「ありがとう」の感謝が環境によい行動を促進!ナッジを用いた「感謝の研究」とは?
【エネルギー×ITが創る未来 vol.12】
- 環境
2021年11月26日
- 資源循環
日室 聡仁(ひむろ あきひと)
NECソリューションイノベータ株式会社イノベーション推進本部 主任
資源循環型社会の実現を目指し、ICT・行動経済学の活用を研究に取り組む。
ありがとうが社会を良くする!向社会的行動を促進する「感謝の研究」とは?
心理学の領域で、感謝には返報性があるといわれています。感謝を受け取った人は何かお礼をしたい気持ちになり、それが社会にとって良い行動、つまり向社会的行動として現れ、その行動を見た人が状況を評価して感謝の気持ちが生まれ、誰かに感謝を伝える。その感謝を受け取った人がまだ向社会的行動をする、というループを描く、というものです。
私たちは感謝の返報性を応用できないかと考え、まずは職域の領域で利用できる「Thanks App」というアプリを開発しました。このアプリを使うと職場などで直接話しづらいときや言葉で伝えるのが恥ずかしいときに感謝を伝えることができます。感謝を伝えることで好ループを生んでいくことを目指しており、ある組織で実証を行い前向きな結果やノウハウを得ることができました。
感謝状が南三陸町の住民の資源循環行動を促進!
資源循環領域の取り組みは持続可能な社会の実現を資源循環の切り口で考えているアミタホールディングス株式会社との出会いがきっかけです。アミタさんは、未来を見据え持続可能な社会を実現するために何が必要なのかを真剣に考え、本業以外にもさまざまな取り組みをしておられます。その中の一つとして宮城県南三陸町でバイオガス施設「南三陸BIO」を導入し生ごみの再生化に取り組んでおられました。
家庭から出てくる生ごみをごみ集積所の専用バケツに入れていただき、それを南三陸BIOと呼ばれるバイオガス施設でメタン発酵させて電気と液肥を作り、電気は施設の稼働に活用、液肥は地元の農家に提供し野菜を作ってもらい、その野菜がまた家庭で食べられて残渣が生ごみとなってまた回収されて、という資源循環の系を作るものです。当時、南三陸BIOをフル稼働できる量の生ごみが回収できておらず、また、生ごみ以外のものも一緒に出されているという悩みがありました。そこで、生ごみの回収量を増やし異物混入率を下げることを目指して感謝の研究を活かす取り組みを進めることにしました。
生ごみの分別に対して感謝をどのように伝えるかいろいろと考えた結果、ごみ集積所に感謝状を設置するというアナログな手法を用いることにしました。スマートフォンでの配信などの方法も考えましたが、南三陸町は高齢化が進んでいるため、スマートフォンを見てもらえないのではないかということ、また、私たちは感謝の返報性において小さく学びを得ながら進化していくということを重要視していますので、もっと手軽にできるやり方はなんだろうと考えた結果、物理的に掲示しようという結論になりました。
一つのごみ集積所に1週間ほど設置して、撤去してまた別の集積所に設置して、ということを繰り返し、計42カ所ほどに設置しました。
感謝状を設置したごみ集積所と設置していないごみ集積所では、設置した集積所のほうがごみの収集量が増加し住民の資源循環への意識がポジティブに変容していそうだという結果が得られました。
取り組みの結果については仮説をかなり検証することができ、思い通りにいき過ぎてびっくりしたくらいです!
苦労した点はこの取り組みの前段階として、生ごみの回収状況のデジタル化を行ったことです。以前は生ごみの回収状況について全体の重さと異物の有無などのデータはありましたが、各回収所のごみの量やどのような異物が入っているかなどは把握できていませんでした。そうなると、感謝状を設置してもどのような効果があったのか分析しPDCAを回していくことができません。そこで、どうしたらごみ収集業者さんに負担をかけずにデータを収集できるか検討し、iPadでデータを登録できる仕組みを作りました。ここに行きつくまでに、トラックでの作業状況を見学させていただいたり、車のどこにiPadを置いたら操作しやすいかを検証したりと、ごみ回収の実態把握や現場で使いやすいデータ収集の仕組みを作り上げるのになかなか苦労しました。初めてこのシステムを動かしたときに不具合が出てトラックを追いかける、ということもありかなり泥臭い作業をしたのが印象的ですね。
日常のごみ出しが生駒市の資源循環と地域コミュニティーを活性化!
南三陸町でのノウハウを他の地域でも活用していきたいということで、引き続きアミタさんと連携し奈良県生駒市で日常のごみ出しを通じた地域コミュニティーの活性化に取り組んでいます。
ごみは生活していると必ず出るものなので、それを起点に人を集めることができるのではというアプローチです。コミュニティーの場でごみを分別して出していただき、そのごみを再資源化します。ごみを出すことで資源循環に寄与できて地域の方とも会えるという良いことづくめの場所です。
ごみを持ってきてくれたらそこに設置してあるディスプレーから感謝のメッセージを流すとともに、持ってきたごみの量をランキング形式で表示し競争要素を加えています。スマートフォンからもその情報を確認できるようにしています。ごみを持ってくるとポイントが付与されて、地域のコーヒーショップでコーヒーが飲めるような仕組みも作り、域内の経済循環を促進しています。
生駒市の自治会長さんとアミタさんが積極的にコミュニティーの活性化を進めておられ、このコミュニティーでコーヒーを飲んだり、地元の方が持ってきてくださったこたつで小学生が勉強したり、DIYが得意な方がコミュニティーで利用できる台を作ってくださったりとさまざまな交流が生まれています。
さまざまな資源循環の取り組みにナッジを取り入れ一人一人の行動を後押しすることで持続可能な社会を実現!
私としてはみんなが無意識に環境配慮行動をする社会になってほしいと思っています。今私たちが環境に対する行動を変えなければ自分たちは良くても将来への負債を作ってしまいます。この負債は若い世代、もっと下の世代に引き継がれることになります。それを防ぐためには私たちが変わっていかないといけません。肘でつついて後押しするような取り組みが有効に働いて、誰もが環境配慮行動をするような未来を創れるのではないかと思っています。私たちのようにナッジに積極的に取り組んでいる人だけでなく、さまざまな人がナッジ施策を自然と使って後押しするようになることを期待したいです。
この取り組みは資源循環領域のデジタル・トランスフォーメーション(以下、DX)の側面が非常に強いと思っています。DX自体がまだまだ浸透しつつある状況ですので、資源循環領域で本当にDX化を実現するにはまだまだ時間がかかると思いますが、それに向けて有益な事例作り、仲間作りをし、将来のビジネス化や先ほどお話したようなナッジでの資源循環促進が当たり前になるような社会を作っていけるようがんばっていきたいですね。
「感謝の研究」はもともとナッジを意識したものでは無かったそう。学会発表の際にこれはナッジだと教えてもらい、環境省のベストナッジ賞コンテストに応募したところグランプリまで受賞されたとか!国の動きに追随したのではなく、たまたま取り組んでいたことが国の注力領域だったというのも社会の動きを的確に捉えた取り組みをされた結果なのだと感じました。
インタビューを終えて
資源循環についてさまざまな施策が行われていますが、その施策を有効なものにするためには消費者一人一人の行動が重要になってきます。環境に配慮するのが良いことだと分かっていてもついつい面倒になってしまうこともありますが、感謝を示されることで自分自身の襟を正し、前向きな気持ちで行動することができそうです。資源循環に関してさまざまなDX施策が行われていますが、ナッジの要素を組み入れることが成功要因となるのではと感じました。
未来サービス研究所 金森
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2021年11月26日公開
(2021年11月26日更新)
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