアプリケーションソフトが乱立しており、現状のままではDX化が進展しづらい環境だと感じています。
金森 汎用性の低いアプリケーションソフトが乱立、とはどのような状態でしょうか?
瀧屋 廃棄物処理業者は顧客である排出事業者に対して受け身で業務を進めざるを得ない風土があり、廃棄物処理のトレーサビリティー管理の中核ともいえる電子マニフェスト管理のためのアプリケーションソフトも各排出事業者から指定されたものを使っている場合も多いです。そうなると、一つの廃棄物処理業者が取引のある排出事業者ごとに複数のアプリケーションソフトを使用せざるを得ない状況になっています。将来的なサーキュラーエコノミーの実現を見据え、静脈産業側にとっても使い勝手の良い情報基盤を作っていく必要があります。
金森 まずはどのような取り組みを始めておられますか?
瀧屋 資源循環システムズでは「守りのDX(官民連携DX)」と「攻めのDX(民間主導DX)」を共に推進していきます。
瀧屋 まずは守りのDXに着手しており、業界標準を目指すアプリケーションソフトの構築を始めています。廃棄物処理業務の基本情報を業界横断的にビッグデータとして蓄積できるプラットフォームです。
金森 このプラットフォームを活用することでどのようなメリットがあるのでしょうか?
瀧屋 まず、産業廃棄物処理業者の許可情報を官公庁などがオープンデータ化しリアルタイムに共有できるようにします。現在、自治体が出した許可情報を国が情報公開していますが、更新頻度が低いため、場合によっては依頼する廃棄物処理業者の許認可が切れていた、ということも起こりえます。
柿澤 産業廃棄物は法律で20種類に分類されていますが、実際にはさらに細分化して処理されています。排出事業者は20種類の分類を守れば廃棄できますが、処理業者は細分化された情報があったほうが処理しやすくなります。そのような情報もプラットフォームで共有しながら、廃棄物種類の細分化を業界ルールとしていけたらと考えています。
金森 守りのDXで業界の情報がリアルタイムに共有され、許認可の遵守や廃棄物種類の細分化に伴う業務効率化につながっていくのですね。
柿澤 プラットフォームにデータが蓄積されますので、データビジネスを展開していくことも検討しています。スマートシティーのアプリケーションの一つとしてデータを活用できる可能性があると考えています。
金森 守りのDXを進める上で課題はありますか?
柿澤 産業廃棄物処理業の許可情報は各自治体が管轄しています。それを一つのプラットフォームで情報共有するためには、自治体や国とのデータ連携が必要です。この業界で長く仕組み作りに携わってきた瀧屋さんをはじめ、出資企業3社が協力しあい、業界の成り立ちや役割をよく理解したうえで進めていきたいと思います。
守り・攻めのDXで廃棄物処理・リサイクル業界の付加価値を向上!
金森 攻めのDX(民間主導DX)ではどのような取り組みがありますか?
瀧屋 IoTやAIなどのデジタル技術を活用することで、既存の廃棄物処理事業の業務革新をはかり、処理業者の付加価値拡大やビジネスモデルの変換を促進するとともに、質の高い効率的な資源循環・エネルギー利用を図ることが可能です。
金森 デジタル技術の活用で業務プロセス自体を変えていくのですね。
瀧屋 例えばAIで廃棄物の収集運搬ルートの最適化を図ることが可能です。廃棄物の排出頻度は事業者ごとに異なりますので、収集運搬ルートも毎日変わります。また、運搬車両の積載量、廃棄物の品目、搬入先、道路状況などさまざまな要素を考慮しルートを計画する必要があります。現在、熟練した担当者の経験と勘によるルート設定が一般的ですが、業界ではそれをAIで代替するという動きも出ています。
金森 担当者の習熟したノウハウをAIで誰でも利用できるようにするのですね。
瀧屋 他にも、ロボットによる廃棄物の選別や施設の遠隔管理、廃棄物発電の発電効率向上や未利用廃熱の有効活用などもあります。
金森 当たり前に人手で行っている業務プロセスをロボットやAIで革新したり、現在は廃棄している廃熱を有効活用したりと、さまざまな可能性がありそうです。現状、リサイクルできるものもあれば、廃棄せざるを得ないものもあると思いますので、リサイクル率の向上にも期待したいです。
柿澤 廃棄物がリサイクルされたり、エネルギー源として活用されるためには、きれいに分別されていることが重要です。そういった部分にもシステム的に貢献していけたらと考えています。日本は今後少子高齢化などの影響で国際的な購買力が低下することが予想されます。そうであれば、鎖国していた江戸時代のように、地域資源を徹底活用できる仕組みを構築する必要があると考えています。
金森 廃棄物処理・リサイクル業界のDX化は業界内だけでなく日本の産業全体に良い影響を与えるものだと感じました。最後にお二人のDX化への想いをお聞かせください!
柿澤 廃棄物処理・リサイクル業界の標準プラットフォームを一から構築するということはユニアデックスにとっても非常にチャレンジングな取り組みです。試行錯誤しながら是非成功させていきたいですね。
瀧屋 静脈産業と動脈産業は循環型社会実現に向けそれぞれが役割を担っていますが、現状は動脈産業側が強く対等な関係とはいいづらい状況です。静脈側がDXで新しい価値を生み出したり、リサイクルした再生材を動脈側に供給する製造業の役割を担っていくことで関係性を対等なものにし、廃棄物処理・リサイクル業界の底上げ、成長を図っていきたいと考えています。
インタビューを終えて
排出事業者に対し廃棄物処理業者が受け身にならざるを得ない業界風土があるなか、循環型社会を実現していくには、両者が対等となり有効な資源循環を促進できる業界構造を作っていくことが必須だと感じました。業界の課題や方向性にDXが寄り添い廃棄物処理・リサイクル業界の付加価値向上に貢献できたらと思います。
未来サービス研究所 金森
【エネルギー×ITが創る未来】について
バックナンバー
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2021年08月27日公開
(2021年08月27日更新)
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